神災者から世界の創造主への挑戦状 後編
「……やっぱり止めろ! それだけはしたらダメだ!」
そのまま責任者は手元の受話器を取り電話回線を繋ぎある人物に連絡を取り始めた。
現実逃避をしても最後は現実と向き合わなければいけないのならと腹を括った。
「はぁ~、俺に家族を護る義務がなければどれだけ良かったことか……」
ポツリと呟いた責任者の言葉にメンバーたちが「覚悟を決めたか」と静かに見守る。
プ、プルルル。
静かな運営室に受話器から微かに聞こえる音が胸を締め付ける。
「ここはアイツに任せて俺たちは俺たちでアレの対処するぞ。幸いダウンはしてない」
男と女がそれぞれ自分の席に座り、大きく深呼吸をして気持ちを切り替える。
「まずはイベントを続行させることを最優先だ」
「了解」
「ゴミの削除はこっちに任せろ」
「処理が終われば自動で復旧するはずだ。要は俺たちの主な役目はそれまでの時間稼ぎ、今出来る調整、第三波対策だな」
「そうね。気が進まないけどこうなった以上サービス残業頑張るしかないわね」
運営室で始まった時間との戦い。
先に蓮見が完全復活してしまえばどうなるか皆が理解していた。
システム上完全に動けないわけではない。
処理が間に合ってないだけ。
つまりパソコンと同じで処理が追いつけば一気に入力されたコマンドが処理された状態になるということ。
だからこそ蓮見が動く前にこちらが動くのだ。
「――お疲れ様です。私です。社長少し宜しいですか?」
「どうした?」
モニターの隅に表示された蓮見のステータスとアイテムリストを見ながら責任者が話す。
先手を打って話さなければ間違いなくやられる。
そう感じた責任者は一か八か大きな賭けに出る。
社長に今の状況を怒られる前に次の行動の許可を取り、力技でイベントを成功させて罰を軽くする作戦。
誰だって怒られたくない。
なにより俺たちには――護るべき家族がいる!
からこそ、責任者は家族の未来を護るために平然を装って質問をする。
「弾薬の殆どを失い、体力的にも限界と思われる男をまだ見たいですか?」
「あぁ」
静かな返事は重たい。
「それと普段からそれだけ真面目な君が見たいよ。常日頃から今の君だと私も安心して仕事を任せられるし観戦もできると小言を言っておこうか」
「善処します」
「まぁいい。私はこのまま見てていいのだな?」
(間違いない。社長は今の状況を完全に把握している)
受話器越しにそう感じた責任者は、
「はい。お任せください」
と、言って静かに電話を切った。
そのまま椅子に座り大型モニターに直結されたパソコンと向き合う。
「久しぶりに事後処理本気でやるか」
首を鳴らした責任者が本気で仕事と向き合い始めた。
「マジかよ。アイツの本気久しぶりに見たぞ」
「おぉーホントだ。能力はめっちゃ高いけど普段は頼りなくやる気もない男が本気になるとは珍しいこともあるんだな」
「あんたたち口じゃなくて手を動かしなさい!」
「はいはい、わかってますよ」
「お前がそれを言うのかよ。まぁいいけどさ」
この瞬間。
本気の運営VS疲弊気味の【異次元の神災者】の戦いが世界を越えて繰り広げられることが決定した。
果たして蓮見に第三波はあるのか?
それは誰にもわからない。
だけど最悪を想定し運営が動き始めて数分後サーバーが回復し途中で止まっていた大爆発の余波がイベント専用フィールドを襲った。
その時だった。
ドドドドドドドドドッ!!!
偶然にも五人の目にある光景が映った。
水が枯れ、大地が割れ、青空が黒く染まり、酸素が薄く、熱波が襲う過酷な環境の中で神災狐の尻尾が僅かに動くのを運営メンバー全員が見た。
それは蓮見が余波に巻き込まれてもしぶとく《《生きている》》を意味していた。




