運営室では……
■■■
運営室。
今回こそはと思っていたメンバーたち。
だがその自信は僅か三日で壊された。
「くっ……。またしてもやられたわね」
「一瞬……だったな……」
「こっちの容量も少しは考えてくれ……」
「規模が……デカすぎる……」
「約一日分……をたったの一撃で稼ぐとは……」
「し、心臓止まるかと思った……」
まず女。
ため息混じりに口を開いた。
それから近くに置いてあるハンドタオルで冷や汗を拭いて息を整える。
少し前まで今度こそ私達の勝ちだと確信しイベントを静かに見守っていた者の表情とは到底思えない。それもそのはず最後の最後で進化した神災によって、ついにやってきた。サーバー負荷が。限界値に……。そのため生きた心地がしない。時間にして一秒足らずで復旧してくれたからこそ良かったものの……いやそれに気付いたプレイヤーがいなかったから良かったのかもしれない。
それは他の男四人も同じ。
冷房が効いた部屋にも関わらずまるでお風呂にいるかのように額から汗を流していた。
「なんでいつも変な使い方するんだよ……。普通に遊んでくれ……」
「あ、あ、ああぁあぁあああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"~」
悪夢を見たような顔で叫ぶ責任者。
気持ちはわからなくもない。
自分達がたった一人のプレイヤーに振り回されていると考えれば少なくとも多少は同情ができる。が、逆を言えばそんなプレイヤーがいたからこそ自分達の成功があったのではないか!? と考える事もできなくもない。もし蓮見がいなければこのゲームはここまで人気作になりえたのかという話しだ。
「今度から死んだらスキル強制終了するようにしないとダメかな?」
「それが妥当って言いたいわね。でも……」
「でも?」
「……それをしたらしたで変なこと起きないかしら?」
「例えば?」
「…………」
女は答えない。
ただ何かを訴えるように大型モニターに視線だけを向け周りに意思を伝える。
口にしたらそれがフラグになりそうだから、とは絶対に言わない。
心の中で留めつつ周りにそれを察してもらう。
これが女の出した答えである。
それを薄々勘付いた男たちは「あ~」と声を漏らしては首を縦に何度か振る。
「まぁ、いい――」
責任者は一度何かを諦めたように天井を見つめてモニターへと視線を戻す。
「――第四層からは時間も金も優秀な人員も今まで以上にかけた。今回までのことを水に流すわけではないが――」
咳ばらいをして今度は視線を部屋に集まったメンバーへと順番に向け、
「――小百合シリーズを始めとしたこちらの準備も当然完璧。ならば必然的に結果はでるはずだ。今まではプレイヤーたちのポテンシャルによって起こりえる足切りを可能な限り排除してきたが第四層からは普通のモンスターも今までとはアルゴリズムが全く違う別物」
「「「「つまり……?」」」」
「――神殺しの礼装を始めとした武器も多数でてくる。それらを使いこなせるかはプレイヤーたちの技量次第。だが当然使いこなせるプレイヤーも中にはいる。そんなプレイヤーたちに対して【異次元の神災者】と呼ばれる者が今まで通りに立ち回れるかと言われればそうじゃない。なによりこれによって今までゲームが苦手だったプレイヤーたちの戦略も増え、ゲーム全体の楽しみ方が増える。それらを踏まえると俺達のやってきた努力がようやく報われるというわけだ」
――ゴクリ。
「な、なるほど……」
「でッ、だ!」
「「「「…………?」」」」
首を傾ける四人。
それに対して責任者は一度ニコッと微笑んでから。
「少しは余裕のある行動をこれからは心掛けようじゃないか!」
そう言って椅子に座った責任者に対して女が口を開く。
「それで神災が止まることとソレがどういう関係があるのよ?」
――グサッ!
「あの子はね、私たちの想像を軽く超えてくる子なのよ?」
――ギクッ!?
「アルゴリズムは確かに違う。でも第四層でプレイヤーたちが順応する頃には【異次元の神災者】も多少なりとも順応をする。そうなったら今までと根本は変わらないと思うのだけれど?」
――ッ!?
「おい……もう止めてやれ」
「一応あれでも上司」
仲間の静止を無視して、
「そもそも神殺しの礼装が三本中二本も【異次元の神災者】率いる【深紅の美】ギルドに渡った時点で来週以降予定されている第四層解放後のギルド対抗イベント本当に大丈夫なんでしょうね? 毎回規模が拡大する神災。今回は事あろうことかサーバー負荷限界――」
女は真っ直ぐに自分の意見を責任者の男に伝えていく。
それは相手が年上、男性、上司、社歴が長い、そんなものは関係ない。
最後責任者は心をズタボロにされた。
「ったく、逃げても私たちの仕事が減るわけじゃないんだからね!」
と言葉を締めくくった。
責任者が心に傷を負ったなか、五人は第四層アップデートへと向けて最後の準備を開始する。それは運営室による新しい戦いの始まりであり、蓮見たちにとっても新しい戦いの始まりなのかもしれない――。




