ルフランVSソフィ 後編
あと少しでルフランの剣がソフィの柔軟な肌に触れ心臓を貫く。
そう誰しもが思った時だった。
「ふふっ、あはは~」
ソフィが不敵な笑みを浮かべ笑い始める。
「なにが可笑しい?」
「いや? べつに? ただ忘れるなよ?」
「……ん?」
「【神炎の神災者】を相手にするとなれば誰しもが万全を期すは当然。それはルフランお前とて例外ではないはずだ。つまり【神炎の神災者】が召喚獣を手に入れた時点で新層で私の取るべき行動は決まっていたとも呼べる」
「まさか!? ここで来るのか!?」
ルフランの剣がソフィの心臓を貫くと同時だった。
赤いエフェクトが噴水のようにソフィの全身から飛び散り始める。
慌てて剣を抜こうと力を入れるがまるで岩に刺さったかのようにびくともしない。
「チッ!」
ここに来て初めてルフランの表情から余裕の笑みが消える。
「俺の本気を見せてやる! スキル『エクスカリバー』!」
スキルの発動。
剣が眩しい光を放ちソフィの肉体ごと焼き切る。
血しぶきとなり消えたソフィ。
だが――。
「どうなってる?」
誰しもが疑問に思った。
ルフランのHPがなにもしていないのにじわじわと減り始めているのだ。
そして血しぶきは薄い霧となり戦場へと広がっていき【ラグナロク】メンバー全員のHPまでも徐々に奪っていく。
まるで木綿で首を絞めるかのように少しずつ。
そして正体不明の攻撃に今度は【ラグナロク】メンバー全員が動揺し戦局はすぐに元へと戻る。
これがトッププレイヤー同士の戦いにしてトップギルド同士の戦い。
それから数秒。
「なるほど。そう言うことか」
理解したと言わんばかりにルフランが誰もいないはずの空へと向かって再びエクスカリバーを放った。
すると地上十五メートル付近で見えない壁に光がぶつかった。
「ふぅ」
鼻で笑い。
「これはしてやられたな。まさか最初から分身相手に戦わされていたとはな」
ルフランの視界の先には無傷のソフィがいた。
「それは違う」
「違う?」
「あぁ。私の召喚獣『妖精王エルフ』は蘇生と防御に特化にした召喚獣だ」
妖精王エルフ。
蓮見が手に入れた召喚獣のメールと同じくとてもレア度が高い召喚獣で好感度が高いほど真価を発揮する。
現在のソフィの高感度では死者を一日一回蘇生と視認しにくい結界の生成や回復が主な能力だ。後は攻撃面に関しては優れてはいないが多少の攻撃も可能となっている。
「私は間違いなくさっき死んだ。その時、死ぬと発動するスキル『血煙』を発動した。効果はプレイヤーが死亡した時、残りのMP量に合わせて周囲の敵にダメージを与える血煙を発生させるシンプルな効果。そして死んだタイミングでこの勝負が始まる前から召喚していた妖精王エルフの力を使い復活。そんな所だが、随分と顔が優れなくなってきたな、最強」
種明かしを受けたルフランの表情はどこか落ち着かない様子。
そうだ。
精鋭部隊の同士の戦いはまだ良いのだが、横目で見える葉子のHPゲージがもう殆ど残っていなかったのだ。
その葉子と戦っている綾香のHPゲージはまだ六割ほどある。
本気の綾香相手によく持っているとは言え、副ギルド長同士の勝負はどうやらもう長くはないようだ。
そうなれば今度は二人を相手にしなければならないルフラン。
それは同時に副ギルド長が【雷撃の閃光】に敗れたことを意味し、精鋭部隊に大きなメンタルダメージを与え状況を一点させる事象となる可能性をルフランは危惧していたのだ。
仮に葉子が綾香の攻撃を全て受けきってもソフィが使った血煙の効果を受けている以上後数分が限度だろう。本気の綾香が葉子にポーションをそうやすやすと使わせてくれるはずがないからだ。
「……やってくれたなソフィ」
「それはお互い様だろう」
状況の進展にようやくソフィの表情にも笑みが戻る。
「褒美だ。さっき言った通り俺も見せてやる!」
「うん?」
危険を察知し妖精王エルフの結界に身を護りルフランの様子を見るソフィ。
「来い! 召喚獣――」
「なッ!? ここで使うのか!?」
召喚獣とは本来であれば切り札的な存在。
そんな切り札を思いもよらぬ形で使ってきたルフランにソフィは驚いてしまう。
「――剣聖ミカヅチ!」
ルフランへと向かって天から降り注ぐ光の柱の中から召喚獣が出現する。
「これは……そういうことか!」
ソフィはルフランの声を聞いて確信した。
彼もまた自分と同じクラスの召喚獣を手に入れたのだと。
「ミカヅチ……確かプレイヤーのステータスをコピーし自立分身として作用する召喚獣……ただしプレイヤーが剣を装備していた場合……STRが倍になる超攻撃特化の召喚獣だったはず……」
ただでさえ最強の男が二人になった。
その事実は【雷撃の閃光】にとってかなり厄介な現実となってしまう。
これでは仮に綾香が加勢に入って来ても二対二になっただけで最初となにも変わらない。むしろ本気となったこの男を正面から止められるだろうか、そんな不安が心の中で生まれる。
だがそれでも逃げるわけにはいかない。
一人のギルド長として。
なにより一人の女として。
ここで逃げるわけには――いかない。
そう心の中で言い聞かせ、平常心を装い武器を構えた時だった。
「アハハハハハハハ!!!」
ルフランとソフィが作りだす極限の緊張感を嘲笑うかのように六十本の毒矢を携え発射準備状態にした神災竜が降臨する。
「「……なッ?!」」」
((な、なぜこのタイミングなんだ???))
お、可笑しい。
確かあの男は別の場所で――。
偵察隊の報告では確かにあの方面は【灰燼の焔】リュークがいたはずだが?
まさかリュークがもう負けた?
そんな疑問がルフランとソフィの脳裏で生まれた。
そして二人の中で一番の危険分子が目の前の敵から神災竜へと変わる。
「……ここで紅?」
「あれは【神炎の神災者】」
「へぇ~、大物が向こうからくるとかもう最高じゃん♪ ただ――」
「しかも単騎でこのタイミング。相変わらず読めない方ですね……ただ気になるのは――」
「「――既にテンション高そうで楽しそう(ですね)」」
それは綾香と葉子。
さらには全ギルドの精鋭部隊メンバー全員もだった。
全武装を装備し第三形態となった神災竜は本当に蓮見本人なのだろうか……。




