モヤモヤした気持ち
ログアウトして蓮見は一人ベッドの中で考え込んでいた。
美紀達の中での俺の評価が最底辺な気がするのは何故だろうと……。
分かっている。
心の中では――。
今はそんな事よりもっと考えないといけない事がある事ぐらい。
でも、だ。
「あー!!! なんでぇ俺にはモテキが来ないんだぁ!!!」
と、心の声を叫んでいると、部屋の外。
それも下の階から。
「はすみ、うるさい! 夜なんだから静かにしなさい!!!」
と母親に怒られた。
「なんだい、皆して俺には冷たいじゃないか……ぶつぶつ」
完全に拗ねた蓮見は毛布を手に取り頭から被ってここでも現実逃避を始める。
周りから見たら甲羅に顔を隠したカタツムリにしか見えない格好で蓮見は布団の中で独り言を続ける。
「てかなんだよ……七瀬さんは七瀬さんで結局いいようにしてきて罰ゲームの数増やすくせにさ、瑠香は瑠香であんな無邪気な顔して結構思い悩んでるんだったらもっと先に言えってんだよ、ったくもぉ」
こうでもしないと最早自分の理性を保ち続けれない蓮見。
「あぁーもぉ、なんだよ美紀の奴。あそこは嘘でも頼りになる存在とか言ってくれよ。なにが最低野郎だよ。とびっきりの満面の笑みで言いやがって……くそぉ!」
大分精神的に追い込まれた。
蓮見の心の中は何一つ自分の思い通りにいかなくてぐちゃぐちゃになっていた。
「てかなんだよ……そんなに最低と思ってるならなんで皆俺を誘惑してくるわけ? もしかしてからかわれてるだけなの? それともただ単に俺の願望が凄すぎて全部いいように捉えていただけなのか? だとしたら……俺……しにたい……」
もはや収拾不可能にまでなった。
それでも今回ばかりは誰も救いの手を差し伸べてくれない。
そう今本当に救いの手が欲しいのは七瀬でも瑠香でもない、蓮見自身である!
自分で自分を追い込んで、悪い方向に思考が働く。
これは人間の本質の一つ。
いわゆる負の連鎖と言う奴だ。
そんな負の連鎖フィーバーが止まらない蓮見は布団の中で頭を掻きむしり、足を使って身体をベッドの上でベイゴマのように回転させる。
最早頭のネジが外れ、頭が可笑しくなった人状態の蓮見はこのモヤモヤした気持ちを誰かにぶつけたくてしょうがなかった。
ただここで問題なのが誰にぶつけるかだと言う事だ。
美紀はアウト。
もしぶつければ仕返しが恐いからだ。
なら七瀬?
いやそれもアウトだ。
もしそんな事をすれば罰ゲームで何を命令されるかわかったもんじゃない。
それなら瑠香?
いやこれもアウトだろう。
なぜならお兄ちゃんと慕ってくれる子にそんな事したらいけないから。
そうなると残りはエリカ。
だけどこれは絶対にダメだ。
仮にしたら、エリカの場合美紀と同じく罰ゲームが恐ろしくなりそうだから。
「あぁー誰か手ごろに俺のこの気持ちを受け止めてくれる優しい人はいねぇのかーーーー!?」
蹴り飛ばされた布団が宙を舞い、ドンと音を鳴らし床に落ちた。
その時だった――蓮見の脳内にある一人の人物が――浮かび上がった。
それは絶対に話しを聞いてくれる相手。
この状況下限定ではあるが、年上かつ包容力がありそう? な人物。
なによりその人に話しを聞いてもらえればこの状況を一平して解決できるかもしれない人物。
「ははっ」
不気味に微笑み、目を見開き、立ち上がり叫ぶ。
「ハハッ! 俺様はやっぱり天才だぁ!!! アハハ!!!」
あー。
モヤモヤした気持ちを早くぶつけたくてしょうがない蓮見はスマートフォンを手に取りある人物に電話を掛ける。
――プルプル
スピーカーから聞こえてくるコール音に蓮見の心が急ぐ。
早く出てくれ、と。
蓮見の心は一分一秒でも早くこのモヤモヤをぶつけたくてしょうがない。
それがどんなに理不尽なことかを脳裏では正しく理解していても、それを止められない。それだけ蓮見の心の中は破天荒となっているからだ。
――プルプル
なぜ、でない?
なんで、出てくれない?
「お母さん!!! 出てくれよ!!!」
ガチャ
「……急に……なに?」
完璧なタイミングだった。
蓮見の魂の叫びと同時に朱音が電話に出たのだ。
その為、バッチリとその声は届いてしまった。




