二人の社長
会議室に残った二人の男は責任者を務める男の背中を見送った後手元に用意されたお茶を静かに飲み一息ついた。
「これで本当によかったのか?」
年老いた男は横目で親友であり某会社の社長を務める男を見る。
「此処に来る前……敢えて厳しい言葉をかけて欲しいと言われたから言ったものの私はどうもあの男が気の毒にしか思えないんだが?」
「ほほっ!!!」
友人の言葉を聞いた社長が笑う。
「いいんじゃよ、あれで! あぁーでもしなければアイツは私に気を使ってばかりで窮屈な環境で仕事をすることになる。それなら今本当はどうしたいのか、なにを求めているのか、それを聞き提供する事でよりよいゲームへとわが社の商品が進化するように仕向けるのもまた一興よ。あはは~」
「予算なぞ最初から気にしてない人間がよくもまぁ私に予算の話しをさせたものだ」
「いいじゃないか。これで【神紅の神災者】とアイツが作った小百合シリーズが暴れて見物人としては最高のショーを見れるのだからな!」
「やれやれ」
高らかに笑う社長を見た年老いた男は小さく首を横に振った。
「その【神紅の神災者】は先ほど朱音に負けたことに関してはどう思っている?」
年老いた男は【神紅の神災者】ファンの社長に問う。
「それは残念に思っておるが?」
「失望ではなくか?」
「当然。人間誰しも負けるときは来る。それは社会においても例外ではない。勉強に運動やゲームと言った様々な分野で言えることだ。全ての分野で完璧な人間等この世におらんからな。だが――」
ニヤッと笑う社長に年老いた男は「うん?」と少し興味を持つ。
ただの友人の負け惜しみが入った戯言ではないと判断してだ。
「――勝っても謙虚に上を目指し、負けても次こそはと謙虚に上を目指す。そして常に自分の心に正直でどんな状況でも楽しそうに笑う【神紅の神災者】に私は見惚れたんだ。今まで誰もがしなかった道を歩むのには勇気がいる。大抵の場合はその道は間違いに続いており大衆はそれをなんとなくで感じ取っては否定する。数あるその道のどこかに万に一つの正解の道が合っても全てを否定することで自らを肯定する。もしくはあると知っていてもその道を歩むことで勝ち戦を負け戦にしてしまうリスクが高いと歩むの躊躇う」
「……それで?」
年老いた男は座り直しては身体の向きを社長の方へと向ける。
「だけど【神紅の神災者】は逆だ。万に一つの道を探しては歩むのではなく気の向くままその先が正解不正解関係なく進む。そして歩んだ道にある結果全てを【神紅の神災者】は自分にとって都合の良い道へと変える力を持っているんだ。それは彼の真価が発揮され神災が牙を向くことを意味する。だから見てみたいのだよ。彼がどこまで常識の枠にはまらずに進化するのかを」
「なるほど」
年老いた男は頷く。
息抜きがてらに聞いた話は年老いた男にとっては少し意外だった。
だが時間は有限。
ということで、まずは今日ここに来た本題を先に終わらせるため――先ほど責任者が会議室を出ていく時にした話題へと話の内容を変えた。
後日二人の男を中心に運営陣が本格的に動き始める。




