ついに訪れた最終ラウンド開始の瞬間
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集中力が低下してきた。
それはつまり――脳が疲れてきたということ。
いつもみたいにこの状況をどう乗り越えようかと少し考えてみるも頭が思うように働かない。
どの道イベント残り時間も後少し。
ここで逃げて態勢を整える時間は残されていない。
だったらと覚悟を決めて、大きく口を開けて息を吸いこんではゆっくりと吐き出す。
「やっぱり最後はこうなるよな。てか俺いつも限界ギリギリまで追い込まれている気がしなくもないが今回ばかりはマジで成功するイメージがな……」
蓮見の言葉にエリカが「やっぱりあるはあるのね……」と心の何処かで安堵する。
そんなエリカを頭の上に乗せた蓮見は美紀達に問いかける。
「へっ、へっ、流石に今回はお手上げだよ」
「急にどうしたのくれみぃ?」
やっぱりまだ小悪魔スイッチが入っているのかと蓮見。
「いんや。でもまぁ、ぶっちゃけもうお手上げなのは事実だからな!」
「…………」
警戒してるのか美紀が視線を周囲に飛ばし始める。
「おいおい、そんなに警戒しなくてもフィールド破壊なんて野暮な真似はしないから安心しろよ」
一体どの口が言っているのだろうか。
蓮見の真下――地上付近では煤煙が舞っている。木々やお墓は超新星爆発の被災地となり辺り一面木端微塵に吹き飛んだ。少し離れたところでは爆発の難を逃れるも大爆発の影響を受けた建物の残骸などが炎を上げてまだチラホラと燃えている。視線を遠くに移せば氷の世界一色で寒さによる凍傷被害を傷跡として残している。そこに巻き込まれた多くのプレイヤー達は不可抗力による神災を一方的に受けては半数以上は天へと帰るか身体と心をボロボロにされると歯向かう事すら許されない状況を突き付けられた。なぜならプレイヤーとしての格がある意味一般プレイヤーとは逸脱し過ぎて次に何をしてくるのかが誰も予測ができないからだ。そのため身の危険を少しでも感じたら触らぬ神(神災)に祟りなしという言葉が最近密かに流行している。
そんな神か悪魔かわからない概念の存在的な扱いを受ける蓮見。
だけどそんな蓮見もついに幼馴染にして蓮見の良き理解者である美紀、いち早く蓮見の可能性を見抜き興味の眼差しを向けてきた綾香、他ゲームでプロそれも世界ランキングを持った七瀬と瑠香の母親である朱音の三人に追い詰められてしまった。
――蓮見自身そう思った。
遠くから見守る観戦者たち。
もっと遠くの世界――運営陣からも。
だけど耳を澄ませば美紀が右手で持つ槍はカタカタと小刻みに音を鳴らしている。
それは蓮見には聞こえないぐらい小さい音。
「里美ちゃん?」
「……来ますね、あの雰囲気」
「だよね……」
「私も同感かも……」
と、三人は追い込んだ蓮見を見て警戒していた。
「でもどうして……」
「どうしたんですか?」
「どうしてダーリンは追い込めば追い込むほど楽しそうに笑ってくるの?」
「それは――」
美紀は今の蓮見を見て答える。
「――きっとこの状況を楽しんでいるからなんじゃありませんかね」
美紀の言葉に綾香が同意して頷く。
「そうだね。まぁ、乞うご期待ってことでそろそろ最終ラウンド始めますか」
「えぇ。綾香の言う通りね」
「ふふっ、そうね~。なら私も二人の意見に賛成してみようかなー」
蓮見の背中に寒気がした。
直感でわかってしまった。
「おいおい、初心者相手になんですか? そのやる気満々の顔は?」
「あら~そんなことないわよ~」
「だったらお母さんその笑み恐いんで止めてくれません?」
「それは無理な話しね」
「そうだよ、くれみぃ~ひどいなぁ~」
「里美までその気かよ……ってことは当然綾香さんもか……」
「と・う・ぜ・ん!」
「だったら三人共後悔するかもしれませんよ?」
「……んっ? どういう意味かしら?」
「俺様超全力シリーズ本家『-----』を喰らえってことだよ小悪魔三人組ー!」
そう言って蓮見は真正面から三人に向かって突撃。
ここまできてただで負けるつもりは毛頭ない蓮見が考え出した答えがこれだった。




