蓮見VS朱音 すれ違う心
「……危ない、危ない」
そう言って立ち上がりながら、HPポーションを使ってHPゲージを回復した朱音は余裕の表情を見せる。
「一瞬やられた!? と思ったけど、よくよく考えてみたらプロ戦じゃなかったわね」
冗談半分と言った具合に口を開く朱音に蓮見は苦笑いしかできない。
確かに、蓮見はプロじゃない。
当然プロ程の実力はない。
なので今みたいにせっかく攻防の流れを変えれるチャンスがあってもそれを百パーセントの確率で掴むことはできない。さっきみたいにプロならきっと攻防の流れを変える一手として使ったのかもしれないが、蓮見は攻撃の流れを止める一手としてしか使っていなかった。そもそも考え方が違う。もっと言うなら、経験の差が違い過ぎる。PSが高い者ならそれを脳で考えるのではなく、なんとなく身体でそれが最善手だと感じ取り行動できたかもしれない。どんなに取り繕っても所詮素人は素人。ちょっとやそっとの期間で何年何十年とプレイしている者達に追い付こうなど最早無謀。それでも蓮見は諦めたくない。だってまだ決着は付いていないのだから。
「詰めが甘い。だけど意外性はある。でもそれじゃニ流、一流には勝てない。ハッキリと言うとね、さっきの攻撃実は結構手を抜いたの。いつ反撃してくるのかな? って思ったから。結果的にはこうなっちゃったけど、あれくらいなんとかできないようじゃハッキリ言ってミズナやルナの足手まといにしか実際の所なってないでしょ? それと里美ちゃんのさ、違う?」
本当はすぐにでも言い返したかった。
だけど、それは本当の事だと心の何処かでは思っていたから。
言葉がすぐにでなかった。
悔しい……。
心の中でぐつぐつと何かが煮え返り始める。
握る拳はブルブルと震え、すぐに全身に伝播する。
「…………それは」
「……チッ」
朱音が舌打ちする。
そして息を吸いこんで声を上げる。
「アンタは誰の為に戦ってるの!? やるならやる! やらないなら偉そうにするな! 私は口だけの男が大嫌いなのよ! 男なんてすぐ嘘ついて女にいいところを見せたがる、そんな最低な雑種ばかり! そんな雑種に私の可愛い娘達を任せらない!」
蓮見の大ピンチにざわざわした闘技場でも朱音の言葉は蓮見にはハッキリと聞こえる。
「正直私はアンタに期待した。アンタなら私とは違う方法で娘達の夢の架け橋になってくれるんじゃないかって。だけどそれは間違いだった……。私は今アンタと戦ってても何も楽しくない。ワクワクしないし、成長を感じられない。娘達を疑う気はなかったけど、娘達は今だけを見て今が一番だと思い嘘をついた、それがわかった。アンタじゃ足手纏い以外の何者にもならない。だからもう終わらせましょう」
ため息混じりの言葉に蓮見が大きなため息を一つ吐く。
「おい。それ本気か?」
脳内にある鎖がブチブチと音を鳴らしちぎれていく。
「……えぇ。ってかなに? ため口? 何様のつもり?」
機嫌を悪くしたのか冷たい声の朱音に臆することなく蓮見。
「別に俺をバカにするのは構わない。だけどな……一つだけ言っておく。ミズナさん達が俺の事をどういっていたのかは知らないけど親なら自分の愛する娘の事だけは絶対に疑うんじゃねぇ! 例え疑ったとしても絶対にそれを口にするんじゃねぇ!」
それは蓮見が昔母親から教えて貰った。
親ってのはなにがあっても子供の味方だと。
「確かに俺自身なんとなく期待されているのかなとは薄々気付いていたから有言実行を意識して頑張ってたよ……正直今まで全力で。でも今の言葉を聞いて思った。どいつもこいつもハッキリとどうしたいか! それを口にしろよ! そんな悲しい目で何を言われてもな説得力がなにもねぇんだよ!」
そして子供に嫌われても親としての判断をするときが必ずくる。
その時、親は自分の心を殺して、自分の心を隠して、子供に厳しい道を与える。
それが将来子供の幸せに通じているのならば。
例え嫌われても全ては愛する子供の為に親は苦渋の決断をすると、母親から教えて貰った。その体現者が亡くなった父親だったと。
「母親として娘の幸せを願う、だけど母親としての判断もしなくちゃいけない。それで困ってるんなら俺に言え! 俺がなんとかしてやる! 俺はバカだ。だから何かに期待されてそれに応えようと振舞おうと思っても結局何もできない大馬馬鹿だよ」
理性の鎖が切れてブチ切れた。
そう思われたが、違った。
ブチ切れたのは理性の鎖ではなく、蓮見を取り纏っている柵の鎖だった。
「だから今から見せてやる。もう勝った負けたのことは一旦全部忘れた俺の全力を今から見せてやる。ごちゃごちゃと話し合うのはその後だ、お母さん! 行くぜ! 俺様戦隊来い!」
ようやく本調子に戻って来た蓮見は本来であれば皆が使わないであろうアイテムをツリーから取りだしゴクゴクと飲み叫んだ。
体裁は捨て、現実世界同様にありのままの蓮見で行くことに決めた。
そう――この勝負の真意に蓮見自身がようやく気付く。




