一旦休憩の蓮見
「それで? お兄ちゃんはこの後どうするの?」
何が楽しいのか神災竜の角に近くに落ちている瓦礫を拾ってはぶつけて粉々にして遊び始めたメール。だが、今の蓮見にはそれに反応するだけの体力が既になく、メールがしたいようにさせるしかない蓮見。
「このまま諦める? なんてことはないよね? お兄ちゃん」
「……少しは労わってくれ」
「う~ん。労わってもいいけど、諦めたにしてはね~」
蓮見の姿を見てはなにか思う節があるのか、何かを期待したようにキラキラとした眼差しで蓮見の視界に入るメールはやっぱりどこかこの状況を楽しんでいるように見える。
まるで正反対の二人だ。
一人は体力尽きて死にかけてピクリとも動かない。
一人はまだまだ元気が有り余っており動きに俊敏性が見受けられる。
「なんでその姿を解除しないのかな? って私疑問なんだよね~」
「解除したらもう空が飛べないからに決まってるだろ。もう戦闘機もミサイルもガス欠なんだよ」
「ふ~ん。諦めたならもうどこにも行かないで大人しくしてるだけだから別に解除しても困らないんじゃない?」
「あのな~、流石に隠れる場所すらないこの状況で走って逃げても隠れる所がなきゃどの道捕まるんだよ」
「辺り一面更地だもんね」
「そもそも更地フィールドは俺にとっては逃げ隠れする場所がない天敵みたいなもんだからな。せめて空は飛べるようにしとかないと……とは言っても飛ぶ気力すら今はないがな」
メールが今一度周囲をサラッと見渡して蓮見に聞こえないように小声で「えっ? この更地を作ったのお兄ちゃん……なんだけど???」と呟いた。一見まともなことを言っているように聞こえるが、そもそもの原因は蓮見なわけでメールはこれはフォローできないよ? と心の声が表情に現れるもそれに蓮見が気付くことはない。
いつもと違い中々乗り気になってくれない蓮見の角に落ち着いている岩を拾ってはぶつけて遊ぶメール。
だけど反応がない。
なので、触って遊びながらも片手間に暇つぶしを込めて美紀のスキルを盗み見るメール。
「やっぱりこの人凄いな~。普段使わないだけでどんだけスキルのストックあるんだろ」
メール自身もスキル『盗人ゴブリン』を持っておりフレンドのスキルを一日一回無条件で使うことができる。言い方を変えれば蓮見とフレンドになっていて、同じギルドメンバーの人間ならメールでも確認しコピーが可能となっているのでそれを利用して確認しているのだ。召喚獣はプレイヤー|《主》のステータスやスキルの面を強く受けるのでプレイヤー次第で強くも弱くもなるのだ。
「てかお兄ちゃん……?」
「……なんだ?」
「スキル殆ど残ってなくない?」
メールの言うスキルとは一日の使用制限があるスキルのことである。
「そうなんだよ……これから俺どうしたら良いと思う?」
「まぁ~なんとかなるんじゃない? お兄ちゃん……いつも余り物で俺様全力シリーズ作ってるし今回もなんか適当に新しいの作ったらいいよ。私はそれを見たいかな~なんてね♪」
「まるで料理みたいに言うなよ。幾ら俺だってな無限に作れるわけじゃないんだよ……ん?」
ここで何かに気が付いたかのように、顔をあげてメールを見て蓮見が問う。
「ちょっと待て。メールもしかして里美のスキルリスト見れるのか?」
「う、うん。お兄ちゃんが夏休みの宿題??? とか言う物に振り回されている間に息抜きに里美さんが連れて行ってくれたクエストで一緒に獲得したスキルを使ってならだけど……急にどうしたの?」
「その中に竜みたいに変化できるものはないか?」
「ちょっと待ってね。確認してみる」
「里美の場合、なんでも俺対策で似たようなスキルを最近取り始めたとかなんとかミズナさんから聞いたことがあるんだ。もしかしたらあるんじゃないか?」
メールが確認しているスキルリストを横目で覗き込んでいると、ある物が蓮見の目に入ってきた。
その瞬間――世にも奇妙なことが起きた。
「これだぁ!!!」
そう言ってさっきまで死にかけだった神災竜が大きな巨体を起こし完全復活する。
更地となり、木々が吹き飛び水が枯れ割れた大地の上で神災竜は目を輝かせる。
「よくわからないけど、私たちも行くパターン?」
何かを期待したように問うメールに頷く蓮見は、
「当然!」
大きな羽を羽ばたかせてメールを抱え飛翔した。
この瞬間別の世界の者たちが震える。
「おいおい、まだ頑張るのか……」
「特別賞金あげるからもう勘弁してくれ。次はマジで落ちるって」
などと、イベント参加者と観戦者以外にもこれからの蓮見の大活躍を期待せずにはいられない者たちもいた。
既に多くのプレイヤーの意欲を荒業で削り取り無力化し、その代償として最弱神災竜となった蓮見が次に向かった先は美紀たちが向かったとあるギルドの拠点がある場所。
それは――。




