ヒーロは遅れてやってくるもんだぜ!
敵をあらかた倒して、嫌な予感がした美紀と瑠香はお互いがお互いに歩み寄る。
そのまま背中合わせになって周囲を警戒しながら意見の交換を行う。
「どうやらレベッカたちがあの集団の大将っぽいわね」
近づいてくる集団に視線を向けて美紀が言った。
「みたいですね。失礼な言い方をするなら普段ならそこまで気にすることはないのですがこの状況では最悪の敵ですね」
「そうね。こちらは既に全力。無駄な体力の消耗は出来るだけ避けたいのにね」
「はい。どうしましょうか。流石にレベッカさん、アリアさん、クレアさん、を同時に相手にすれば消耗は避けられませんし。ここは私が三人の注意を惹きますので里美さんが残りを倒してください」
徐々に追い込まれていく状況に瑠香が決死の覚悟を決めた。
三人の注意を仮に上手く惹けてもそれを援護する者が多少は出てくる。
そうなれば三人の連携を捌きながら他も対処しなければならない。
ここで本気になっても勝ち目は良くて三割程度。
それでも可能性があるなら、とギルドの為に気合いを入れる。
レベッカの実力は一度手合わせをして把握している。
問題はその弟子と呼ばれるアリアとクレアの実力。
「でも、それだとアンタが……」
「構いません。私なら死んでも復活できます。紅さんが既に戦えないとバレるのも時間の問題な以上ここで里美さんまで失えば他のギルドが全力で私たちを狙ってくるはずです。私たちが勝つには里美さんとお母さんという抑止力が百の状態である必要があります。紅さんがいない今紅さんに変わる最大の抑止力は二人しかいません。私とお姉ちゃんではまだその域には達していないから」
ここで全てを出し切る、と覚悟を決めた瑠香の眼光がレベッカたちを捉える。
それは近づいて敵が一斉に動きを止め、警戒するほど。
一言で例えるなら雰囲気が変わったと言うべきだろうか。
目に見えない何かが敵味方問わず圧倒する。
それは集中した美紀とどこか似ている。
「少し見ないうちに成長したじゃない。なら――」
美紀が瑠香の背中を押そうとしたときだった。
――。
『~♪』
――――。
『~♪』
――――――………ッ!!!
戦場の空気が肌を刺激するピリピリとした物へと変わり始めた。
それは【深紅の美】ギルドも【雷撃の閃光】ギルドも関係ない。
全員の肌が感じ取れるほどに。
朱音と七瀬も手を止め、二人と戦っていた者たちも手を止め天を見つめる。
その正体は、突如として出現した巨大な影。
「う、嘘だろ……このパターン……俺たちの所に第二波がくるのか……!?」
究極全力シリーズと言う名の世界の創造主にすら喧嘩を売れる必殺技を手に入れた巨大な竜が大きな両翼を元気よく動かし歌を歌いながらやって来たのだ。
最強ギルドがたったの一撃で壊滅したのだ。
当然自分たちにソレが向けられたらどうなるかは、誰もが理解している。
だから冷や汗が止まらないし、緊張が全身を支配する。
この場において誰が最も危険かは最早問うまでもない。
「……うそ!? 復活はや!!!」
これには流石の七瀬も声を大にして驚く。
「えっ? なに? なんで毎回ダーリンだけは私の想像をこうも簡単に超えてくるのかしら……てか、スキルもアイテムも……ないのよね?」
「そう言えばさっきから私たちにエリカさんの支援がない理由って……」
厳密に言えば全員に支援がない理由でもあった。
四人が突撃してすぐにエリカは蓮見から連絡を受け取り今の状況と今いる場所などを聞かれて質問に答えていた。
そしてアイテムでは持ち込めずとも、原材料なら持ち込める物に関しては空中で調合しアイテムを生成していた。
生産職のみに許されたアイテム補給の術はよりにもよって最恐の二文字が似合う男のアシストになったのだった。
「きゃぁぁぁ~やっと来たぁ!!! 紅君ここよ~ここ~♡♪」
あと一歩のところで振り向いてくれそうで振り向いてくれないという焦らしと色々な意味で危ない刺激を沢山与えてくれる男をどんどん好きになっていくエリカは四人の援護を秒で止め愛する男の為に暗躍していた。エリカの反応からそれを察した美紀、七瀬、瑠香、朱音の四人は(ははーん。全然援護がないと思ったら、アイツ一人だけこうなることを知っていたな?)と心の中でぼやいた。
と、味方からすればまだその程度で終わるのだが、敵からすれば、
「誰だよ報告でアイツの弾薬は底を尽きたッて言った奴!!! どう見てもアレは絶対まだあるパターンだろうが!!!」
「言われて見ればアイツの弾薬が底を尽きた所見たことある奴いねぇ……よな?」
「あ~、いつもないない詐欺で引っ掛かって皆が爆死パターンだもんな」
「総員! 【神炎の神災者】対策を最優先だぁ!!! 遠距離攻撃隊並びに後方支援隊は前衛部隊の援護から拠点に集結し拠点防護壁を可能な限り多重展開!!! 増援部隊は前衛部隊の援護に回れ。モタモタするなぁ!!!」
と、幹部の一人が冷や汗をかきながら大声で指示するほどに大慌ての展開である。これでは幾ら増援が来てもこちらが優勢とは言えないからだ。たった一撃。されど一撃。だけどそれを許したら即刻負けが確定しまうからだ。




