ダメ元の交渉
翌日蓮見は珍しく勉強机にいた。
夏休みの宿題を少しでも終わらせるため。
本当はこんな地獄のような問題と向き合うのではなく、ゲームの中でモンスターと向かい合いたいのだが実はそうも言っていられない理由があるのだ。
それは数十分前のこと。
夏休みの宿題をどうやって終わらせようか考えながら部屋を出てリビングに行き水分補給をしていた。
そこに偶然仕事から朝帰りした母親がやってくる。
「ぼっーとしてないでいい加減今のうちから宿題しなさい。夏休み明けの面談で担任の先生から宿題してませんでしたなんて言われた日にはお母さん本気で怒るからね?」
「具体的には?」
「三ヶ月お小遣いなし」
その言葉に持っていたペットボトルが床に落ちる。
それは蓮見にとって絶対に合ってはならない事実。
もしそんなことになれば金欠になってしまい、欲しいものが何も買えなくなってしまう。それが三ヶ月も続くとなればそれはもうこの夏以上の地獄が待っているとも言える。
「……え、ま、まじ?」
「マジよ。だからたまにはちゃんと勉強しなさい」
「は、はい……」
落ち込む蓮見に母親が言葉を投げかける。
「別に宿題しなくても全教科満点取れるならしなくてもいいのよ?」
その言葉に蓮見の心臓が締め付けられる。
母親がとても痛いところを冗談半分で言ってきたからだ。
「わかったら、ちゃんと勉強してきなさい?」
「は~い」
下を向き部屋へと戻る蓮見。
それから渋々勉強机へと向かい夏休みの宿題をカバンから取り出し広げシャープペンシルを片手に問題と向き合い始めた。
そんなことが合って蓮見は今頑張っていた。
だけど問題が難し過ぎてサッパリだった。
理解以前の問題が積み重なる中、窓の方に何となく視線を飛ばすと偶然にも美紀とエリカがいた。
「……ん?」
集中していて気付かなかったが二人がこちらを見ていたらしく、蓮見と視線が重なると慌てて視線を逸らす二人に蓮見はふとっ思う。
「さては勉強する俺を見て明日雨降るとか言ってた感じだな?」
ネガティブ思考もここまで来ると清々しい。
というか自分でそう言えるだけの自覚がある蓮見。
そんなわけで考えてもわからない問題と向き合うのを一度止め窓の方へと歩いていく。
すると美紀とエリカが慌てて窓から離れていく。
家が隣同士で窓の高さが同じで距離が手を伸ばせば届くか届かないかの至近距離も考えものだなと思いながらも蓮見は窓を開けて声をかける。
「もしかしなくても今暇なの?」
「う、うん、まぁ……そんな感じかな……ね、エリカ?」
「そ、そうね……」
視線がキョロキョロして怪しい美紀とエリカにこれはなにか裏があるなと珍しく勘が働く蓮見。
「なんでこっち見てたんだ?」
「いや……その……珍しく勉強してるから……頭でも強く打ったのかな……って思って」
「私は……なんて言うか……急にどうしたんだろう……って思って」
その言葉に思わず苦笑いの蓮見。
どうやら悪い予感は見事に当たってくれたらしい。
事実普段から勉強してない自覚がある以上文句は言えない。
というか言っても正論で返されそうなのでここはグッと堪える。
そして物はダメ元で相談してみる。
「あのな~。まぁ……事実だからいいけど。それより頼みがあるんだけど聞いてくれない?」
「「頼み?」」
「うん」
「「別にいいけど、なに?」」
「私に勉強を丁寧に優しく教えてください。夏休みの宿題が全く持ってわからなくて大変困っております。どうか自慢の知識を私に教えてはくれないでしょうか?」
プライドを捨てて頭を下げる。
正直こうでもしないと美紀が首を縦に振るとは思えないし、なんならこれでも断られることは目に見えている。だけど蜘蛛の糸に縋りたくなるほど今の蓮見は勉強に追い込まれていた。夏休みとはダラダラと過ごせばあっという間に終わってしまうもの。そのため少しでもやる気があるときに宿題を終わらせておかないと後が大変な目に合ってしまう。
すると腕組みをして考え始める美紀とエリカ。
「教えるのはいいけど……蓮見の場合大変だからな~」
「そうね~。蓮見君日頃から勉強してるように見えないから多分教えるとしたら一からになりそうなのよね~」
「うん、うん、正にその通り。それに私達の力を借りても自分の力でしないと正直今後を考えたらタメにならないというか」
「そうよね。美紀の言う通り。何事も自分で調べて解く癖をつけないと後が苦労するわよね」
勉強ができる組の発言は勉強ができない蓮見には聞いててとても辛い会話だった。
やっぱりだめか、と落ち込む蓮見。
だがこれは頼む前からなんとなくこうなる予感はしていただけにショックは少ない。
「ですよね~。はぁ~」
ため息を吐き勉強机に戻ろうとした蓮見を美紀が止める。
「待って!」
「ん?」
死んだ魚のような目で振り返り静止する蓮見。
「でも一生懸命するってなら考えてもいい! それなら宿題が終わるまで一緒に調べながら解説してあげても!」
蓮見の目に光が徐々に戻ってくる。
「そうね。私も協力してあげる。私なら一日で終わる自信があるから蓮見君となら一日一教科と考えて五日もあれば全部の内容をある程度理解できるぐらいにはしてあげれると思うわ!」
蓮見の目が見開かれる。
まさか美紀だけでなくエリカまでもがこんなにも協力的なんて思ってもいなかったからだ。これはまさに水を得た魚の如く。
「ほ、本当に!?」
「「ただし条件が一つ!」」
二人の声がさっきからよく重なって聞こえる。
これはいよいよ持ってなにかあるなと覚悟を決めて聞く。
「な、なに?」
「「今日から始まる限定イベントのアイテムが欲しいの(わ)!」」




