蓮見VS綾香 中編
蓮見の攻撃は既に手の内がバレていた。
「エリカさんすみません。少しの間離れててもらえますか?」
「え? あ、うん」
従来の戦い方では絶対に勝てない相手となった綾香相手に蓮見が目をキラキラとさせて大きく息を吸いこんで吐き出す。
「メール!!! 来てくれ!!!」
ドドドドドドドドドッ!!!
声に反応して地面が揺れ始める。
「確かに今の俺じゃ戦力不足かもしれねぇ! 究極全力シリーズもすぐには打てないからな。でもそんな俺でもエリカさんとメールの力を借りれば切り札を増産することだって可能なんだよ!!!」
噴水のように勢いよく地面から湧き出てくる水はまるで巨大な水柱のよう。
神災竜を中心として円形になるように出現した水柱の一つから海の女王――メールが不敵な笑みを見せて地上へ姿を見せる。
「嫌な予感……いや……これは来るね。スキル『召喚獣』――麒麟」
同時。
天空から太い稲妻が空中にいたプレイヤーたちのど真ん中を突き抜け地上へと降り注ぐ。
そのまま目に見えない階段を駆け上がるように跳ねながら、まるで愛くるしい小動物の仕草を見せながら綾香の元へとやってくる。
「あれが綾香の召喚獣。単純な強さなら最強クラス……紅君……」
エリカが綾香の行動に注意しながら、心配の目を蓮見に向ける。
「ヤッホー♪ 下準備終わったよ、お兄ちゃん」
そんなエリカとは対照的なメール。
幾ら蓮見の火力が底上げされたといっても最大火力は間違いなく落ちている。
そんなことはメールもわかっている。
それでもワクワクした無邪気な笑顔を蓮見に向けている理由がエリカにはわからなかった。
「メールちゃん……この状況わかっているのかしら。水属性攻撃を得意とするメールちゃんにとって雷属性攻撃を得意とする麒麟は天敵なのよ」
近距離と遠距離。
水属性と雷属性。
相性が悪い二人。
「ごめんね紅。私の召喚獣は麒麟。だから紅が今さら召喚じゅ――えっ?」
綾香の言葉が途中で詰まった。
息を飲み込む綾香と同じく警戒しガルルと警戒心を見せる麒麟。
雷属性最強クラスの麒麟ですら警戒する相手それが神災。
水の柱から飛び出て大ジャンプをしたメールを追いかけるようにして水柱も蓮見の方へと集まっていく。
「お兄ちゃんーーーー私の愛を受け止めてーーー!」
両手を大きく広げてエリカに悪い笑みを一瞬向けたメールは神災竜の胸に飛び込んでそのまま腕を回して抱き着く。
「おっ? メール今日はいつに増して甘えん坊だな」
これには驚く様子もなくそれを両手で受け止めてあげる蓮見。
「まぁね♪ だってこれからお兄ちゃんと共同作業するからこっちの方がいいかなって」
はっ???
世の中には冗談が通じない相手がいるのも事実。
この瞬間、
美紀――。
七瀬――。
瑠香――。
朱音――。
そして一番煽られたエリカ――。の闘争心が最高値に達する。
その怒りを断ち切るかのように七つの水柱が蓮見とメールを取り込んで一つの巨大な水柱となる。
「なにがくる……?」
皆の言葉を代弁するかのようにボソッと呟く綾香の目は今から起こること何一つ見逃さないと真剣な眼差しを蓮見に向けていた。
もう綾香の目は――蓮見しか見てない。
近くにいる仲間のことすら――もう見えていない。
それだけ集中する相手――つまり。
綾香が認めた――本気になる相手――少し前まで初心者プレイヤーだった男が自分たちと同じ領域に足を踏み入れてきたと。
誰もが究極全力シリーズを意識している。
それと対等の何かが来るのか、来ないのか。
それにさっきメールが言った言葉「ヤッホー♪ 下準備終わったよ、お兄ちゃん」にどんな意味があったのか。もしかしなくても後は蓮見の気分次第なのかもしれない。そんなことが頭の四隅で少しでも過ったらもう気にせずにはいられない。
水柱の中にあった黒く大きな竜の影と人形の影が一つに混ざり合い徐々に形を変えていく。
「……紅君……ちょっと待って……メールちゃんと何をしているの?」
息を飲み込んで。
「そんな……子作り……なんて……う、う、うらy……じゃなくて紅君それはだダメに決まってるわよ! メールちゃんはまだ女児なんだから!」
本音と建前が入り混じったエリカの声は残念ながら二人には届かない。
二つが一つの存在となり新たな希望の光を作りだす。
水柱の中で大きくなっていく影は徐々にその姿を見せる。
大きな尻尾を振り回し、獲物を捕食するため鋭い牙を携えた生き物のシルエットが少しずつハッキリとしていく。
鋭い爪は獲物を狩るため、細い目は獲物を眼力だけで恐怖させる。
口を大きく広げたかと思いきや、水柱を咆哮だけでかき消す力を持った新たな生命体《神災》が蓮見の第四形態の正体。
その外形は狐のようで、尾は九本。
鳴き声は嬰児のようで、よく人を食い人々の世を惑わす悪しき存在とも呼ばれた九尾。
よく情けない声で泣き叫び逃走し、プレイヤーを捕食し、神災で多くの人々を惑わす蓮見にピッタリの姿となったのだった。
ただし背中には巨大な両翼があり、空も自由自在に飛べる。
「うそでしょ……尾全てでアイテムを自動でリストから取り出して掴むことができるなんて」
姿を見せるなり、アイテムを尾にした蓮見に綾香が驚きの声をあげ、驚きながらもその正体が蓮見ならなんでも大丈夫なのかふさふさの毛が生えた背中に興味津々なエリカが飛び乗った。




