違和感と高鳴り
勝負を終え、拠点に戻ったリュークは嫌な予感に駆られていた。
「可笑しい。勝ったはずなのにさっきから重要な過ちを犯したようなこの気持ちは一体」
「リューク様。部隊を再編成して【深紅の美】を倒しましょう。ギルド長がリューク様に敗北した今ギルド間の流れはこちらにあります!」
椅子に座り机に両肘をついて両手をオデコに当て悩むリューク。
今まで数多くの者が敗れた神災の象徴を倒した。
なのに倒した瞬間は高揚感が高まり気付かなかったが、少し落ち着いてきたあたりから胸の奥がモヤモヤして気持ち悪い。
「報告では【ラグナロク】と【雷撃の閃光】にも喧嘩を売り敗北。幾ら装備が強化されたとは言えこうも意図も簡単にアイツが負けるのか?」
「リューク様?」
「いや……そんなはずは……」
「安心してください。これは事実です」
近くでリュークをいたわるスイレン。
「確かにアイツの攻撃パターンは最近変わっ――」
声にしてリュークはようやく気付いたかのように立ち上がる。
さっきまで座っていた椅子が背中から床に落ちた。
ガタっと椅子が落ちる音が拠点の中で静かに響く。
その音を合図にリュークが叫ぶ。
「スイレン! 今すぐ幹部を全員集めろ! アイツは負けたのではない。俺たちが今まで倒せなかったから戦い方が変わらなかっただけだ。その結果戦い慣れした俺たちがようやく勝った。だけどそれは勘違いだ! アイツは攻略されるたびに俺たちの常識を超えた方にぶっ飛びながら進化してきた。だからアイツは今まで誰にも攻略されなかったんだ!」
「えっと……つまり?」
「アイツはまだ死んでない! 今回も間違なくすぐに進化して復活してくる! それも四天王なんて生易しい物ではないはずだ! 流れはまだ【深紅の美】にある! なぜなら【深紅の美】には《《アイツ》》がいる!」
叫ぶリュークの言葉の圧に抑えたスイレンはすぐに幹部に緊急招集をかけた。
そして、リュークの緊張感がすぐに【灰燼の焔】メンバー全員へと伝播。
それは開始からまだ三十分ちょっとの出来事――つまりまだ序章。
本編にも入ってないイベントはここから加速し大きく動くことを誰もが確信したから。それはきっと敵味方問わず【神炎の神災者】がこんな所で終わらない、という皆の期待が大きいからだろう。
同時刻――神災竜との戦闘を終えお互いに疲弊し一旦戦闘を終了し休憩に入った【ラグナロク】と【雷撃の閃光】ギルドでも同じような光景が起きていた。
ある者は言った。
「アソコは後里美と朱音さんが要注意だと言いたいが違うな。アイツがこの程度でくたばるような男なら朱音さんはあの男の下に付いたりしないはずだ。なにより俺は知っている。あの男のしぶとさを」
そう。
かつて何度も倒そうとし、あと一歩のところで逃げられたり止めを刺しきれなかった男の名を思い出しながら。
倒したと思っても置き土産を置いていったりと、こうもあっさり負けない男の名をルフランは知っていた。
ある者は言った。
「【ラグナロク】に痛手を追わされ神災竜にも痛手を追わされ、片方には逃げられ片方は倒した。だが勝負の流れは【深紅の美】に持っていかれたか」
戦いに勝ち、敵の大将を倒した。
なのに、勝負の流れが敵の方に流れた。
そんな不可解な事実を呑み込むソフィ。
普段あまり他人に興味がない自分にここまで意識させる男の名は神炎の異名を持つ男。実力が確かなのに初心者がギルド長のギルドに所属する少女、多くのギルドから勧誘を受けても全て断っていた姉妹、アイテムや装備関連の生成から加工や調合に置いてナンバーワン、ツー、を争う少女、普段賞金がでないゲームには出没すらせず興味すら見せないプロゲーマーの美悪魔、全員を束ねる蓮見が無能力なわけがないのだ。ソフィから見た蓮見は同じギルド長としてとても厄介な存在でもあった。
そして綾香。
「……全然物足りなかった」
不満を口にする。
今までで一番手応えがなかったからだ。
「でも初めてかも。勝ったはずの相手にここまで武者震いするのは」
既に蓮見があちこちで負けていると報告を受けた綾香ではあったが、どうしても期待してしまう自分がいた。
「少なくとも後二回は倒さないといけない。となると、多分……いや、間違いなくどこかで進化……してくるはず」
今までの傾向から蓮見が次にどうなるか、なんとなくわかったのだ。
それだけ蓮見に執着する綾香の目は輝く。
まるで無邪気な子供が欲しいゲームを今度買ってもらえるとしたような純粋無邪気な目は透き通っていた。なにより、嬉しそうに微笑む姿は――この後の展開を期待しているようにしか見えない。
■■■
蓮見の考えを理解した美紀たちは今後の細かい方針について話し合っていた。
「それで今後のことなんだけど、、、」
拠点の中心部に置かれたテーブルを囲んで始まった作戦会議は美紀が司会を務め円滑に進められていた。




