神災者の神災モードVS機械王の燃焼モード
燃焼モードとなったことで機械王の推進力や攻撃力がさらに上昇した。炎は手の平だけでなく足の裏からも放出されている。どうやらこれが推進力の大元となっているようだ。なによりこれが攻撃にも使われると思うと、少々厄介だなと蓮見は思った。だけど機械王の姿を見て蓮見はニコッと微笑む。
「なぁ、自称王様」
「なんだ?」
「そっちがその気ならこっちも本気で行く。俺様のスピードについて来いよ!」
蓮見が武器も構えずに、
「俺様全力シリーズ、全力で全速ダッシュ!」
走り始める。その速度は遠目で見守っていた美紀たちの度肝を抜く。
「なっ、アイツまた速くなってる!?」
「てかいつも思うんだけど実際AGI幾つあるのよ? 噂ではもう一万の王代は余裕で突破できるんだろうな、とか言われてるけどさ」
「知ってる。一万って言ったら私達ですら装備でAGIガン積みするかスキル重複使用しないと厳しいレベルなんだけどね」
「まぁ、逃げ足に関しては唯我独尊で一位でしょうね」
少なくとも美紀と七瀬はそう言葉にした。
まるでなにかに目覚めた主人公のように速くなった蓮見は燃焼モードを使った機械王と互角の速度で移動を始めた。
「そっちが拳なら男として俺も拳で応える! と見せかけて聖水瓶をくれてやる!」
拳を引き殴る姿勢を見せるフェイクからの聖水瓶を投げつける。
機械なら必然的に冷却が間に合わなくなればオーバーヒートするのではないかと考えた蓮見は瓶が当たって中身が掛かったことを確認してから急いで距離を取る。
「んっ?」
だけど、それに意味はなかった。
確かに機械王の全身を纏う炎は聖水の力を得て、激しくなったがどうやらダメージ以前に異変はなにも起きない。
読み間違えたと考えた蓮見はある決断をする。
チラッと横目で見て小さく深呼吸。
大丈夫、大丈夫、と自分に言い聞かせて、作戦を切り替えた。
「やっぱり俺様による《《超全力シリーズ》》しかないか」
世にも不吉な言葉は小声ではあったが、謁見の間にいた全員の耳にしっかりと聞こえた。
「ちょっと待って‥‥‥‥私たち」
疑問に思った美紀は周りに問いかける。
今美紀の頭の中にはおよそ二ヶ月前起きた光景が鮮明に蘇っていた。前回のボス戦では追い込まれた蓮見がボス部屋という密封された空間で粉塵爆発を起こし、ボスと一緒に問答無用で巻き沿いを喰らった。その悪夢が再び起きる予感に襲われた美紀たちの視線の先では蓮見が不適な笑みを見せて戦っている。
「ちょこまか、ちょこまか、案外速いな」
「へっ! お前もな!」
蓮見の遠距離攻撃(通常攻撃)と機械王の近接攻撃はお互いのHPゲージを徐々に削るもHPゲージが減るに連れてお互いが速くなるため中々決定打にはならない。ダメージを受けることでポテンシャル強化という利点がお互いにあるため相殺しているからだ。
「このままじゃ拉致が明かないな‥‥‥‥。こうなったら強引に行くしかねぇ! ルナー!!!」
お互いに自動発動スキル以外は使っていない。目にも止まらぬ速さで攻防合戦の中、蓮見が休憩中の瑠香の名前を大声で叫ぶ。
「水だー! 俺を《《水攻め》》してくれー!!!」
「「「「‥‥‥‥‥‥‥‥」」」」
言いたいことがいまいち伝わらなかったために、美紀と朱音は小首を傾ける。
瑠香は七瀬に小声で質問する。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「なにかしら?」
「紅さん今なんて言った?」
「《《水責め》》してくれーって言ったわよ、多分」
「だよね」
文字にすると違いが分かる言葉。
しかし発想の違いで誤解を招くこともあるのだろう。
「つまり紅さんはそうゆう趣味があるってことだね!」
「う、うん‥‥‥‥」
なんか違うようなと違和感を覚える七瀬を見ながら、勘違いを始めた瑠香はスキルを使う。
「わかりましたー!!! 紅さんいきまーす!!! スキル『水龍』!」
元気な声と一緒に蓮見の元へと飛んで行く水龍。
「良し! ルナ愛してるぜ!!!」
ボッと瑠香の顔が真っ赤になった。
まさか大胆不敵にこんな形で告白されるとは思っていなかったからだ。勘違いが勘違いを生み連鎖を作り始めた。そんなことはお構い無しと蓮見は複製のスキルを使い悪巧みを始める。
「これが俺たちの新時代伝説の幕開け! スキル『爆焔:chaos fire rain』!!!」
人様のスキルを盗み利用するのが上手くなった蓮見は機械王の攻撃を避けて水龍の方へと走り始める。
「進行方向、上!」
「はい!」
前方上空に大きな魔法陣が出現し、その中に吸い込まれていく水龍。
「ルナ今だ! 水龍を部屋全体に行き渡らせてくれ!」
「わ、わかりました!」
指示に従う瑠香。
それを心配そうに見守る朱音。
「ダーリンの考えが全くわからない‥‥‥‥だけどなにかが起こる気しかしない‥‥‥‥なのにルナはなんのためらいなしに指示に従ってる。本当に大丈夫かしら」
そんな心配は最早無用!
と言わんばかりの勢いで蓮見が機械王と戦っている。その目に迷いはない。あるのは、必ず成功されるという欲望(カッコイイ所見せて好感度アップ)のみ。
蓮見の放った矢は機械王に当たらない。
全部簡単に躱されたからだ。
矢はそのまま一直線に飛んで行き柱や壁に突き刺さる。
「そろそろいい感じかな」
蓮見は走りながら全体に視線を泳がして水龍の位置を確認し把握する。
「いくぜ! 機械王とやらこれが俺の最後の攻撃だ! 果たして俺が勝つかお前が勝つかはたまた謁見の間が耐えれずして強制終了か、さぁ勝負だ!」
蓮見は懐から熱伝導率が非常に高く超貴重なレアアイテムの一つ【プラチナ白龍の破片】を複製された水龍たちの近くへと投げていく。水龍はソレに釣られるようにして進行方向を微調整。
本来ではありえない。というか発想すらしない謁見の間破壊という言葉に美紀たちの頭が瞬時に解を導き出す!
「ミズナ! 柱を全力で護って! 紅のやつ部屋毎粉砕する気だわ!」
美紀が叫び後ろを振り返るとエリカが慌てて美紀たちのもとに走ってきているではないか。そしてブルーとイエロー蓮見はエリカの護衛を止めてレッド蓮見(本体)に合流するように走り始めていた。
「ミズナ! やっぱり柱は後『導きの盾』を複製して展開!」
「わ、わかった」
朱音がレイピアから杖に武器を持ちかえて二人同時に導きの盾を複製し展開していく。その隙に蓮見は機械王の攻撃が届かない所まで全速力で走り強引に距離を開け弓を構える。
「いくぜ! 俺様たち!」
「「おう!!!」」
「「「スキル『連続射撃3』からの『紅蓮の矢』!!!」」」
虚像の発火とは比べものにならない熱気を放ち、荒々しく燃える炎を纏った矢は三人の前方にそれぞれ出現した赤色の魔法陣を通り抜け一気に加速する。連続射撃の効果を受け矢は一射五本へと本数を増やし蓮見が投げたプラチナ白龍の破片に向かって飛んでいく。その間に蓮見はHPポーションを飲んでHPを全回復しておく。
――例えばそれは熱したフライパンに水をかけるとどうなるだろうか?
水は一瞬で蒸気となりフライパンから弾かれないだろうか。
その水はたった一滴でも肌に触れれば物凄く熱いとは思わないか?
――例えばそれが炎によって瞬間的に熱された【プラチナ白龍の破片】に水龍が衝突したらどうなるだろうか?
水が一瞬で蒸気となりプラチナ白龍の破片から弾けるように悲惨しないだろうか?
その水はたった一滴でも物凄く熱く火傷するほど熱いとは思わないだろうか?
原理は『超新星爆発』こと『正式名称:水爆』と同じ。
それが形を変えて発動した。
ただし前代未聞の領域――謁見の間で十か所同時に爆発が起きた。
それは爆破の中心部に近かった蓮見と機械王のHPゲージを根こそぎ奪う破壊力を秘めていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ああああああああ!」
二人の悲鳴は爆発音によってかき消される。
あまりの激痛に一瞬意識が飛んでしまう。
――。
――――。
「はぁ、はぁ、はぁ」
爆発が鳴りやむと機械王が床に倒れていた。
全身を覆っていた炎は消え、心臓部のコア部の炎も消えている。
「へっ、へっ、なんとか勝ったな」
勝利の余韻に浸っていると、ブルーとイエローがそこにはいなかった。
どうやら打ち所が悪く爆発に身体が耐えきれなかったらしい。
「でも、まぁいいや。勝ったし」
心の中でお礼を言う。
蓮見が振り返ると美紀たちが薄い緑色の盾を連結させて作られた四角い障壁の中にいるのが見えた。そのまま美紀たちの元にガッツポーズをしながら行こうとしたとき、全身の炎が消えてガラクタと化した機械王が居る方向からガシャンと嫌な音が不意に聞こえた。
もしかして?
と嫌な予感を胸に抱きながら振り返ると、心臓部のコア部から炎がボッと出現しては機械王に再び命を与えた。
「えっ……マジ?」
流石の蓮見もこれには心底驚いた。




