蓮見VS綾香 後編
「へへっ、これで手が四本と九本になったぜ!」
初めての姿にも関わらず神災竜でコツを掴んでいるのか九本の尻尾を全て独立させて自由自在に動かす蓮見。
だが敵味方関係なく大多数は頭の処理が追いついていない。
いきなり現れた化物《化狐》が化物《神災竜》の生まれ変わりであり、今までの三倍以上の速度でアイテムが同時に使用できるようになって……ハイテンション……で……綾香とバチバチやる気満々なこと……ぐらいしかまだ把握できていないのだ。蓮見に対して最も重要なこと――すなわちこの後になにが起こるのかが全くわからない危険な状態となっているのだ。
「しっかり捕まっててくださいよ、エリカさん!」
「は、はい♪」
超強力吸盤を装備したエリカの返事を聞くと同時に蓮見が動く。
直後ジェットコースターを連想させるも、それすら超える重力が二人の身体を襲う。
――神災狐急降下。
「後方支援隊今いる場所から遠距離攻撃で紅を撃ち落として!」
飛んでくる攻撃をわざと受けながら、綾香に急接近。
蓮見のHPゲージはすぐに赤色になる。
HP減少に合わせ火事場系統のスキルが自動発動し水色のオーラが蓮見の身体に纏わりつきステータスが大幅に強化されたことで神災モードとなる。
巨大なだけにただの体当たりでも当たれば、綾香はいとも簡単に吹き飛びダメージを受けるだろう。
仮に後方支援で障壁を使い壁を作られ行き道をふさがれても最早全身砲弾となった蓮見の前では薄い壁程度にしかならず簡単に破れる。それもそうだ。見目形は変わっても蓮見の眼は健在でテクニカルヒットポイントとKillヒットポイントが見えている。どんなに凄く厚い壁があったとしてもそこにピンポイントで頭突きすれば突き破れるのだ。
やはり化物となった蓮見を止めるのは容易ではない。
「ウォォォォォ!」
息を吸い込み炎を吐き出す。
飛んでくる矢を全て焼き払い、飛んでくる魔法の弾を猛スピードで避ける。
「遅い! 遅いぜ! それに見える! 見えるぜ!」
怖いもの知らずの化物を正面から止めるのはやはり容易ではないと綾香の目が本気になる。
「きゃぁぁぁ~凄いわ~!」
化物に乗車した以上途中下車はできない。
ならば、とこの状況を楽しむエリカ。
だが眼前に攻めりくる敵。
その距離体感にして百メートル。
このままで行けば後数秒で蓮見と本気になった綾香が衝突する。
それでも蓮見は臆することなく突撃していく。
「……やべぇ、この距離で凄い圧だ綾香さん」
「援護いる?」
「とりあえず大丈夫です。この身体把握したいんでちょっとだけ俺に時間をください」
「了解!」
心臓がドキドキするのはきっとこの状況を楽しんでいるからだ。
ワクワクするのは向けられた殺気だけで綾香が今まで以上に自分を認めてくれたとわかるから。
なによりこの新しい力を早く試したいと心が叫んでいるから。
「おっしゃああああ! 行くぜ!」
エリカは蓮見を誰よりも信用している。
だから蓮見ならなんとかなると安心している。のだが、その安心感は一体どこから来ているのだろうかとても不思議である。過去の事例を見る限り――。
「アイテムの同時使用が可能になった俺様は無敵だぜ。ってことで俺様全力――」
「まさか今までの九倍速!?」
チラリと首から上を動かして尻尾を見たエリカが何かを察したように呟いた。
九本の尾の先端で掴まれた物を目にすれば容易に想像が付くと。
「――シリーズファンタスティックGOGO!」
蓮見が思い向くまま適当に取り出し尻尾で掴んでいたアイテムの手榴弾、閃光弾、音響爆弾、火炎瓶、聖水瓶、花火玉、鉄球、鉛玉、石ころを綾香へと投げつける。
「うん?」
だけど全て簡単に躱されてしまう。
ならばと蓮見が次の一手を打つ。
すぐ自動で蓮見の意思によって取り出れたお手玉、メンコ、鳥の死骸、龍の粉袋、龍の粉袋、龍の粉袋、火薬、龍の粉袋、時限式爆弾。が第二波として放り投げられる。だが蓮見の場合一部ふざけているようにも見えなくもないとりあえずで出されたアイテムのどれもが全て一撃必殺――Killの可能性を秘めているのだ。油断はできないし性悪としか言えない。
「ふざけてるって感じは見て取れない。ってことは手が空いた所は適当に投げてる感じか。まぁいいや。スキル『パワーアタック』!『アクセル』! 麒麟『雷撃』!」
綾香の召喚獣である麒麟の角がバチバチと音を鳴らし雷の一撃を放つ。
蓮見に向けて放った雷撃が作った道を通るようにして綾香と麒麟が一気に加速し近づいていく。
「へへっ、そうこなくちゃ! なら行くぜ! 俺様《《超》》全力シリーズ、究極大爆発パレード(アルティメットビッグエクスプローション)!」
時限式爆弾が自動タイマーで作動し小規模の爆発を起こす。
爆発は空中に浮遊している龍の粉袋にすぐさま引火し燃焼。
酸素の燃焼速度は速く、一度発火してしまえば途中で消えることはない。
――粉塵爆発。
爆発の規模を全く考えられずに起こされたそれは蓮見が綾香と麒麟と衝突する手前で起きた。
まるで二人の本当の戦いがここから始まるかのように大衆の目を惹きつけるように。
だけど今回の蓮見はこれを準備運動程度にしか思っていない。




