心が安定を求め彷徨う
そんな蓮見を見て何を思ったのか美紀が腰を上げ少し身体の位置を調整する。
「でもこんなに可愛い幼馴染が今隣にいるんだし、贅沢言わないの」
「これは贅沢じゃない! だってよく考えて見ろ!」
熱い視線を向け、情熱的に訴えかける蓮見に小首を傾ける美紀。
それから二人の視線が重なる。
蓮見の黒い瞳には疑問を抱えた美紀の姿が写る。
「俺だって普通の男子高校生。普通男子高校生と言えば文武両道に恋愛と様々な青春を謳歌するのが普通。なのにだ! 俺には彼女の一人もいなければ、候補となる女子すらいない! それは不公平ではないか? せめて俺にも選ぶ権利ぐらい欲しいと思ってなにが悪い!」
「…………え?」
「なに?」
「それ本気で言ってる?」
「おう!」
「…………世界って本当に良く出来ているわね、はぁ~」
なにかを確信めいたように美紀がため息混じりに答える。
「まぁ、期待するだけ無駄か」
そのまま蓮見の足を自分の手を使い伸ばした美紀は身体の位置を調整し、自分の頭を蓮見の太ももに持っていく。
それを見ていた蓮見は「うん?」と話の流れについていけない。
蓮見は知らないからだ。
美紀やエリカを含む一部の者が自分に異性としての好意があることを。
だからこそ理解に困った。
そんな蓮見を見てなにを思ったのかクスッと笑い「ばぁ~か、さっきのため息に特に意味はないし、これはただのスキンシップよ。だから気にしないで」と美紀に言われそのまま納得してしまった蓮見は「まぁ、いいか」と呟く。
「そう言えば蓮見」
「なんだ?」
「朱音さんと連絡って取ってるの? 七瀬に聞いたんだけど合宿終わってあの人すぐに外国に戻ったらしいのよ。それでなにやら少し忙しいらしいんだけど、蓮見とはどうなのかなって思って」
「それは――」
蓮見が答えるより先にスマートフォンが音を鳴らして返事をした。
ポケットからスマートフォンを取り出すと、奇跡的なタイミングで朱音からのLINEが届いていた。
口で説明するよりこれは見せた方が早いと今来た通知を美紀に見せる。
「なんだ蓮見とは取ってるのか」
「美紀は取ってないのか?」
「うん。それで何てきたの?」
画面のロックを解除してメッセージの内容を確認する蓮見とそれを見ては答えを待つ美紀。
二人だけの部屋がほんの少し静寂を生む。
「…………」
「…………」
反応に困った蓮見は黙ったまま、画面を美紀に見せた。メッセージにはこう書かれていた。
『少しの間仕事でバタバタするけど、終わったらまた会いに行くからそれまで寂しいだろうけど辛抱してね♪』
と。




