【深紅の美】VS【雷撃の閃光】 後編
作戦通りに敵の注意を引き付けてくれた朱音と七瀬に心の中で感謝しながら美紀と瑠香が敵の本陣へと時間差で向かう。ただし予定より引き付けてくれた数が少ないのも事実。少数精鋭で確実に朱音と七瀬を足止めし残りは次に備える。流石はトップギルドと言った所だろうか。対応も落ち着いており隙がない。
「里美さん。思ったよりキツそうじゃないですか?」
「そうね。でも私たちに退路はないわ。紅が先陣を切った以上私たちにあるのは前進のみよ」
「そうですよね。私たちがここでビビッていては仕方がないですよね」
「えぇ」
「こんな時に聞くのもアレですけど、里美さんは紅さんを良く切れましたね。自分の好きな人がそれを望んだとは言え辛い判断だったはずです。なのにどうしてもう笑っているのですか? なんでもうこの過酷な状況を楽しんでいるんですか?」
瑠香の言葉に美紀が鼻で笑う。
まるで心の中ではもうその答えが出ている、と言いたげな表情を瑠香に見せる美紀。
「信じてるから」
「それはどういった意味ですか?」
「そのままの意味よ。だって私たち仲間じゃない。だったらその仲間が望んだことをしてあげるのも立派な友情だと私は思ったから私は今こうして笑っているのよ」
「そうですか……いい答えですね。だったら私も負けていられませんね!」
美紀の言葉を聞いた瑠香にもう迷いはなかった。
離れていても心は繋がっている。
そう思うことができた瑠香は隣にいる美紀に負けないぐらいこの状況を楽しむことにした。好きな人がいつもしているように自分も。そんな気持ちが瑠香の中で生まれた。
「ぞろぞろとやって来たわね。さぁ、かかって来なさい!」
そう言って急降下を始めた美紀は槍を構え狙いを定め突撃していく。
美紀に負けじとすぐに瑠香も後を追う。
「スキル『パワーアタック』『アクセル』! そして今日はまだまだ行くわよ『連撃の舞』!」
先制攻撃を行う美紀に負けてはいられないと、敵の遠距離攻撃を華麗に躱し敵前衛部隊にあたる近接タイプのプレイヤーとの戦いに瑠香も参戦する。
「私だってやるときはやるんです! スキル『水龍』お次は『乱れ突き』です!」
瑠香のレイピアがピンク色のエフェクトに包まれ力を開放。
俊敏な動きで相手を翻弄し丁寧に攻撃をしていく美紀が持つ槍の先端は敵の血で赤く染まっていく。
それに負けじと瑠香のレイピアをまた敵の身体を貫いて確実にダメージを与える。
小柄な体系を活かし僅かな攻撃の隙間をかいくぐる瑠香はまるで空中を自由に泳ぐ魚のようだ。
美紀と瑠香。
徐々に減っていくHPゲージと減っては回復を繰り返すMPゲージ。
適度なタイミングで二人は敵の動きに細心の注意を払いながら、戦闘中にポーションを飲みHPとMPの量をコントロールしていく。
「スキル『巨大化』あ~ん~ど『デスボルグ』!」
槍を巨大化させ、MPゲージ五割消費し槍を強化する美紀。
正面から突撃してくる敵プレイヤーを一気に返り討ちする作戦だ。
それを見た瑠香はすぐに近くの敵を任せることにした。
「遠距離攻撃隊は私に任せてください!」
「オッケー! ならそっちは任せるわ!」
「はい! これは戦い、私だってやるときはやるんです。一気に距離を詰めます! スキル『加速』『アクセル』!」
そこから更なる加速を試みる瑠香は次なる一手を打つ。
「スキル『睡蓮の華』!」
突撃系スキルを使い推進力を強引に上昇させた瑠香は目にも止まらぬ速さで敵後方支援部隊――遠距離攻撃隊の中心地まで力技で侵入した。
「紅さんがいない今私たちが頑張らないといけません!」
数名の敵を先ほどの突撃で巻き込み、動揺した所を逃さない。
「スキル『乱れ突き』!」
瑠香の攻撃が通り、さっきまで美紀と戦っているメンバーを支援していた者たちの手が止まり瑠香へと攻撃してくる。
「私達にだって負けられない意地があるのよ! スキル『連続射撃3』『虚像の発火』!」
「こ、これは!?」
とても身近なスキルだったために、一瞬驚いてしまう。
だけどすぐに落ち着いて対処へと入り、矢と矢の間を飛んで回避する。
魔法使いの中に混じった数名の弓使い。
これが少々厄介だな、と瑠香は感じた。
だけど美紀の方は瑠香が頑張ってくれているおかげで少し楽になったらしく順調に敵プレイヤーを倒していた。
「ルナー? 大丈夫?」
「あっ、はい! 大丈夫です!!」
思っていたより敵が強く時間が掛かっている。
そのため、美紀が心配して声を掛けた。
流石は【雷撃の閃光】ギルドと呼ばれるだけある。
ただし今美紀と瑠香が相手している敵は第一陣。
先程から遠目に見える待機部隊――第二陣が後方に控えていると分かっている以上ここで無茶をして、無駄に体力を消費すれば後で苦労するのは目に見えている。
ここは体力とステータスとアイテムとスキルなどコントロールできる全てを適切に扱うことが大切。だから時間は惜しいがなにより慌てないことが大切だと美紀も瑠香もわかっている。
それでもやっぱり理屈じゃなく本能が疼けば――。
「ぐはっ!?」
「なんだコイツ急に動きが……あああああああああ」
「く、来るなぁああああああああ!!!」
「きゃああああああ、、、」
身体が勝手に動き、派手なスキルを使わなくても敵を一掃してしまうことだって生きていれば一度や二度はあるのかもしれない。
力尽きて地面へと落ちて行くプレイヤーたち。
そんなプレイヤーたちが最後に見たのは、この状況を楽しんでいると思われる美紀もしくは瑠香の不気味な笑顔。
――しばらくして。
ようやくある程度の敵を倒し、次に行けると美紀と瑠香がそれぞれ思った時だった。
「あれは……援軍?」
「みたいですね」
「ってことは支部からも応援を呼んだってわけね」
「ソフィさんと綾香さんがまだ拠点から出てこないってことは私たちの体力をここで出来る限り削るのが目的っぽいですね」
第二陣を相手するまえに乱入者――【雷撃の閃光】ギルド支部メンバーが戦場へ参戦することが確定した。




