神災竜第三形態VSメール女王 決着
蓮見は考えた。
そして――最後の賭けに出る事にする。
「だったらいいぜ! メールお前が警戒する物全部どけてやるぜ!」
蓮見の意思を受けて武装が内部から爆発し飛散していく。
大きな爆発は神災竜の周りにあった水ごと吹き飛ばす。
その中で目を閉じて、僅かな気配や音にも反応できるように集中する蓮見。
水の中でならワンテンポ遅れるなら――。
「…………」
全神経を集中させる。
足の爪先、尻尾の先っぽ、頭、神経が通ってない鋭利な爪、など。
「……きゃあああああ」
爆発音の中、かすかに聞こえたメールの声。
耳で感じ取ると同時、声の方向に大きな翼を羽ばたかせて飛翔。
水がなくなったことで今まで封じられていた蓮見のAGIが神災モードの恩恵を受けて全プレイヤー最速の力を与える。それは海の最速者であるメールを凌駕する速度となる。
今までとは初速度が違う。
爆風が水を押しのけるより速く蓮見は動いた。
海の中にできた空を飛翔し再び海の中に飛び込む。
爆風に襲われ態勢を崩したメールの口が動く。
「スキル『アクセル』!」
急いで逃げようとするメールに蓮見は槍を突き刺すようにして一気に腕を伸ばす。
「――ガハッ!?」
鋭利な爪はメールの綺麗な鱗を貫通し尾ひれを貫いた。
必死になって逃げようとするも、人力ならともかく神災竜の力の前では負傷したメールでは逃げるにはパワー不足。
「ま、負けないもん! スキル『ハイドr――」
「悪いな、俺の勝ちだ。ってことで頂きまーす!」
攻撃が間に合わないと判断したメールはスキルを中断。
「い、いいいいいややあああああああ!!!」
泣き叫んで恐怖の顔を見せるメール。
目から涙どころか本当に恐いのか抵抗を止めて両手で顔を護り身体が震えている。
「……えっ?」
流石にこれでは気が引ける。
まぁ、お魚だし美味しそうではあるが、、、
「ぐずっ……ぅぅ」
「えっと……食べていい?」
ここまで来たらどうしても人魚たる生物を一度は食べてみたい蓮見。
「……ぅん」
抵抗しても無駄だと感じたのか全てを諦めるメール。
「…………う~ん、どうしよ」
爪で串刺しにしていることでメールのHPゲージは徐々に減っている。
爆風が収まり辺り一面綺麗な姿を取り戻したエメラルドオーシャンに赤い血が混ざっていく。
「はぁ~、やれやれだ」
大きなため息ひとつ。
蓮見はせっかく頑張ったのが無駄になると。
人生で初めての人魚。
なんだかんだ食べたら食べたらで美味しそうと思ったのだが、諦める事にした。
爪で刺していた尾ひれの部分を抜いて、メールを自由にする。
「そのままじゃお前が後ちょっとで死ぬ」
「…………?」
「いいぜ。勝負はお前の勝ち。食べるんだろ? いいぜ。俺はどうせすぐに復活できるからよ」
蓮見は負けてあげることにした。
幾らNPCとは言え可哀想だと思ったからだ。
路地裏で見た時といい、今といい、どこか情に訴えかけてくるメールという存在に蓮見は負けたのだ。
「ほら、早くしろよ」
蓮見は神災竜の状態を解除して元の姿に戻って微笑む。
「お兄ちゃん……なんで?」
「ん?」
「なんで後ちょっと勝てたのに……」
「勝ち負けも大事だけどそれ以上に大事にしたいって思ったからだ」
「でも……」
「里美っていう凄い奴が俺の近くにはいる。でも里美は途中から勝ち負けを意識してゲームを楽しむことを忘れている時期があったんだ。それを知っていた俺は常にゲームを楽しんで欲しいと思って里美から誘われたこのゲームを始めるようになった。その俺が目先の興味本心を優先してゲームを楽しむことを忘れるわけにはいかない。俺が今お前を倒せば俺の興味本心は満たせるけど後味が悪すぎる。それに――」
「なに?」
「俺の興味本心はお前の仲間でも試せると思う。だから、まぁ、今は、なんと言うか良い勝負できて楽しかったからそれでオッケーってことでいいかなって!」
蓮見はありのままの気持ちで答えた。
メールの傷は深い。
このままでは後二十秒しないうちに尽きてしまう。
もう時間はない。
戸惑うメールに蓮見は近寄り手を伸ばして頭を撫でる。
「気にするな! これでお前は仲間のもとに帰れるんだからよ」
「でも私が仲間の所に帰ったらお兄ちゃん私の仲間食べるんだよね?」
不安そうに聞き返してくるメールに蓮見の目が泳ぐ。
「う、うん……いつかはその食べてみたいから?」
「ふっ、ふふっ。なら私が帰らなかったら食べれないってことだね♪」
「あぁー、だから帰ってくれ」
「いやぁ~だよ♪」
鼻で笑い、満面の笑みになったメールが蓮見に手を伸ばして抱き着く。
「おめでとう。お兄ちゃん♪」
「えっ、なに?」
「クエストクリアだよ」
『クエストをクリアしました。報酬、上位ギルド認定書強化アイテム【上】×3を手に入れました。隠しミッションクリア報酬として【召喚獣:メール】を手に入れました』
脳内に直接聞こえた声に蓮見はニコッとつい微笑んでしまった。




