目覚めろ、立ち上れ、誰が為に、今こそ限界を超えろ、最恐の神災!
ま、マズイ。
今俺が持っているのを見られたら……俺は……。
「あっ……」
ゴクリ。と息を呑み込んだ蓮見の視線と笑みを見せて近づいてくる朱音の視線が重なった。
その時だった。
蓮見の心の中で――。
ガチャ。
――何かが変わる、音が聞こえた。
そして――。
あれ? 俺なんで……悩んでんだ?
ゲームってそもそも勝ち負けがあるから楽しくて――。
切磋琢磨できる仲間や敵がいるから楽しいのであって――。
俺が俺らしくいられるからしてるのであって――。
なんでいつもいつも誰かの顔色ばかり伺ってるんだろ、俺……。
美紀に偉そうなことを言う割には俺自分の言葉を自分で体現してなくね?
中途半端だから周りが俺の行動で迷惑して頭抱えて……。
だからゲームを純粋に楽しめないんじゃないか?
結局のところ俺が皆の脚を引っ張ってるから――。
俺が一回負けてしまったから――。
俺の身勝手な行動がエリカさんの非に繋がってしまったのなら――。
俺は一体どうすれば――。
ドクンッ!
身体が熱い。
イベントの途中で負けて初めて気付いたこの想い。
皆俺に注目していたのは。
”リベンジしたい!!!”
そんな熱く燃えるような闘争心があったから。
そして美紀が楽しむより先に勝ち負けによく拘っていた理由も今わかった。
それは――。
負けたことがあるからこそ。
今の俺みたく。
リュークさんにリベンジして勝ちたい!
もう負けたくない。
絶対に活躍する。
皆が憧れるプレイヤーになりたい!
もっと注目されたい!
なにより強くなりたい!
そんな気持ちがあるからこそ。
絶対に勝ちたいって強く思ってるからこそ。
それなのに俺は素人意見を過去に結果を残し文武両道の美紀、エリカさん、七瀬さん、瑠香、お母さんに言っていたんだ。
皆ゲームの中では今も昔も功績を残す凄い人。
そんな人たちが俺に構ってくれる理由は――。
「……皆俺ならできるって信じてくれているから?」
ボソッと呟く蓮見に朱音が首を傾けて隣に座り込んでくる。
「ダーリン? 大丈夫?」
「…………」
「里美ちゃんもエリカちゃんにあ~やって強く言っているけど本当に怒ってるわけじゃないわよ? ね? 里美ちゃん?」
「えっ? あっ、はい。そうですね」
「…………俺、俺、俺」
俺なら有言実行できるって信じてくれているからだろ?
それなのに今の俺は俺らしくない。
心の中が燃えるように熱い。
全身の血が沸騰してしまいそうなぐらいに。
朱音の顔を見て、鳥肌が立ってしまったのは。
今まで眠っていた本能が――。
今まで無意識に目覚めては眠っていた本能が――。
この瞬間、目覚めようとしているからなのかもしれない。
心の中にいるもう一人の俺が激しく訴えてくる。
俺はもっと強い奴と戦って勝ちたいと!
ただし――。
俺らしく戦って。
何度も負けて、何度でも挑み、最後に必ず勝つ。
そんな切磋琢磨できる仲間が俺はずっと欲しかったんだ。
俺が俺らしく戦うことでようやく勝てるか勝てないかの相手。
今はまだまだ足元にも及ばないかもしれない。
ドクンッ!
ドクンッ!
ドクンッ!
俺が本当に戦って勝ちたい相手は――。
【目の前にいる!!!】
今は無理かもしれない。
だからまずはこの人たちへの挑戦権を得るために俺はここで昔の俺を超える。
『行くぜ? もう一人の俺! いつもみたく内なる闘志とドキドキをくれよ? 俺様が俺様らしくあるため俺様は正真正銘の究極超新星爆発を完成させることを誓うからよ!』
湧き上がる闘志が蓮見の目に力を宿す。
拠点にいた女性陣が僅かな気配を感じ取るぐらいに、蓮見の放つ目に見えないオーラの色が濃くなった。今までよくわからなかったオーラがようやく色を持ったようにようやく周囲にもわかるようになった。
(なに? この胸騒ぎ?)
「お母さん!」
「んっ?」
「いや、朱音さん!」
聖水瓶を持った蓮見はそのまま立ち上がって朱音に見せつけるように手を伸ばす。
そのまま立ち上がった朱音に宣戦布告をする。
「なにかしら?」
「このイベントが終わって、もし俺が強敵に値すると認めてくれる日が来たら、俺ともう一回一対一で戦ってください! そんでもって俺が勝ったら――ん?」
つい勢い余って、大きくでてしまった。
「その続きは私に勝ってから言ってちょうだい。でもそう言うストレートな所私好きよ、ダーリン。だからいいわ。私が仕事に戻るまでに私が認めるほどにダーリンが強くなってくれたらもう一度闘いましょう。時間は有限。だから一つだけ。……もしダーリンがそれで私に勝てたら一つだけ、……私に願いを言う権利をあげるわ。ただしそれが願いの場合叶う保証はないけどね。うふふっ」
人差し指で口を封じてきた朱音はそのまま将来ずっと一緒にはいられないと言ってきた。でも最後は笑う朱音。
一瞬心の奥がチクッと痛んだ蓮見。
だけど蓮見に後悔はなかった。
だってチャンスはまだあるし、俺が勝てば――。
そう思いニコッと満面の笑みを見せる。
「安心してください! 俺の進化の道筋はもう見えていますから! ってことでエリカさん!!! これの使い方を教えてください!!!」
それからエリカ特性の聖水瓶を皆にも見せつける。
「……あっ、やばっ」
「……ん? あれは?」
「あはは~、く、くれないくん、それを一体どこで……?」
ゴホン!
エリカの隣で美紀が咳ばらいをして。
「エリカ?」
「…………あはは。なんでしょう里美さん」
「…………あれはなんでしょうね? エリカさん」
「えっと……えっと……」
そして苦笑いのエリカと疑心を抱いた美紀の鋭い視線が重なった。
――。
――――。
一見仲が良いのか悪いのか、よくわからないギルドはエリカの説明を受けたのち、リーダーの考えを聞くと案の定メンバー全員の肌に鳥肌が立つこととなった。
「やっぱりダーリンのことだから心配する必要なんてなかったわね。うふふっ」
「それで紅一つ確認していい?」
「ん? そんな不安な感じですか里美様? 顔に諸々感情が出ていますよ?」
「普通に考えて不特定多数のギルドを相手にして生き残れるの?」
美紀は不安を表に出した。
だけど、蓮見は満面の笑みで答える。
「俺は過去の俺を超える! 向こうが装備を強化して俺様シリーズを弱体化してくるなら俺は俺様超全力シリーズをさらに強化してそれを相殺する! それが俺が俺らしくいられる唯一の方法であり俺様シリーズこそがありのままの俺だからな!」
拳を突き出して、親指をビショと向けた蓮見にクスッと笑って美紀が答える。
「わかったわ。信じてる紅。それと今のアンタとても楽しそうで生き生きしているね」
「おう!」
こうして【深紅の美】ギルドの緊急作戦会議は――。
対神災装備とも言える神殺しの礼装シリーズVS新たな神災、となる方向性で一旦終わることとなった。




