勘違い
ゴクリ。
蓮見は身の危険を肌で感じ、思わず息を呑み込んだ。
「みみみ、みき……みきさま……め……めが……なんかこわいですよ?」
顔は笑っている。
だけど目だけが笑っていない。
そんな表現が似合う相手が目の前にいる蓮見は部屋の中を見渡しなにか武器になるような物がないかを確認する。
だが下手に動けば言い逃れが逆に難しくなるかもしれないと言うジレンマに縛られた身体は武器《漫画》を取りにいくことも逃げることすら躊躇いその場から動こうとしない。
まるで目に見えない縄に全身が縛られたように。
気付けば美紀の存在を忘れるぐらいまで電話に集中した結果が招いたこの状況。
この場合朱音の言葉に惑わされ乗せられたと言っても過言ではないのかもしれない。
しかし原因とも呼べる朱音は当然この場にはおらず、自分で対処する以外に方法はない。
「それで誰と結婚するって?はすみぃ」
想像も付かないぐらいに低い声が響く。
まるで答えによっては容赦はしないと言わんばかりに。
たしかに人によっては通じない冗談もあるのだが今の蓮見には何が冗談で何がセーフなのか検討が付かない。既に頭の中はパニック状態で美紀が何に対して嫉妬して怒っているのかわからないからだ。人によりけりだが思春期真っ只中の女子高生にとっては好きな人との未来の話などは男子高生が考えているより遥かに重く重大なことだったりもする。故に蓮見は美紀の本質に気付けないでいた。
「そ、それは‥‥‥‥」
「ん?聞こえないよ?」
蓮見の正面までやって来てはその場で両膝を折って座る美紀。
二人の距離は手を伸ばせば届くほどに近い。
よく見れば何かを期待しているようにも見えなくもない笑みの美紀。
「もしかして怒ってる?」
「怒ってないよ。それで誰と結婚するって?」
「本当に?」
「うん。それではすみぃ質問の返事は?」
「‥‥‥‥」
部屋が沈黙に包まれる。
答えに困る蓮見。
なぜ美紀がこの手の質問をするのかわからない蓮見にとってこの状況は非常に気まずい。
人妻に手を出そうと‥‥‥‥あっ!
蓮見がふとっ思い出す。
朱音が離婚したことを美紀は知らない。
だから人妻に手を出そうとしている自分を問い詰めているのだとようやく美紀の質問の意図を把握した蓮見は心の中で助かった~と安堵する。後は朱音との約束を守りながらどう回避するかを考える蓮見は頭の回路を焼き切る早さでフル回転させる。




