もう一人の神眼
その頃、美紀達というと。
第四回イベントにて最大の敵とも呼べるラスボスの前まで来ていた。
そこは蓮見が黒一色に染め上げた大地とは違い、草原のように足元には沢山の芝が生えている。そして空を見上げれば雲一つない大空から太陽が顔を出している。その恵みを受けようと等間隔に何十、何百と並んだ高さ十メートル越えの太い大木が伸び伸びと育っていた。また視線を少し遠くに向ければ石垣で出来た浅い水路に底が見える澄んだ水が流れており、涼しい風が吹いている。
そして美紀達の視界の先には巫女装束の少女が一人目を閉じて優雅に全身で大地の恵みを感じるように背中を向けて立っていた。
特徴は腰下まである長くて黒い髪に、スレンダーな肉体、服装は巫女装束。
外見は人間に似ているがよく見れば機械の少女。
右手には弓、腰には矢があり、その目は神眼であり、破壊可能な物のKill、テクニカルヒットポイントを見る事ができる。
実力は確かで、第二回イベントにて最強夫婦の異名を持つ蓮見と美紀を負い込み、時間にして後一秒足らず止めをさせなかった程の実力者。
その前には数十人のプレイヤーを瞬殺と見た目に反してかなり強く、可愛いからと安易に手を出そうものなら実力で排除されるだろう。かつて、いや唯一神災を正面から相手にして終始優勢をキープした実績もあり、まさに運営の切り札にして第四回イベントラスボスの一つを担うに相応しいプレイヤー殺し最強NPCである。
「私は機械少女、小百合と申します。退きなさい。これ以上貴方達が武器を振るうと言うなら実力で排除しなければなりません」
機械少女――小百合は閉じていた目を開ける。
それから身体の向きを美紀達の方へと調整して落ち着いた口調で呟く。
「悪いけど、今度はその首貰うわ」
「そうですか……残念です」
「こっちもこの日の為に修行を建前に神眼対策はバッチリだからね」
美紀達は蓮見に修行をつけるだけでなく、自分達の修行も一緒に行っていた。
その為Killやテクニカルヒットを狙った攻撃と言う物に多少は慣れているし、第二回イベントの情報から小百合対策もバッチリ行っている。
それに今回は前線には瑠香、後衛には七瀬が加わり、美紀として万全を期していた。
エリカは今のうちに安全な岩陰へと身を隠す。
こんな女同士の怪獣戦争に巻き込まれたら一般プレイヤーそれも生産職の人間では骨しか残らないことは目に見えているのでここは大人しくしておく。
「では一つ忠告です。私は強いですよ?」
その言葉に三人の少女の闘争本能が激しく燃え始める。
少女三人を相手にそんな言葉を吐く敵等、そうはいないからだ。
「随分と舐められたものですね」
前回と比べるとよく話し、会話ができるようになった小百合の黒い瞳が三人を凝視する。その鋭い視線に美紀達の直感が危険を感じ取る。
「ふふっ。では始めましょう。スキル『猛毒の捌き』!」
その言葉に驚く美紀。
だけど――。
小百合が美紀達ではなく、上空を狙い矢を放つ。
矢は空中に出現した赤い魔法陣を通り、矢の雨となって三人へと襲い掛かる。
「させない! スキル『導きの盾』!」
忘れてはいけない。
小百合の眼は全てを見通す。
矢を操り、一撃、たったの一撃、いや絶対貫通を使い一矢の軌道を少し調整するだけで薄緑色の盾をいとも簡単に破壊してきた。
「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」」」
慌てて回避行動に入る三人は一旦別れて、別々に行動することで相手の狙いを分散させる。
「甘いですよ。全部の矢を私は操れますから」
「だと思った! てかそれぐらい知ってるわよ!」
蓮見がよく使う手段に美紀がすぐに飛んでくる矢を槍の側面で弾きながら叫ぶ。
「スキル『気配』『ライトニング』『連撃』!」
敵意に対して感度をあげ、飛んでくる矢に敏感になる美紀。
それから雷を放電させ周囲の矢を一気に撃ち落とし、それでも迎撃が不可能かつKillとテクニカルヒットの可能性がある矢を通常攻撃と一緒にスキルによる七連撃で撃ち落とす。
「ったく、最初からMP馬鹿みたいに使わせないでよ! スキル『破滅のボルグ』!」
間髪入れずに小百合へ反撃。
そこから白雪の小刀を腰から抜き、最小限の動きで飛んでくる矢の隙間をくぐり抜けて突き進んで距離を詰めていく。空いた片方の手でHPポーションとMPポーションを取り出しては使う器用さは流石と言えよう。
キンキン、カンカン
躱せない矢に関しては小刀で斬り、無力化する。
黒味のかかった暗くも白いエフェクトを放つ槍は一直線へと小百合の心臓だけを狙い最短ルートで飛んでいく。
――さぁ、どうでる?
別方向からは七瀬の水手裏剣と瑠香の水龍も近づいており、完璧な包囲網。
仮に何かをしてきても今の美紀の距離ならば追撃がすぐに可能。




