現実世界に戻ってのお昼時間は……
第四層に到着した六人は一旦お昼ご飯を兼ねてログアウトする。
本当は今すぐにでも探索したかったのだが、ログインする前に決めたスケジュール通り、ここは我慢して現実世界へと戻って来た。
お昼ご飯とは別にもう一つの用事を済ませなければいけないからだ。
それは――。
「ついにこの時が来てしまった……さ、最悪だ……」
――蓮見の夏休みの宿題である。
お昼ご飯を食べた蓮見は自室に戻りそんな言葉を呟いた。
勉強ができない者にとって夏休みの宿題とはそこら辺の魔王より厄介極まりないのだ。大抵こう言った人間の場合は宿題が嫌なんじゃない。勉強しても理解できないから嫌なのだ。苦しい気持ちに耐えてもそれが実る保障がない、そんな不安が心を暗くすることが多い。蓮見は正にそんな人間だった。
「てかぁ多すぎる……。そもそも調べても何がなんなのかがわからん……」
早くも弱気を見せながらも、渋々と机の上に宿題と問ぢを解くのに必要になるであろう教科書とノートを置いていく。
この後部屋にやってくるであろう美女たちに勉強を教えてもらうための準備である。流石に一人早く部屋に戻って何も用意していませんでは女神のように優しい微笑みが鬼の形相になりかねない。ってなわけで、今の蓮見には勉強以外の道はもう残されていなかった。美紀という頼りになる幼馴染は蓮見の一歩先を読んでいたのである。
学生たる者本業は勉強である。
決してゲームではない。
能力の振り分けが極端な蓮見は昔の自分にちゃんと勉強しとけよ、と心の中で文句を言いながら勉強机に着席する。
「はぁ~」
大きなため息をついてからぼんやりと天井を見上げる。
「どうせ一人なら空欄が八割を超えるんだ。ここで頑張れば少しは埋まると思えばまだいいか……」
少しでも前向きになろうと、自分に言い聞かせるようにして独り言を呟いていると、足音が聞こえてくる。食事を終え、食器洗いを含めた諸々の片付けまでを終わらせてきたのだろう。なんとも手際が良いことで。などと他人事のように思いたいがそうはいかない。勉強だけでなく炊事洗濯と言った基本スキルが完璧なだけでなくゲームの腕もある。神様はとても不平等なことをしてくれたと思わずにはいられない蓮見。
――ガチャ。
部屋の扉が開いた。
視線をそちらに向けると蓮見の勘が当たっていたことがわかった。
「お待たせー!」
「来たわよ~蓮見く~ん♪」
蓮見は目をパチパチとさせて、
「あれ? 二人?」
と予想より家庭教師の数が少ないことに疑問を覚えた。
「あぁ~七瀬達は少し遅れてくるわよ?」
「なんで?」
「これから勉強を頑張るだろうってことで母娘三人でご褒美のクッキーを用意してるからよ」
「そういうわけで七瀬たちは遅れてやってくるわ。三人が来た時にまだ何もできてませんじゃ話しにならないからとりあえず夏休みの宿題チャチャっと終わらせちゃおうか」
「は、はい……よろしくお願いいたします先生方」
完全に逃げ道がないと改めて突き付けられた感を感じた蓮見は唾を呑み込んで覚悟を決めた。こうなったら、集中して一分一秒でも早くこの地獄から抜け出してやると。




