明かされる言葉の真意は刃となる
提示板が蓮見の話題で盛り上がりを見ている頃。
現実世界ではログアウトした蓮見が朱音と一緒に別荘のベランダに来ていた。
美紀たちは敵の情報収集は大事ということでイベントが終わったばかりだと言うのに早速スマートフォンを使い公式サイトにアクセスしそこからゲームと連携している提示板の監視を皆でしているので今は近くにいない。
そもそも蓮見とはゲームに対する熱量が違う。
例えるならガチ勢とエンジョイ勢ぐらいの違いと言えばいいのだろうか。
なんにせよ蓮見は美紀たちが自分たちの意思でそうしたいというなら止める理由はないのでお手洗いに一人行き部屋に戻る途中朱音に声をかけられ、そこでゆっくりとお話ししない? と誘われたのだった。
「イベントが終わったばかりだと言うのに休む暇なく次の戦いにもう備えている幼馴染はやっぱり魅力的かしら?」
「そうですね~。魅力的ちゃ魅力的ですけど、なんていうか」
二人横に並んでベランダの手すりに身体を預ける。
二人の距離は年が離れたカップルや姉弟のように近い。
心理学的に考えるならそれだけお互いに心を許している証拠。
出会ってからの短期間で色々なことがあった。
その度に同じ境遇を経験し同じ時間を共に過ごした。
だからこそ二人が出会ってからの時間は短くてもある程度はお互いのことを理解することもできたとも言える。
「なに?」
「美紀もですけど、エリカさんや七瀬さんや瑠香も活き活きしているな~って感じで少し羨ましく思いますかね」
「そうね。美紀ちゃんは文武両道……と言うかもう気付いているかもしれないけどかなり容量のいい子よね」
「はい」
「ちゃんと自分の能力を理解し自分に何ができ何ができないのか、自分と言う存在にちゃんと目を向けてよく理解してる。いいこともわるいことも全部纏めて嫌なことからも目を背けずに前を見て未来に向かって歩いているわ」
「…………」
急に難しいことを言い出した朱音に対し、蓮見は静かに聞くことにする。
大抵こう言った時はなにか意図があると判断してのこと。
蓮見が黙って次の言葉を待っていると朱音が遠くの空を見るようにして視線を外へと向けた。
「その未来にダーリンはいるのかしら?」
「ん?」
首を傾ける蓮見。
「イベントの時にふとっ思ったのよ。ダーリン昔に比べると成長止まってきてるんじゃない? 今までは一人で考えて成長してきたことはエリカちゃんからよく聞いていたし私自身もそれを少し見てるから知ってるわ。だけど今はエリカちゃんの入れ知恵や誰かの助けが合ってダーリンは強くなってる。ただ――」
言葉を詰まらせる朱音。
遠くを見ていた視線が蓮見へと向けられる。
なにか言いにくそうな仕草を見せながら。
「その先に待っているのは停滞だと私は思うわ。実際に私はダーリンだけの成長ってのはここに来て止まってるように見えるの。それを今は仲間の力を借りて乗り越えてる。それはべつに悪いことじゃない。だけど私が見るに美紀ちゃんを始めダーリンは気付いているか知らないけど七瀬と瑠香も今の自分に足りないものは何かを自分で考え自分なりの答えを見つけて持って日々少しずつ成長してるわ。だけど今のダーリンにはそれがない。誰かの入れ知恵で手に入れた力は完全なオリジナルじゃない。だとするなら私ならダーリンをもうハンデがある状態でも攻略できるわ」
お互いの信頼関係を下手したら崩しかねない言葉は気持ち小声ではあったが、はっきりと聞こえた蓮見は動揺する。
薄々感じていた自分だけの力――オリジナリティがなくなっていることには実は少し前から自分でも気付いていただけにその言葉は心の中で響いた。
「なにが言いたいかって言うとね、私がダーリンに惹かれたのはダーリンだからこそ思い付くであろう作戦を実行し成功する度胸とそれを支える強運。先が読めない相手ってのはその人が強い弱い関係なく敵として戦うなら一番厄介な武器なの。対峙する者は目の前だけに集中したくても常に予測不可能な現象にも対処できる余裕を残すことを余儀なくされるわ。言い方を変えれば全力を出せない。故に警戒を怠たれない分そこにある一定の神経を使わされ目に見えない体力や判断力、集中力と言った物が常時削られていく。その心理的負荷を与える武器を今のダーリンは自らの手で自分で考えることを止めて手放しているように見えるわ。例えばエリカちゃんの頭がいいことを私は知っている。だったらエリカちゃんが考えそうなことを考えればダーリンのまだ誰にも見せたことがない切り札が仮に合っても比較的簡単に予想でき未然に防ぐことができるの。ここまで言えば流石にもう後はわかるわね?」
「……はい」
「そしてエリカちゃんは今のダーリンに扱えないはずの力を扱えると信じて技を考案している。ダーリンはそれを使う度に自分もボロボロになっている。でもそれは必然。エリカちゃんは昔のダーリンの成長速度できっと色々と考えているから」
恋は人を盲目にし、好きな人をより良く見せる不思議な鏡を自分の中に持っていたりすることを朱音は知っている。
それはエリカも例外ではないことを。
大学生の女の子なら年齢的にも朱音から見ればまだ子供なのだから。
「だけど実際はその成長が停滞している。でもダーリンと言う本質的な部分に焦点を当てればまだデメリットを無視すれば扱える範疇でもあるわ。でもこのまま成長が停滞したままならエリカちゃんがくれる甘くて強い飴が自らを殺める毒となり今隣にいる三人の女の子たちとの実力差はさらに明確な物へとなっていくわよ? そうなったらきっと今のダーリンじゃ隣に立つことすらできないんじゃない? ってのが私が言いたかったことの全てよ。もちろんこれは私がそう感じただけであってただの杞憂かもしれない。だけど杞憂じゃないなら私は失望したとこの場合はっきり言うべきかしらね。自らの最大の武器を捨てたダーリンの魅力は落ちて当然だもん……少し一人の時間が必要そうみたいだし私先に戻ってるわ」
真剣な表情で話す朱音に最後までなにも言えなかった蓮見は奥歯を噛みしめながらゆっくりと遠くなっていく背中を静かに見送ることしかできなかった。
無意識にできた拳に力が入り震えているのはきっと……。




