成長
あれから三日が経過した。
つまりイベントまで残り二日となった。
蓮見は一人ログインしてスキルを探している。
「そう言えば『HP強化』や『MP強化』と言った基本的なスキルは持ってないよな……。里美は別にあってもなくてもPSでなんとかなるって言ってたけど……」
現実世界での都合上、上手く美紀と時間が合わなくなった蓮見は一人でログインしている時は基本的にスキルを身に付けようと頑張っていた。PSは美紀と一緒に行動していればそのうち自然と上がると考えている。
「確か里美が言ってたけ……基本的なスキルはショップで買う事も出来るって」
ここ数日、モンスター撃破ばかりしていた蓮見は大金持ちと言えるわけではないが気付けばそこそこにゴールドを持っていた。勿論使わない素材は美紀の勧めで定期的に売って換金している。
このままイベントに臨むのは正直気が引けた。
幾ら成長しているとは言え、美紀のようにトッププレイヤーから見た蓮見は初心者にようやく毛がはえたようなものである。
内心不安になりながらも先日美紀に教えてもらったオススメスキルが入った【スキル一覧表】を確認する。
しばらくすると、蓮見の目がある物を見つけて止まる。
それは美紀に言われたオススメスキルではなかったが、蓮見の興味を引くスキルだった。
「……『投影Ⅰ』か。確かに弓使いは魔法使いに比べると魔法で火力がないのと防御魔法が少ないからな……」
投影は弓使い専用スキルの一つである。
蓮見の言う通り弓は魔法使いに比べると火力が落ちるのと防御魔法が極めて少ないのだ。
【投影Ⅰ】
効果:相手の魔法をコピーする。コピー可能効果範囲は半径五メートル。
コピーした魔法のステータスは使用者のステータスに依存する。
コピーした魔法の貯蔵は3分まで可能。それ以降は自然消滅。
使用回数:一日3回
獲得条件:スキルショップで購入。使用には最低Lv.20必要
「とりあえず買っておくか! これから何があるかわからないし」
蓮見は早速スキルショップに足を向けて歩き始める。
スキルショップとはNPCが運営する装備や武器に合わせた基本的なスキルを販売しているお店のことである。基本的には初心者はまずギルドでクエストを受けゴールドを貯めてゲームを進めていく上で有利になるスキルを買うのだ。
スキルショップでゴールドを使いスキルを買った蓮見がお店から出てくる。
蓮見が買ったスキルは三つ。
ゴールドをNPCに渡すと、頭の中に声が聞こえてすぐに修得出来た。
今回蓮見が【投影Ⅰ】と一緒に買ったスキルは【HP強化小】と【MP強化小】そして余ったゴールドで初心者の指輪を買った。
これにより
【HP強化小】でHPが+10
【MP強化小】でMPが+10
初心者の指輪でHPとMPが+5
されたので確認の為にステータス画面で今どれくらいの強さまで成長したのかを見てみる。
紅
Lv.24
Hp.69(+39)
MP47(+36)
【STR30(+17)】
【VIT17(+37)】
【DEX67(+55)】
【AGI41(+17)】
【INT22(+13)】
【MND9(+4)】
【CRI58(+55)】
装備 紅シリーズ(スロット3)
頭【紅のヘアピン】
体【紅の鎧】
右手 【メイン:【深紅の矢】サブ:【鏡面の短剣】『複製Ⅰ(別名 模倣Ⅰ)』】
左手【深紅の弓:『領域加速』】
足【紅の脚】
脚【紅の靴】
装備品【紅の指輪】
【黒茨ベルト】
【初心者の指輪】
スキル
『イーグルアイ』『イーグル』『矢の自動生成』『絶対貫通』『レクイエム』『連続射撃3』『弓兵の観察眼』『見えないふり』『複製Ⅰ(別名 模倣Ⅰ)』『精神防御』『投影Ⅰ』『HP強化小』『MP強化小』
自動発動スキル
『火事場の速射』
『火事場の俊足』
『詠唱』
『歌の魔力変換』
『領域加速』
「ふむ。最初に比べると結構強くなったな。それよりもここで満足せず今からはスキルは手に入れた事だしやっぱりPSから磨いていくか! ……またいつあんな目に合うかわからないしな……」
そう言って第二層のフィールドへ向かった。
「ふぅ~やっと着いた。それにしても第二層は第一層と違って広いな……」
美紀が言うには今の蓮見にはちょうどいい相手が出るらしい。詳しい事は行けば分かると言われたので聞いてはいない。内心どんなモンスターが出るのかワクワクしながらやって来たのは、勇気の森と呼ばれる所。しばらく森の中を歩いて行ると音が聞こえてくる。
ガサガサ
ここの森は一本一本の木が高く高さが七メートルから二十メートルある。
そんな木々をかぎ分けて姿を見せたのはモンスターと言うにはどうなのかと思われる巨大な人型の巨人である。巨人は全長六メートルで肩幅は見る限り二・七メートル程度だと思われる。
「いやいやいやいや……里美から聞いてたけどさ、てかそれ以前にまず一言だけ言いたい……どう見てもでかすぎるだろ!!!!!!!!」
何でも対象が大きく、ゴーレムより動きが速くて強いのと隠れる場所があるから弓の練習相手には持って来いと聞いていたがまさか人間をそのまま大きくしたようなモンスターが相手だとは流石に思わなかった。
まるで人間が小動物を見下ろすかのように蓮見を見る巨人。
「おっ、おう。……いいぜ。かかってこいよ!」
毎回の事だが初めて相手にするモンスターには少しビビる傾向がある蓮見。
「スキル『イーグル』『イーグルアイ』!」
だがこれも慣れだと思い、頑張る事にした。
美紀が一緒だとどうしても安心してしまう自分がいてそんな事はないのだが、やはり一人だとまだ自信がないのだ。
蓮見が矢を構え、放ちながら木々を利用しながら身を隠す。
だが矢は当たらない。
それどころか蓮見を追い詰めるように近づいてくる巨人。
「マジか……人間をそのまま大きくして移動速度を少し遅くした感じじゃねぇか」
どうやらKillヒットと判定される頭と心臓には警戒心が強いのか全て躱される。不意打ちで狙っても腕や手の平で急所は護られるのでKillヒットは愚かテクニカルヒットすらままならない。
「やべぇな……」
走りながら逃げ道を塞がれないように気を付けながら攻撃する。
美紀曰く、敵の動きを見て反応するのではなく敵がどう動くかを予測して行動する事が大切らしい。
それから様子を見る為に一旦攻撃の手を止めて、相手の動きをじっくりと観察しながら逃げる。
しばらくすると目が慣れてきた。
そのまま再び弓を構える。敵の攻撃をギリギリまで引き付けてその巨体を支える為に重心が一点に集中するタイミングを待つ。
「その大振りのパンチの為に片足を突き出す時、お前の重心はどうしてもその突き出した片足に集中する。それがお前の弱点だ! スキル『レクイエム』!」
巨人を倒したそう思った時、今度は別の方向からも巨人が新たに三体出現する。
「なるほどな。敵は一体じゃないと……。こりゃ骨が折れるな」
その後一時間かけて巨人の二体を倒した蓮見は疲れたので最後は悔しいが逃げる形でログアウトした。一体を相手にする時とは違い三体になると三体全てに集中しないといけない為、初心者プレイヤーには何とも重労働であった。




