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とりあえずカッコいいのとモテそうなので弓使いでスタートしたいと思います  作者: 光影
一章 神災者爆誕と俺様全力シリーズ伝説

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『恐怖のお化け屋敷』開始&新たな逃亡伝説


 一日目。

 まずはダンジョン探索のみとなっているがそれは制限時間付き。

 プレイヤーはダンジョン――廃墟となった屋敷の中や周辺を探索しお宝を見つける。見つけたお宝は自動的に価値に合わせて入手と同時にイベント専用ポイントへと変換され反映される仕組みとなっている。当然多くのプレイヤーが見つけにくい場所や特定の条件をクリアしないと入手できないお宝の方がポイントは高く設定されている。


 夜の月明かりが照らす廃墟となった館の前で蓮見は一人放心状態になっていた。

 イベントの転送は毎回ランダムで全員が極力被らないようになっている。

 なので近くに敵となるプレイヤーや味方となるプレイヤーもいない。

 そのため、誰かについて行くにしてもまずは誰かを見つける事から始まるわけなのだが、誰かを見つけるまでのハードルが高い。


「……俺……ぼっちか……」


 正しく状況を理解した蓮見は身体をぶるぶると震わせながら呟いた。

 目の前の館があまりにもボロイのかすきま風がビューと音を鳴らして蓮見の身体に触れる。そのたびに何とも言えない感覚が全身を襲う。


 空を見上げればイベントが終わるまでの時間が大きく映し出されている。それと赤く光る月明かりと薄暗くも僅かに赤い夜空。

 蓮見は大きなため息一つ。


「はぁ~。運がねぇ……」


 イベント始まって以来蓮見の大嫌いを詰め込んだイベントは蓮見のテンションを今までにないぐらい下げていた。蓮見はお化けが嫌い、なので二日目からもお化けを倒してポイントを稼ごうとは今は考えていない。そうなるとお宝探しと言いたいのだが、それもどうも気が進まない。

 頭を抱える蓮見は一人大きく出遅れる。

 早くしなければポイントが低い物の比較的に見つけやすいお宝が他のプレイヤーにとられてしまう。そう、頭ではわかっているのに……身体が動こうとしない。まるで両足に目に見えない重りを付けられ、身体には鉄の鎧、頭には鉄の鎧を身にまとったような、そんな状態でどう動けばいいのだろうか。実際は何もないのだが、蓮見の心情が作りだす妄想が邪魔して身体が動かないのだ。


「くっ……悔しいが俺はどうやらここまでのようだな……」


 奥歯を噛みしめ、早くも負けを認める。

 その時だった。

 後ろの方で何かが割れる音が聞こえた。

 恐る恐る振り返ると――そこには。


「で、でだぁ~~~~~~」


 半透明の存在がそこにはいた。

 まるで白いカーテンに穴をあけそれを頭から被り半透明。

 それから赤い舌を出してケラケラと笑う不気味な存在に蓮見の目に見えない鎧が消えてなくなる。

 条件反射ですぐさま館へと視線を戻した蓮見は目にも止まらない速度で走り始めた。

 そこに迷いはなかった。

 いや、迷うだけの心の余裕などなかった。

 全力で走り始めた蓮見は目に見える障害物や館に設置された罠の数々をくぐり抜けて玄関を抜け、廊下を駆け抜け、一気にプレイヤー百五十が入ってもまだまだかなりの余裕があるとても大きな館の中を猛スピードで駆け抜ける。天井から降ってくる槍、底が抜ける落とし穴、両サイドの壁から毒矢が飛んでくる間、だけどそんなものは今の蓮見にとってはどうでもいいのだ。


「……な、な、な、なんでだぁ~何処見ても何処に逃げても幽霊しかいな~いぃじゃーんっ!!!」


 そんな情けない声を出しながら【異次元の神災者】の異名を持つ者は目から透明色の滴を零しながら安住の地を求めて走り続ける。途中見える宝箱にも当然目も向けず。


 館の奥深くに行けば行くほど幽霊が増えるのだが、今自分が何処にいて何処に向かっているのかを全く把握していない蓮見は負の連鎖へとおちていく。

 逃げる、館の奥深く、逃げる、幽霊多い、のスパイラルは見る者を色々な意味で唖然とさせていく。


「お、おい。道開けろ」


「あぁ? なんで?」


「う、後ろから【異次元の神災者】が……来てるんだよ……それもす、すごい勢いでッ!」


「うぉ!? ま、マジか!」


 急いで道を開ける四人パーティー。


「お、落ち着け、この先はロープ一本しかない綱渡りが待ってる! それも十メートルぐらい距離あって壁に穴が開いていて横風がめっちゃ吹いてる。それにそこではスキルが強制的にキャンセルされる変な罠もある! だから一回止まれ! 道は譲るから! お前が先でいいから! なっ!」


 つい勢いで蓮見に警告する男の声は残念ながら蓮見には聞こえない。


「アリア頑張って。後もう少し!」


「う、うん」


「ほら、手を伸ばして」


「うーんッ!!!」


 金髪美女の二人組は手を取り合ってなんとか綱渡りをクリアしていた。

 そこに蓮見がやってくる。


「あれは【異次元の神災者】様!?」


「ちょ!? あの速度で!?」


 蓮見は全力疾走のままロープへと足を乗せる。

 そこに迷いはない。


「ゆ、ゆうれい、ゆうれい、ゆうれい、ゆうれい、……消えろ、消えろ、消えろ、頼む見逃してくれーーーーーーー!!!」


 懺悔にも聞こえるその声は背後から蓮見を追いかけてケラケラと笑っている幽霊たちに向けられた言葉である。

 普通人の身だけでは絶対にクリアできない『決死の綱渡り』と呼ばれる場所は本来アイテムを駆使して金髪美女二人組のようにクリアするのだが蓮見はその身一つで一歩また一歩と進んでいく。

 常人離れしたソレは度胸などではない。

 ただ幽霊から逃げるのに全力のため、足場を一切見ていない男の生き様。

 幽霊に捕まるぐらいなら落ちて安楽死を選んだ方が百倍マシ。

 そこまで追い込まれた人間は時に信じられない力を発揮する。

 それは自然界において肉食動物に追い詰められた草食動物のように因果関係を逆転させる。草食動物が生き抜くために勇気を振り絞り肉食動物に挑むように蓮見は幽霊! ではなく罠に立ち向かった。結果十メートル二秒と驚異的な速度で走り抜けた。


「す、すげぇ、あれはなんだ……」


「嘘だろッ!? ありえねー」


「な、なんだ今の神速は!?」


「本当に異次元じゃねぇか……」


 四人組のパーティーメンバーは参考にならないお手本を目の前で見せつけられ、死に物狂いで頑張った金髪美女二人組は、


「わぉービューティフル!」


「oh-イケメン! 惚れ惚れしますねー♪」


 と賞賛の声を送った。

 こうして蓮見の幽霊逃亡伝説は早くも多くのプレイヤーの注目を浴び、この後提示板では早くも警戒されるようになった。


 ――後に第三層最後の昇格へと繋がる。


 では少しだけ見てみようか、一日目の経過報告がされている板とやらを。


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