全てが灰になった世界で
的確とも呼べるエリカのフォローもありなんとかスキル――不屈者の効果で生き残り、仲間を護った蓮見は辺り一面が灰になった世界の中心にいた。
全てを出し切った――。
息が苦しい――。
「はぁ、はぁ、はぁ、……」
心臓の鼓動がいつもより速いのはきっと――。
「終わったわね」
「はい」
朱音の声に美紀が頷き応える。
今ので間違いなく戦意喪失をした者たちがいた。
今までとは違い安易に【神炎の神災者】に手を出せばどうなるかを最強ギルドが身を持って見せてくれたのだ。
そして蓮見は大きく消耗した。
だけど言い方を変えれば……ただそれだけ。
副ギルド長の美紀を倒すにはやはりかなりの力が必要となる。
すなわち蓮見をこの場で運よく倒せても深紅の美ギルドがすぐに滅ぶことはなく、すぐに敗北するわけでもない。
まるでモノクロテレビの中にいるみたいな光景はきっと――。
「――これが紅君の本気」
エリカが小さい声で呟いた。
ようやく力の底が見えた蓮見。
底が見えてしまえば後は――対策されるのは時間の問題。
どの道【神炎の神災者】たる異名が刻む歴史はいつまでも続かないと言うわけだ。
「だけど、これは次から対策されるだろうし次は恐らくこう上手くはいかない。敵は全力で止めにくるだろうから。事実上紅はこれで切り札を失い、殆どの力を使い果たした。そして残り時間と今の状況を踏まえるともう後には退けないことから紅には悪いけど、私たちは攻撃にでるしかない」
「残念です。紅さん。もう少し何か見せてくれると思って期待していただけに」
手のひら返し、と言うわけではない。
七瀬と瑠香の顔はどこか悔しそう。
唇を噛みしめ、声を枯らし、それでも現実を口にする。
仲間だからこそ今ここで嘘を付いても本人のためにならないことを知っているから。
割れた大地の上に着地した蓮見は肩で息をして何も応えない。
既に殆どの気力を使い果たしたかのように、その場に留まるだけでも身体がきつそうだ。
全身から尋常じゃない汗が吹き出し、恐らく焦点すら合っていないだろう目で美紀たちを見ては「へ、へへっ」と笑っているが、どうやら限界が近そうなことには変わりがない。
「これだけのアシストがないともう次が打てない。この技の最大の弱点ね。それともう一つは使った本人がコレってこと」
異常なほどに脳から分泌され全身を駆け巡っていたアドレナリンが痛覚を麻痺させていなければ今頃蓮見は痛みのフィードバックでここにはいない。
優秀な剣が使い手を選ぶように、優秀な技も使い手を選ぶ。
聖剣と呼ばれる代物を対峙したルフランが正しく扱えるのはそれだけルフランの腕があるということ。逆に究極シリーズは蓮見の手には余る代物であり未熟な蓮見には上手く扱えない。
「一応確認だけどダーリンはまだ隠し切り札的な物あるのかしら?」
その言葉に蓮見の身体がピクリと反応した。
メールは干乾びた世界では適応できないため今はいない。
当然美紀たちはメールがどうなったかは知らない。
幾ら仲間とは言え、あの大爆発に巻き込まれていたら肉片の一つも残らないだろうし見つけることはほぼ不可能とも言える。
「あるのならフォローできるけど……ないのなら正直今からのダーリンは見たところお荷物……なのよね」
「あはは、、、、ですよね」
「……えぇ」
「見ての通りです。朱音さん……俺をここに置いてってください」
それから美紀を見て。
「スマン。後は頼んだ里美」
と、蓮見は疲れ切った声で。
「たまには俺のこと気にしなくていいから全力で楽しんで来いよ。知ってたぜ、いつもなんだかんだ俺のこと気にかけてくれてたこと……」
最後はそのまま神災竜のままHPを一残して膝から崩れ落ちていく。
「……ぅ。皆行きましょう」
奥歯を噛みしめ、強く握った拳を震わせた美紀が決断した。
その言葉に静かに頷く一同と「そうだ。それでいい」と心の中で後のことを託し背中をソッと押す蓮見。
――。
――――。
そして蓮見は大爆発の中心地となった場所で一人になった。
動く気力すらない神災竜の口を中から強引にこじ開けて出てくる金色の髪をした女の子はスキルを使い渇いた大地に小さな水たまりを作った。
「お兄ちゃん……大丈夫?」
最早死体と変わらない態勢の神災竜の頭を人差し指でツンツンと突きながら声をかける人魚。
「……大丈夫に見えるか?」
「うん♪」
「……病院に行って頭のネジ締めて貰え」
死にかけの声で冗談を言う蓮見にクスッと笑って、
「冗談を言う元気あるじゃん♪」
と楽しそうに呟く少女はニコッと過酷な環境の中で微笑んだ。




