竹林の森イベント 蓮見 VS 巫女
近づきながら液体を口にする蓮見。
相手が格下ならともかく格上となる以上、リスクなしで勝とうなんて甘い考えは捨てる。それに今回は援護はエリカ以外期待できない。だからこそ、腹をくくる。
「あれは使用者のHPゲージを強制的に一にして残す言わば特殊アイテム。それを口に‥‥‥‥なるほどそう来ますか」
小百合が蓮見の狙いに気付く。
「お姉様!」
「落ち着いてください」
「‥‥‥‥はい」
「神災モードと呼ばれる彼の速さは私たちの通常状態を軽々上回ります。しかし落ち着いて冷静に対処すれば私たちの方が有利ですし、私たちにもソレはあるですから」
同じく神災モードの小百合の言葉に納得した様子の優香と優奈。
「お姉様の言うとおりです。優香もそう思わないかしら?」
「はい。お姉様方の言うとおりだと思います。慌ててしまい申し訳ございません」
「気にしないで下さい。彼を相手にすると、そうなる気持ちは私が理解していますので」
蓮見は現状できることを考える。
既に竹林の森の改変に使用回数制限があるスキルの多くを費やした。
故に残された手はそんなに多くなく、そこから小百合シリーズに有効的なスキルとなれば使える物はさらに少なくなる。
その中で小百合に勝つ方法。
そこで蓮見はまず一つ。
過去何度か対戦した中で、小百合と優香に対して有効だったと思われるスキルを使うことにした。
「聞こえる、聞こえるぞ! 神の声が!」
なんとも安っぽい台詞だが今の蓮見にはそう聞こえるらしい。
普段は女子大生をしている女の声は蓮見の思考回路の一部を操作し始める。
「敵が異世界から召喚の術を使うならこちらも俺様戦隊を召喚するのだ、と! 今こそ俺は知った! 神よ、俺は、俺は、俺は……まだまだ戦えると! ウオオオオオオオオオオこい俺様戦隊!!! スキル『毒の霧』」
スキル『毒の霧』を使い、敵の視覚を奪う。のではなく派手な登場シーンを作るためだけに使われた。毒煙の中から小百合たちの目と鼻の先に登場するのは――。
「世界が赤く燃えるその日救世主現るその名は俺様戦隊レッド!」
このゲーム世界で最も有名にして危険分子とも呼べる戦隊。
そのため観客席のプレイヤーたちが「「「はっ?」」」「「「んっ?」」」と思わず口にするが本人は本気でそう思っているらしく堂々と口にしていく。
「世界を破壊する悪は絶対に許さない俺様戦隊ブルー!」
「皆が望む明日の平和の為今こそ立ち上がる俺様戦隊イエロー!」
「「「三人合わせて俺様戦隊紅レンジャー、ただいま参上!!!」」」
ドドン!
最後はエリカが爆薬と太鼓を鳴らしてそれらしい雰囲気を作る。
「全部ブーメランになってるのは言わない方がいいわね……あはは」
が、蓮見の頭上では誰にも聞こえないぐらいに小さい声で呟くのであった。
だけど第四回イベントで悲劇の前兆として恐れられた神災を扱う者達がここに集結した事実に小百合が弓を構え矢を引き早々と狙いを定め始める。
「ようやく来ましたか。分身の中でも最も厄介な分身二人が」
「優香、優奈! 行きますよ!」
「「はい! お姉様!!!」」
ここから先はいつも誰にも予測不可能になる。
水色のオーラを纏い、後一撃でも受ければ死ぬ蓮見。
だけど誰もが言葉を介さず知っている。
この男に一撃いれるのが死ぬ程大変であり、仮に入れても悪魔の如く耐えてくるのだと。
「ってもう来るのかよ!?」
三方向から矢が放たれる。
スキルを使ったわけではない。
それでも空気を切り裂きながら真っ直ぐに飛んで来る矢は三本などではなく連続して攻撃してきたため既に十本前後になっている。これらは全て蓮見とエリカの急所そして蓮見が逃げようと動くであろう場所にそれぞれ狙って放たれていた。
それをいち早く察知した二匹の神災竜が逃げ道に迷う蓮見とそれを見て慌てるエリカを護るようにして素早く一歩前に出る。
「ブルー!」
「オッケー、イエロー!」
「「スキル『咆哮』!!!」」
大きく息を吸い込んだブルーとイエローが取り込んだ空気をいっきに吐き出す。
空気が振動し聞けば思わず耳を塞ぎたくなるような振動音で矢を全て無力化。
だけどすぐ優香と優奈が小百合を中心に左右それぞれに広がる。
「やはりこの程度では足りませんか――」
「「「――スキル『朱雀の矢』!!!」」」
三人が再び矢を放つと三本の矢がそれぞれ炎を帯び巨大化していき、三本の矢がそれぞれ頭部、左翼、右翼の中心部となるように炎が瞬く間に大きくなり巨大な鳥の姿に変化し四人へ襲い掛かる。
直感を通して悪寒に駆られた神災竜が大空を飛び回ると蓮見とエリカの後ろを追いかけてきた。
「チッ……、やっぱり追尾式かよ……」
全速力で逃げる蓮見の後を同じ速度で追いかけてくる巨大な鳥――朱雀は神災モードの蓮見と同じ速度を持つ言わば超高速追尾性能を宿した物だと知った蓮見は振り切るための急旋回や左右に不規則に繰り返し動くことで振り切ろうと試みる。
「まだ付いてくる……」
簡単には振り切ることができなかった。




