俺様実は難を引き寄せる天才なのかもしれない
だけど、と男は思う。
勝てない相手だから勝負を諦める。
それは間違っていると。
勝てないから勝つまで挑戦し、勝つまでの過程がまた楽しいのがゲームだと。
確かに時には苦しい時もあるかもしれない。
でもその先にある達成感や幸福感はその苦しみを一瞬にして吹き飛ばしてくれる。
だからこそ蓮見は心の中で思う。
――へへっ、俺様究極全力シリーズはまだまだ発展途上。
次は必ず決めてやるぜ!
あれだけの大敗をしておきながら蓮見の心は折れていなかった。
きっと負けてもすぐに立ち上がる強さを持っているのは日頃から修業と言う名の苦行でいつも同年代の女の子にボコボコにされるうちに身についたある種のスキルなのかもしれない。
「でも世界を壊す勢いで放った一撃ならお母さんにダメージを与えられますよね?」
「悪いけど二度目は発動兆候が見えた時点で止めに入るわよ? 流石に初見だとどう対処するか迷うけど一度見てしまえば後はどうすればいいかわかるし」
その時、蓮見が悪い笑みを浮かべた。
そうだ――思い付いてしまったのだ。
朱音に対抗する突破口と言うまた新しい技を。
「ですよね。だったら俺と一つ勝負しませんか?」
「勝負? 一体なにをするの」
朱音が興味を見せたのがなんとなく声でわかる。
「そもそも要求は? 別に勝負じゃなくてもダーリンの頼みなら聞いてあげないこともないわよ?」
「俺が勝ったら美紀をなんちゃらオブワイルドとかいう大会に招待して欲しいです」
物覚えが悪い蓮見にとっては普段聞きなれないゲームの名前を覚えるのも一苦労なのだがなんとか記憶を掘り起こしてそれらしき名前を口にする。
「もしかしてCOWのこと?」
「あっ! それです!」
朱音の言葉にはっ! と反応する蓮見。
聞けば思い出す程度にはまだ記憶があるようだ。
「う~ん、美紀ちゃんは確かに強いけど……まぁ、今回次第と言った所かしらね」
悩んでいるような声を出してはいるが、最近よく朱音とは話していたためか蓮見はこの時すぐにわかった。朱音は決して悩んでいるのではなく、建前上そう言っているのだと。蓮見はともかく蓮見よりかなり強い美紀ですら朱音がいる世界から見たらまだまだ実力不足なのかもしれない。そう考えればなんとなくだけど納得がいく。
「でもどうして自分じゃなくて美紀ちゃんを招待して欲しいの?」
「それは簡単です。美紀が夢への第一歩に近づく数少ないチャンスだからです」
「ふ~ん。でもその隣にダーリンが立っているとは限らないわよ?」
「それでも構いません」
「そっかぁ。ならまぁ考えてあげてもいいけど、実力を証明しなさい。それが条件よ。今の美紀ちゃんじゃ正直駄目。もっと今までにないぐらいに強い美紀ちゃんをもし見ることができたら私が推薦して招待してあげる。それならいいかしら?」
流石にコネだけで上手く全てのことは運ばないらしい。
ただ少なからずこれで次のイベント中朱音が美紀を審査と言う名目で見るようにはできた。後は美紀次第。そう考えれば今の蓮見が美紀にしてあげられることはできたのかもしれない。
「はい。ありがとうございます」
「は~い。なら私がダーリンのお願い聞いたんだし、私のお願いも聞いてくれるわよね?」
あれれ~、そのパターンだったんですか?
などと考え黙る蓮見に朱音が言う。
「竹林のモンスターを倒してもう一度私の前に立ちなさい。そこで私がダーリンに求めることはただ一つ。私に”死”を突きつけなさい。もしそれが出来たら私はダーリンを認めてあげるしさっきの件、ダーリンのお墨付きってことで気持ち程度だけど他のメンバーにも美紀ちゃんのこと後で紹介してあげるわ。それが勝負の内容でいいわよね?」
にやっと笑みを浮かべる蓮見。
「ただしもしできなかったらダーリン来年卒業したら私のお婿さんに来なさい、ふふっ♪」
「えっ!?」
笑みが崩れ目が大きく見開れ、つい声が裏返ってしまった蓮見。
ここで考えてもいなかった一生イチャイチャし放題プラスアルファで紐生活が送れるビックチャ……。
「ほ、本当ですか!?」
「勿論♪」
「やっt……あっ……みきさ……ま……」
声に詰まった。
驚いた直後に別の驚く事態が目の前で起きたからだ。
どこから聞いていたのか。
そもそも電話に集中して全然気付かなかったが、少なくとも美紀が扉の前で満面の笑みで突っ立っている状況に一切気付かなかった自分を今すぐにでもぶん殴りたい蓮見。喜ぶところを間違えた蓮見の背中に流れる汗はきっと……。
「あっ! 美紀ちゃん聞こえる~?」
スマートフォン越しにとても大きな声で朱音が声をかける。
どうやら蓮見の反応からなにかを察したらしい。
「ダーリンね、私にリベンジするんだって。でね、もし勝負に負けたら私のお婿さんになることになったのよ。その時は結婚式ちゃんと招待するから安心して待っててね♪ ならダーリン愛しているわ、またね~♪」
最後は一方的に楽しみ、大きな爆弾を残した朱音の声が聞こえなくなった瞬間、美紀が満面の笑みのままゆっくりと蓮見に近づき始める。




