まだまだ最速で行くぜ!
反応が一瞬遅れるも美紀とルフランがフォローのために動こうとするが今からではフォローが間に合わないと苦い表情を見せる。他のメンバーもそれに続くが誰一人敵の奇襲に対して迅速に反応ができなかった。
これが致命的な結果にならないで欲しい、と必死に願うメンバーたち。
「――あっ……」
蓮見が遅れて自分の身に危険が迫っていることに気付いた。
大きく見開れた黒い瞳は後二~三メートル程度で矢が自分の心臓を貫く位置にあると視認する。
瞬間――全身に鳥肌が立つ。
――♪・♪・♪・ぶ・ち・か・ま・せ・♪・♪・♪
――誰もが唖然とする進化した俺様の連鎖式の一撃を♪
――放て・神速の一撃を♪
「逃げて紅君!!! 上からも攻撃がきてるわ!!!」
俊敏性に長ける綾香に担がれ敵の攻撃範囲から逃げるエリカが大声で叫んだ。
既に正面、右前方、左前方の三方向から大量の矢が雨の如く集まったメンバーたちの頭上に向かって飛んできていたのだ。
蓮見の奇襲に対し敵が取った行動。
それは奇襲。
蓮見が矢を使いミサイルのようにして大火力のミサイルを武器としたように敵は数の暴力に任せた百を超える矢を一斉射撃することで反撃にでてきた。
誰一人防御のためのスキルを使わないのはこれだけの数の矢を同時に放つことができる相手が三人しかおらず、その三人が蓮見と同じ特別な眼を持っていると知っているからである。矢の先端は全て燃えており、まるで蓮見がしたことのやり返しのようだった。このままでは全員がバラバラになってしまう。そしてその前に蓮見が死んでしまう。そう誰かが思い始めたタイミングで蓮見の心臓を最初に飛んできた矢が貫通した。
「紅~! 早く逃げて!」
慌てた美紀の言葉に蓮見が「へへっ」と笑う。
HPゲージが一になった彼の身体に纏わりつくオーラと自動発動スキルが蓮見に力を与える。
これを世間は神災モードと呼ぶ。
「やっぱり……遅過ぎるぜ!」
にやっ。
脳内を爆音で流れる音楽に合わせて蓮見が戦闘ギアを一気にあげる。
足の裏に溜めた力を爆発させ後数センチの所まで迫って来ていた矢を軽々と躱し、そのまま目にも止まらぬ速さで自ら開拓した炎の海の中へ姿を消す。
「なっ――速い!?」
ルフランでも驚く速さ。
「ッ!? 今までの比じゃないだと?」
ソフィの度肝を抜く速さ。
「想像以上だ……この速さ……どうなってる」
対人戦闘を得意とし多くのプレイヤーを見てきたラクスでも戸惑う速さ。
「やっぱりもう進化してたんだね、紅」
何度見ても圧倒させられる速さ。
そんな速さを手に入れた男が炎の海の中を爆速で駆けながら声をあげる。
「ミズナさん! I love mizuna! カモン! your power!!!」
日頃の本業の成果がこの世界でもハッキリと目に見えてしまった。
本人が言いたいことと周りが翻訳し解釈するであろう意味に差がありそうな言葉ではあるがいい加減これでも聞きなれ始めたいつものメンバーにとっては連携を取るには問題がない。ただ――それでも嫉妬という別の何かが数名の中に生まれるのは仕方がないことなのかもしれない。逆に七瀬はそれでも少し嬉しいのか表情が柔らかくなる。
「任せて! スキル『爆焔:chaos fire rain』!」
上空に巨大な魔法陣が出現。
やられたらやり返す。と言わんばかりに蓮見。
「俺様疾走伝説の舞台は炎と灰が舞う漆黒の世界! そのために今度は邪魔な障害物を全部吹き飛ばす! そうすれば三姉妹がどこに隠れていようが丸見えになって里美たちが後はなんとかしてくれるはずだし昨日約束した里美任務も達成できる! だったら俺様がやることはただ一つ! スキル『罪と罰』『水振の陣』アンド『虚像の発火』!」
七瀬の力を借り、スキルを使うことすらなく自らの足で矢が当たるより速く安全な場所を見つけては移動を繰り返し続ける男は一瞬の躊躇いもなくその矢を巨大な魔法陣に向けて放つ。
腕に自身がある者たちが何とか矢の雨の隙間を縫うようにして蓮見の後を追うようにして敵陣の方へ進もうとしていることなど一切考えずに。ましてや味方が優秀過ぎるために次の一手を打とうとしていることすら確認せずに。
巨大な魔法陣は味方の遠距離攻撃を十倍にして放つ効果を持つ。
今蓮見が放った矢はスキルを使い強化され通称水爆を発生させる矢。
それが数を増やして今度は矢が飛ばされたであろう地点を山勘で検討をつけそこに向けて放った。
それが意味することはただ一つ。
前代未聞の速さで敵味方関係なく瞬殺しても可笑しくない爆発が生まれたこと。
イベント開始から僅か五分ほどで大地を破壊し巨大なクレーターを作りあげる爆発をほぼ同時に十か所で発生させ、大地とサーバーが早くも大声で泣き始める。沢山の灰となった木が粉々に粉砕され空へと巻き上げられ巨大なキノコ雲の中へ消えていく。痛々しい傷跡を残しながら、チラチラと不規則に見える何かは誰かの叫び。これ以上はちょっとマズイと。
だが男はこれで満足しない。
一人静かに呟く。
「これで向こうの方は地面を大きくえぐったし結構ふにゃふにゃしたはず。後は大量の水を持ってきて俺様究極全力シリーズ究極《海底》超新星爆発でフィニッシュだな」
そうだ――蓮見は地殻に対してもこの後全力で攻撃し前回のイベントの最後に使ったアレをもう一度再現しようと考えていた。
イベント開始から十分を持たず――終わるかもしれない。
それは二つ以上の物理的な意味で。
耐えられなければ――終わるからだ。
そんな誰もが想像すらしていなかった光景を見ていた者たちは。
過去最大級の速さと威力で連鎖式にぶっばなされる神災に観客は口をぽかーんと開け目を点にしているだけだった。誰も言葉がでない状況はどうやらイベントの進行役兼解説者であるアナウンサーも同じのようだ。
AIの理解すら超える力を手に入れルンルン気分で後先考えずに本能の赴くままに暴れる蓮見を前に果たして味方と小百合シリーズはまだ生きているのだろうか。




