迫りくる集団
一言で言うなら、エリカの言葉を聞いた蓮見がメンタルブレイクされた。
「相変わらず面白い子ね~」
「そうだね。それでお母さんはどさくさに紛れてなにをしてるの?」
「なにって見てわからない?」
七瀬の視界の先では、神災狐となった蓮見の身体に飛び乗って最早死体と変わらない大きな身体の上で大の字で寝転んでくつろいでいる母親の姿があった。
毛並みは良くても先ほどの大爆発の影響で身体は結構汚れている。
だけど朱音はそんなのお構いなしで無防備にくつろいでいた。
「いや……わかるから聞いてるのよ。そこ汚れない?」
「汚れたらダーリンに責任取ってリアルで身体洗ってもらうから大丈夫よ」
「それ言ってて恥ずかしくないの?」
「ミズナと違って身体には自信があるからね~。要は、長所は長所、短所は短所、じゃないってことよ」
一枚上手の朱音にこれ以上はなにを言っても無駄だとため息を吐く七瀬。
そもそもリアルと言うことは現実世界でということだろう。
「お母さん!!!」
この人には口では勝てないと諦めモードの七瀬の隣で瑠香が叫ぶ。
「なに?」
「お母さんだけずるい!!!」
「ならルナも来たらいいじゃない。結構開放的でふかふかしてて気持ちいいわよ」
「わかった」
七瀬は汚れるのが嫌なので行く気にはなれないが瑠香は朱音の誘いに乗り同じく寝転がって布団《神災狐》の感触と煤煙が舞う黒い色の空を大の字で長めながら身体に悪い空気を吸い今の世界を全身で感じ始めた。
辺り一面隠れる所がないこの場所でもし敵に襲われでもしたらと考えると、朱音と瑠香の行動は他の三人の感覚とは少しずれているのかもしれない。
あるいは多少汚れても気にしないし、何があっても対処できるという自信がそうさせているのかもしれない。
もしそうなら、とても頼もしい。と三人は思うだろう。
「ところでミズナ?」
「なによ里美?」
「さっきから向こうに復活した雷撃の閃光がいるんだけどもう戦意喪失みたいなんだけど」
「あ~、あんなところに。それがどうかしたの? 交戦の意思がないなら今はそっとしておきましょう」
「そうね。それで今の私たちの順位ってどれくらいかわかる?」
美紀の言葉に「う~ん」と腕を組んで考える七瀬。
今まで倒した敵の数から大雑把に計算して、
「確実に上位入賞圏内にはいると思う。ここでお母さんとルナの下敷きになっているコレが放った究極全力シリーズの二発で少なく見積もって三百人は葬ってるだろうから」
「やっぱりミズナもそう思う?」
「うん」
「なら慌てる必要もないか」
その言葉に「ほっ」と胸に手を当て一安心のエリカ。
流石にこの状態の蓮見をここに放置しておくわけにはいかないので、先を急がないなら美紀たちが例えどんな敵が護ってくれると思ったのだ。
その時だった。
――お兄ちゃん。
……なんだ?
――もう終わりなの?
……もう限界。
――メールもっとお兄ちゃんの活躍みたい!
……そう言われても身体に力がな、、、
ドクン。
ある者の心臓が力強く鼓動し始める。
同時。
しばらくは一安心と思っていた一同の元に百人を超える集団の影が迫っていた。
視界が悪いため、まだ誰も気付いていない集団の影の目的は一体なんなのだろうか。
「ちょうどいい。ここで【深紅の美】と【雷撃の閃光】どちらもまとめて倒し優勝を手中に収めるとしよう」
あるギルドリーダーがそう呟いた時、復旧した提示板ではあることが囁かれていた。。。




