一旦ログアウト
あれから頭を下げ美紀に夜ご飯を作ってもらったあげく洗濯と部屋の掃除までしてもらった蓮見は部屋で聞いていた。
小百合がどれだけ大きな話を自分に持ちかけてきたのか。
そしてそれがどれだけありえないことか。
もっと言えば自分をよくからかっていた人物がどれだけ凄い人なのか。
美紀の説明を聞けば聞くほど驚きを隠せない蓮見は途中から口をぽかーんと開けて目が点になっていた。
だけど……それも長くは続かない。
なぜなら蓮見の脳は美紀の言葉にフリーズして考えることを途中で止め、話の途中から内容を理解することから再起動することに全ての力を注ぎこみ、結果として話は前半部分までしか聞いておらず後はなんとなく……聞いていた。という結果を生んだからだ。
この手の話に弱い人間に強くなれと言っても疲れるだけなのは美紀も知っており、途中から蓮見の表情から、いつものパターンね、となにかを察した美紀は半ば諦めながらも少しでも伝わればと心の中で願い全てを話し席を立ち今は部屋にいない。
「そう言えば美紀のやつ……気分転換込みでお花つんでくるって言って出て行ったけど俺の家に花なんてないのになにを言ってたんだ……??? ついに疲れで頭が可笑しくなったのか?」
とはいっても、すぐに戻ると言われたので特別後を追いかけて止めたりはしない。
そんなことがあり、新しい疑問が芽生え再び理解に苦しみ始めると、それを合図にするかのように突然スマートフォンが鳴った。
ん? 疑問に思い蓮見が画面を見ると朱音からの着信だとわかった。
「もしもし?」
「あっ! ダーリン?」
「はい。急に電話なんてどうしたんですか?」
「聞いたわよ♪ 挑戦受けたのね。ふふっ、なになに~? 私に負けたのがそんなに悔しかったの?」
とても上機嫌で嬉しそうな声がスピーカーから聞こえてくる。
あはは、と苦笑いしかでてこない蓮見。
対して朱音はどこか楽しそうに語りかける。
まるでこの時間をずっと待っていた子供のように。
「それとも私に会いたくなった?」
相変わらずテンションが高い。
蓮見は今朱音がどこにいるのか知らない。
国内なのか外国なのか。
それすら知らない。
そんな感じで謎に包まれた女性の声にクスッと笑う蓮見は「へへっ」と笑う。
「ですね」
難しいことは一切考えずに、
「だってまだゲームオーバーじゃないですから」
と、ただ真っ直ぐな気持ちで答えた。
「うん?」
「こうしてリベンジまたすぐにできるってことはまだ俺とお母さんの戦いは終わってないって思うんですよ。だから俺はまだ退くわけにはいかない。それに――」
蓮見はさっき難しい話を聞いていた時の美紀の純粋無垢な笑顔を脳裏で思い出しながら。
「――夢への大きな一歩をここで踏み出せるかもって美紀がとても嬉しそうだった。だから俺はお母さんや小百合とも戦わないといけないんです」
「ふ~ん、でもそれはダーリン自身のことより大事なことなの?」
「当然! 美紀がいなければ今の俺はここにいないし、美紀がゲームに誘ってくれなかったらきっと今頃エリカさんや七瀬さんや瑠香そしてお母さんともこうして仲良くなれなかったと思うんです。だから俺は美紀に恩返しをしなければならないんです」
「娘の次は美紀ちゃんのためってダーリンはそれでいいの?」
「はい。俺にとって現状最強のラスボスはお母さんです。そのお母さんに挑戦できるなら俺にとって理由はどうあれプラスですから」
「あはははは!!!」
大笑い。
それもスピーカー越しでもはっきりとなぜかイメージできてしまうくらいに愉快に笑う声が蓮見の耳に聞こえてくる。
見なくてもわかる。
朱音はきっと目から涙を流しているのだろうと。
「ラスボスにラスボスって言われる日が来るなんてね、あはは~。それになになに? あれだけ力の差を見せられてまだ私に勝つつもりなの? その威勢の良さが若さから来るものならそれはそれで大事にしなきゃよ!」
「ん? ラスボス?」
「なんでもない~よ♪ まぁ挑戦は受けるんだけど、そんな数日で私に勝てるほど私は甘くないわよ?」
そんなことは実際に手合わせした蓮見が一番わかっている。
現状蓮見の全てをぶつけても朱音には届かない。
ましてや奇跡が起こっても今のままでは勝ち目がないことぐらい。
それくらいに蓮見の感じた朱音との実力差は大きかった。




