竹林の森イベント お別れの覚悟
戦場で目を覚ました少女――美紀。
かろうじて生き残ることには成功したが……。
何処を見渡してもいない……。
「いててっ……」
味方はいる。
敵もいる。
どうやら蓮見の一発芸に対して皆耐性がある程度ついたらしく、各々が生き残ることに慣れて来たらしい。
「やっぱりこの程度では負けてくれないか」
「流石にこんなとこで死んだら私朱音さんに怒られますから」
「あはは……なるほど」
「それにまだ戦えるのでしたらかかってきてもらって結構ですよ?」
息苦しい環境の中で平然とした様子の菖蒲の基礎体力はとても高く、立っているだけで汗が止まらない劣悪な環境下でも戦闘に大きな支障がないらしい。
対して爆発を防ぐのにも体力を持っていかれその後に待っている戦闘でもいつも以上の体力を持っていかれる美紀にとっては結構キツイ。
これが自分が将来目指す人たちの力。
そう思うと笑えてくる。
世界は広いのだと、そう思わずにはいられない。
少し遠くには小百合姉妹と朱音が地面が起き上がろうとしているが見る限り軽傷でまだ戦闘に大きな支障はなさそうだ。
姿は見えない。
でもイベントは続く――つまり蓮見はまだ生きているのだろう。
そう思った矢先だった。
菖蒲の後ろで立ち上がった小百合が弓を構え始めた。
その射線上には横たわって動こうとしない蓮見。
「ま、まずい……」
「行かせませんよ?」
菖蒲が立ちはだかる。
後ろの四人の狙いは蓮見。
このままじゃ負けてしまう。
もとより勝つ可能性なんてない相手に唯一勝つ可能性があった予測困難な神災も通じなかった時点でもう蓮見率いるチームに勝ち目は残されていない。
美紀だって本当は心の片隅ではわかっていた。
勝てる可能性なんて限りなく零に近いことぐらい。
それでも現実は甘くなかった。
理想は小百合と勇者を倒し完全勝利を得た中で賞品を手に入れることだった。
だけどその……理想はどうやら叶わないらしい。
「申し訳ございませんが、これで終わりです、紅さん」
小百合の一撃が蓮見に向けられた。
「紅!」
思わず叫ぶも反応すらしてくれない。
きっと爆発のダメージをどれだけ軽減できたかの差で三姉妹は眼、朱音はスキル、だとするなら蓮見は根性だろうか。もしそうなら各々が受けるダメージ量は違って当然。もうこの戦いは終わり……そう思った時だった。
「させない!」
エリカが蓮見の盾になるように身を盾にして守る。
「エリカ!」
「……ッ……どうやらここでのようね。ったく里美?」
「…………」
「いつまで紅君のためを思って手を抜いているの?」
弱々しくなる声でエリカが言った。
身体を貫通し突き刺さった矢が徐々にHPを削っていく。
「えっ?」
「スキルまだ殆ど使ってないでしょ? 里美は夢が一番って言っていたけど本当はまだ躊躇ってるんじゃないの?」
「そんなわけない!」
「本当に? 私にはそうは見えないな~。気付いているんでしょ、この先紅君と一緒にゲームをする時間は殆どなくなるって。自分がこのイベントでその切符を手にしたら学校どころじゃなくなるって」
「そ、それは……」
「夢と恋……どっちも大事……気持ちはわかるわ。でもいい加減どっちかにしなさい。紅君は里美の活躍を願って、今回も精一杯背伸びをしたの。紅君が言ってたわ。里美の成長を止めているのは俺だって……だから……後悔しないように今を楽しみなさい……勝った負けたじゃなくて紅君のように後のことはその時に……かん……が……えなさ……ぃ……」
光の粒子となってエリカが消えた。
仲間も立ち上がるも全員消耗が激しく、もう立っているのが限界のようだ。
神災――それをその身で何度も受ければこれが普通。
いや生き残ってる時点でかなり優秀。
それでも平然としている化物が目の前にいるからそれがかすんで見えるだけ。
だったら美紀が今最も体力を残しているのは――ただの偶然なのだろうか?
美紀や仲間、そしてライバルがいたから蓮見はここまで強くなれた。
そんな蓮見に絶対に追う抜かれないようにと意識していた自分は気付けば強くなっていた?
ならエリカが言った――俺が成長を止めているとは――。
あっ……思い当たる節が一つだけ。
多分これ以上の強敵はもう来ないと言うこと。
なぜなら朱音が来てしまったから。
エビで鯛を釣るように蓮見ではこれ以上の大物はもう釣れないし、後何回釣れるかも怪しい。
そう考えると……。
「もしかして紅……私のために……ずっと頑張ってたの……?」
なにも答えない。
ピクリとも動かない巨体の蓮見。
ふとっ美紀の目から涙。
蓮見が作りあげたこの状況――偶然?
今は自分だけが戦える。
これほど絶好のチャンスはあるだろうか?
都合よく解釈する脳に美紀は涙が止まらなくなる。
もしエリカが言った言葉にエリカの性格を反映させると。
「お別れ……の覚悟……してたんだね紅。気づいていたんだ………。でもそうだよね……夢が叶えば叶うほどずっと日本にはいられないだろうし……学生を続けることも難しくなるって……ちょっと考えれば誰でもわかるもんね……」
そう考えると辻褄が合う。
普段は絶対に最後まで温存する切り札をこんなにも早く使い、その切り札級の物もこれだけの急ピッチで使った理由が――。
蓮見は最初から勝つつもりなどなかった。
その狙いは――自分を礎にして皆の活躍場の作ること。
残念ながら基礎体力や運などの目に見えないステータスが作用して自分だけに絶好のチャンスが来たのだが、蓮見は死にかけながらもそれを実現するために戦っていたのかもしれない。
なら勝てなくてもアピールには持ってこいなのかもしれない。
「本当にバカなんだから……私だってアンタに初恋さえしなければ今頃……とっくの昔に自分だけのことを考えて動いていたわよ……」
奥歯を嚙み締め、手に力が入る。
覚悟は決まった――そう、、、本当は嫌だけど……お別れの覚悟が――美紀の中で決まった。
「ごめんね、紅。そしてありがとう。スキル『覚醒』」
目に力が戻り、全神経を集中させる。
それは――遠くにいる朱音や小百合たちを警戒させるほどに。
白いオーラを纏った美紀の表情に笑みはなく、あるのは勝つか負けるかの勝負。
この瞬間、好きな人との楽しい時間は終わりを迎えた。




