動き衝突し始めた三大ギルド長と【神炎の神災者】
相手側からすれば迷惑でしかない行動に出た蓮見。
その顔はどこかやり切った感が伺える。
「おっ!? なんかポイント増えてるじゃん。まぁ、あれだな、俺もたまにはやるってことで出番までは大人しくしておけって言われてたし戻るか」
イベント優勝候補の一角にモテない男の八つ当たりをした蓮見が背中を向けて飛び去ろうとしたときだった。
「やっぱりお前だったか」
と、煤煙が舞う煙の中から声が聞こえてきた。
「…………ん? 俺のこと?」
まだ相手の姿が見えない。
「そうだ」
あれ? なんか俺狙われることしたっけ?
と首を傾けて相手の出方を見る蓮見。
自分がさっきしたことは単なるストレス発散の一部ではあるがイベントのルール上は問題がない。
そのことをなんとなくで無意識に理解しているがための困惑。
そんな蓮見に対して煙の中からプレッシャーを放ってくるプレイヤーが一人。
そのプレッシャーは蓮見の帰宅と言う考えを考え直させるほどに大きい。
「まさか、とは思ったが一人でここに来るとは余程腕に自信があるらしい」
煤煙の中で揺れ動くオレンジ色の炎がチラリと見える。
そして――。
爆炎を全身に纏い蓮見の前に姿を見せた男はリューク。
【灰燼の焔】ギルドのリーダーにしてトッププレイヤーの一人である。
生き残った仲間を地上に配置し拠点死守を命じ一人動く。
多くの仲間に見守れながら異次元の名を超えた二つの神炎を持つ蓮見を倒しに来たのだ。
【神炎の神災者】こと蓮見はリュークを見てビビるわけでもなく平常心で答える。
「うるせぇ! お前に……お前に……お前に、俺の何がわかるってんだよ!?」
「ん?」
「俺だってなリア充になりたいんだよ! それなのに……エリカさんといいミズナさんといい皆いつでもリア充になれるのよ、って雰囲気出してくるんだぞ! たまには俺だってな……」
話しが噛み合っていない。
それでも蓮見は今の気持ちを素直にぶつける。
「いつでも相手はいるんだぞ? って一度でいいから少しは強がってみたいんだよ!」
言う相手が完全に間違っている蓮見。
そもそもお前がギルド内で一番恋人ができる確率が高い。
と、蓮見やその周りの人間関係に詳しい者が聞いたらそう思うに違いないだろう。。。
世の中とは不思議で上手く回っているようで回っていないのだ。
「…………」
会話のキャッチボールが成立していないためリュークが「ふ~ん」と首を傾ける。
そして少し考えて――。
「お前の事情は知らん」
蓮見の心情をバッサリと切り捨てた。
「そもそもミズナはどうしてこんな男について行くのだ」
とても小さい声でそう呟く。
だがその言葉はあまりにも小さく蓮見には届かない。
「そ、そんな!?」
驚く蓮見。
自分の気持ちを少しは理解してもらえると思っていたのを裏切られたような表情を浮かべる。
「一つ聞いておこうか」
「なに?」
「ミズナとルナはどうした? 前回はお前の護衛として近くいたはずだが?」
「あ~、二人なら……知らん! 多分色々と上手くやってるんじゃないか?」
少し考えるも具体的に奇襲を仕掛けてきたプレイヤーを追ってギルドを出て行ったきり連絡を取っていないので今どうなっているのか知らない蓮見はただの憶測で返答。
「そうか」
(ミズナの前でこの男を倒せば少しは心が揺らぐと思ったが……)
「…………」
「まぁここでお前を倒せば少しは俺に心が揺れ動くだろう」
その時だった。
リュークの身体からメラメラと炎が熱く燃え始めた。
「……これは」
「スキル『燃焼準備モード』。第四層に来る時にいた機械王のプレイヤー版スキルだ。HPゲージが三割を下回ると『燃焼モード』に自動で切り替わる。ただし俺の燃焼準備モードはちょっと特殊で準備モード中はMPゲージの回復量が増加するおまけ付きだがな」
「なっ!? ……それってまさか!?」
驚く蓮見。
だがそれも束の間。
目を大きく見開いた蓮見は妙案を思いつくのであった。
ここで成果を上げれば可愛い女の子が俺に注目してくれるのでは? と。
なによりイベントが始まってからずっと引き籠っていたために身体が訛っていたのだが、この逃げるに逃げれない不可抗力の元なら暴れても皆から責められることはないのでは? と。
そんな理由で蓮見の中で色々なことが正当化された。
「さぁ、始めようか。俺たちの戦いをな!」
「へへっ、いいぜかかってこいよ! 俺様の超全力シリーズをお見舞いしてやるからよ!!!」
こうして【ラグナロク】と【雷撃の閃光】に続き、【深紅の美】と【灰燼の焔】のギルド長も戦闘に入ることなった。
まだイベントが始まって三十分前後で観客が待ち望んでいた戦いは――。
まだ序章にしか過ぎないと。
多くの者が知るのは後になってからの話しであった。




