第四層探索開始
あれからすぐに、それぞれの思いを胸に皆揃って四層探索のためログイン。
「おぉ~これは凄い……良く出来ているし外観が綺麗だ」
四層は島国となっている。
ギルド本部設置の本島から海を渡りそこにある離島や海の中にある地底を探索したり水中や地底で戦闘もできるようになっている。今はまだアイテムがないので地底を探索できるプレイヤーはいないが、それは時間の問題だろう。視線を飛ばせば透き通る水で構成された海。その中では肉眼でも確認できるNPCの魚(食用)とは別に見た目からして好戦的な魚も見られる。全身が鋭い棘で覆われて高速移動する魚が食用とはとても考えにくい。逆に島の中心地に視線を飛ばせば沢山の家が設置されている。ここにはNPCのプレイヤーが住んでいてちょっとした住宅街となっている。どちらかというと現実世界に近い環境でもある。もう少し中心地に行くと第二層以来の新しいギルドハウスが数多く設置されており、プレイヤーはそれぞれ購入が可能となっている。大きな物から小さい物と沢山ある為ギルドで活用するも良し、仲の良いプレイヤーと共有するも良しとなっている。
「皆迷子にならないようにね~」
美紀の元気な声が聞こえる。
そのまま美紀を先頭にして島の中心地に設置された一般クエスト受注や特別クエスト受注は当然のこと、数多くの情報が沢山集まるギルドへとまずは足を運ぶことにした【深紅の美】ギルド一向。目的は情報収集。もしかしたら第四層に関する情報はもちろんのこと次のイベントの情報ももう開示されているかもしれない。となると、美紀としては絶対に確認しておかなければならない場所である。
迷路のように入り組んだ住宅街を抜けていく。
一軒家やマンションと蓮見たちが住んでいる世界にどこか似ているな、と感心しながら視線をあちらこちらに動かしていると事件が起きる。
「……あれ!? 皆何処行った!?」
早速迷子になったと頭が決断を下すのに一秒とかからなかった。
ただし――。
「なんで早速皆迷子になってるんだよ!?」
勘違いを含んでだが。
「まぁ、いいや。目的地は確か……あれ? どこだっけ?」
早速雲行きが怪しくなり始めた蓮見。
「……たしか、……えーと」
中々思い出せない蓮見。
普段から情報収集という考えがあればすぐに思い出せるのだろうが、適当に頷いては話しを合わせながら上の空でずっと建物の観察を続けていた蓮見には難しい。
そこで目を閉じて深呼吸。
それから落ち着いて美紀たちが何て言っていたのかを考えてみる。
――。
――――。
「なるほど。このパターン。迷子なのは俺な気がする……」
ようやく真実に気付いた蓮見。
その場で腕を組んでどうしたら美紀たちに合流できるかを考える。
「天に全てを任せる時がまた来てしまったか」
冷静にこの状況を分析した蓮見が出した答えとは第三層の時と同じ。
矢を一本生成し、地面に突き刺す。
ソッと離すと矢が倒れる。
後はその方向に向かって歩くという単純な行動理論。
何とも原始的かつ運任せに近いことを始めた。
分岐点が来るたびにしては訳も分からず突き進んでいく。
当然矢は気まぐれにしか道を教えてくれないので時には道なき道を示したりする。
そんな時は進める道がある方向を教えてくれるまで何度か繰り返す。
そうして歩き続けていると、一本の路地裏へと到着する。
そこには一人の女の子が倒れていた。
容姿はまだ幼く小学生低学年ぐらいで手足はごぼうのように細く本来であれば綺麗な金髪セミロングの髪の毛はボサボサ。身に付けている衣服も所々破けている。
蓮見は一度周囲を見渡して保護者らしき人がいないかを確認するも近くには誰もいない。どうやら一人らしい。建物の壁に背中をつけてぐったりしている女の子に目線を合わせるため膝をついて声をかける。
「大丈夫か?」
「……だれ?」
「俺か? 俺は紅って言うんだ。困ってるなら俺で良ければ力になるぞ?」
「……お、か……ね……ない」
「ただでいいよ。お金が欲しくて声をかけたんじゃない。顔色が悪そうだし見た感じ放っておくと大変なことになりそうだから声をかけたんだからな!」
蓮見は暖かい笑みを向けて女の子を安心させる。
手を伸ばし女の子の頭を優しく撫でてあげる。
「……お兄ちゃん?」
「なんだ?」
「……ありがとう。でも気持ちだけでいい。じゃないとお兄ちゃん酷い目に合うから」
「そっかぁ」
蓮見は撫でるのを止めて立ち上がる。
「そうしたいのは山々だがどうやらそうはいかないらしいぜ?」
一本道の路地裏をふさぐようにして柄の悪い男たちが集団で姿を見せる。
手には剣や斧と言った武器を持っている。
どうやら囲まれただけでなく、既に戦闘態勢に入っているようだ。
蓮見の前にパネルが出現する。
そこには、
『か弱き少女を救いますか?
難易度:HARD
YES / NO』
と、書かれていた。
「うん? なるほど、これはクエストだったのか? だったら答えはもう決まってるぜ!」
成功報酬はゴールドとスキル。
断る理由がない。
微笑みながら『YES』をタッチ。
「いいの? お兄ちゃん? 死ぬかもしれないけど?」
「安心しろ。俺の辞書に敗北の二文字はないし、君の為なら俺は命をかけてやる。だからそう下ばっかり見てないでせめて俺を見るぐらいには顔を上げてくれないか?」
「君じゃない。私の名前はメール。その言葉信じていいの?」
「当然!」
さっきまで俯いてどこか光のない目をしていたメールがクスッと笑って初めて人間らしい表情を蓮見に向け立ち上がる。
「お願いがあるの。私をここから北東にあるエメラルドオーシャンに連れて行って欲しい。そこに行けば家族がいる、仲間がいる、頼りになる味方がいるの」
「了解!」
こうして第四層での蓮見の初めての特殊クエストが受注された。




