平和な時間
「そう言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます……っう……」
まだ身体が痛い蓮見は美紀の膝の上でぐったりしたまま。
そんな蓮見を見て「可愛いー」と言って頭をわしゃわしゃしてくるエリカに視線を向けるとクスッと笑われてしまう。
それからもエリカのちょっかいは続く。
「エリカって本当に蓮見とお話ししたり戯れたり変な事を一緒になって考えたりするの好きよね」
「まぁ~ね」
どこか嬉しそうな声に質問をした美紀がムスッとする。
「そう言えば美紀さんって学校でも蓮見さんと一緒にいるんですか?」
「う~ん、隣の席だから近くにはいるけど私も友達いるから基本はそっちと一緒かな。毎日一緒ってのは登下校の時ぐらいよ」
「いいなぁ~。蓮見さんと一緒に登下校……毎日が楽しそうですね」
羨ましそうに蓮見と美紀に交互に視線を向ける瑠香。
そんな瑠香の視線に「そうか? 別に普通だぞ?」と今にも死にそうな声で答える蓮見。
すると、今度は七瀬が。
「でも毎日美紀に振り回されてそれはそれで大変そう」
その言葉に美紀の身体がビクッと反応し、蓮見の身体が揺れた。
「そ、そ、そんんなぁわけなぁいじゃない!」
「ふーん。その割には慌ててるように見えるけど?」
「き、気のせいよ」
「なら聞くけどいつもどうやって一緒に登下校してるの? 大方予想はつくけど」
その言葉に蓮見は耳だけを傾けていつもの登下校の様子を頭の中で振り返る。
するといつもの日常が脳内で鮮明に映し出される。
例えば、つい先日のこと。
罰ゲームとして今月美紀のカバン持ちを命じられた蓮見。
それから今月限定で罰ゲームの延長線上として学校内ではお昼は美紀と一緒に食べることを上目遣いでお願いされ、ここ最近は好きな人と距離が空いて寂しいから変わりに相手してと気が向くまま夜やって来ては一緒に寝てそのまま朝強制的に起こされ登校パターンが増えたな、と。こちらの気を一切考えずに薄着でノーブラでやって来たかと思えばその豊かな胸を寝言を言いながら抱き着き押し付けてきたりとまったく持って蓮見の内なる欲望を刺激してとけしからん日々が続いているのは本人だけの秘密。しかもだ、当の本人は気持ちよさそうに時に涎まで垂らして寝ているのだぞ? おかげで一人夜な夜な美紀が来る前に暗躍する日数が増えてしまった。
だけど男子諸君。この気持ちわかってくれると思う。可愛い幼馴染が無防備にも不意打ちでその……なんだ……無意識に……そうしてくるのだ。これは仕方がない事実だとは思わないか? いや、まったくその通りだ! きっと大勢の人は賛同してくれるだろう。毒は体内に溜めておけばいつ暴発しても可笑しくないゆえに処分しなければならない。これは医学的にも証明されていると昔誰かが言っていた気がすることから健全な儀式でもあるのだ。
それに女子諸君聞いて欲しい。女子にその気がなくても男ってのは単純な生き物ゆえにそんな些細な事で……その……なんだ……頭が興奮してしまうのだよ……いやわかってるとも……頭のいい女子諸君はそれを狙ってやっていることなど。美紀の場合、それが無意識かつする相手を間違っていることを……。だから! 俺は……そう。色々と受け止め我慢しているのだ! だから……どうか引かないで欲しい。俺は……これでも色々と耐えているのだと!
そんな事を心の中で思い叫びながら蓮見は疑いの眼差しを美紀へと向ける。
「は、はすみまでな、なにっよ?」
「いやべつに?」
「わ、私振り回してなんかないもん。ただ我儘言って甘えただけだもん」
気が動転して余計なことまで言ってしまう美紀。
だけどまだ続く。
「そ、そう、これは罰ゲームなんだから当然のことなのよ……うん、うん、そうよ、そうゆうことよ」
と、一人勝手に納得して強引に丸く収めようと久しぶりに見る慌てた美紀は美紀で可愛いのでこれはこれで良しと蓮見も余計な事は言わないであげることにした。
「やっぱり……」
どこか納得と言いたげな七瀬。
「美紀ってそうゆうところ昔からあるよね。普段はツンツンしてたりするけど、無性に寂しがり屋さんになったり、意地悪さんになったり、かまってちゃんに突然なったりすること。大抵そうゆう時って決まって特定の人物が選ばれるんだけど、今回は本当に罰ゲームだから偶然その相手が蓮見なの? それともそれを口実に本当は他の理由だったりするの?」
その言葉に美紀の視線が泳ぎ始める。




