原点回帰
分身が綾香とソフィの攻撃に苦しんでいる頃、こちらの蓮見もラクス相手に苦戦していた。
――。
――――。
調子いいことを言って女心を独占しようとし失敗した蓮見は心の中で後悔していた。
こんな事になるなら、カッコつけなければよかったと。
だけど今さら後悔しても遅いことは明白なわけで、頑張っていたのだ。
「くそぉ……! スキル『連続射撃3』『虚像の発火』!」
「どこを狙っている? お前の実力はその程度か?」
攻撃が当たらない。
どころか、連続攻撃を難なくしてくるラクスは蓮見からしたら強者だった。
何が厄介ってラクスがちょこまかと動き周っては一撃を繰り返してくるため、中々狙いが定められないことだ。
こちらのHPゲージはどんどん減るのに相手のHPゲージは減らず、MPゲージは回復されと戦闘開始から僅か数分でこのような状況になり始めていた。
「私は期待している。綾香とソフィ、そしてルフランが認めたお前の実力を! だから見せてみろ。手加減はいらぬ!」
仮面を捨てたラクスが微笑み本性を見せてくる。
だけど手加減以前に今の蓮見ではこれが限界。
なにを言われようと今はこれで耐えるしかない。
「今だ! スキル『迷いの霧』!」
ラクスが攻撃し、一旦距離を置いたタイミングで蓮見がスキルを使った。
その後毒煙による目くらましをしつつ、一旦攻撃の手を止めて間合いを取る事にする。
そのまま少し走り全てが黒焦げとなった森の跡地からまだ木が生えた森の中へと入り息を忍ばせる。
「念のために、スキル『迷いの霧』!」
もう一度スキルを使い今度は森の中まで毒煙を充満させ、大木の木影に隠れラクスにどう対抗するかを考える。
「落ち着け、俺。相手は人間。だったら、何か良い手があるはずだ……」
思考をフル回転させ、脳内回路を引きちぎらんばかりに動かす。
今まで使ってきた手ではラクスに通用しない、そんな予感に舌打ちする。
手がないことはないが、それは相手が乗るか乗らないかの部分が大きく、失敗すれば敗北、成功すれば勝機へと繋げられる、と成功報酬の割には失敗したときのリスクが大きかった。
だったらどうすればいいか?
と言うわけだが、それが中々見つけられずにいる蓮見の表情は浮かばれない。
理由はどうあれ、一度殿を引き受けた以上ただで負けるつもりはない。
「どうする……」
悩む蓮見。
毒の煙の中から聞こえる足音は徐々に大きくなることから、ラクスがこちらに向かって歩いていると脳が認識する。
ゆっくりと次の手を考えれる時間は限られていた。
爆弾……。
手榴弾……。
毒煙のモグラ君……。
ダメだ……どれも単体では効果を上手く発揮しない。
どうすれば……いい、俺?
奇跡でも偶然でもいい……この状況を打開できる何かがあれば……。
――その時だった。
ある一つの答えが出てくる。
「なんで俺勝つことばかり考えてるんだ……?」
その疑問はみるみる大きくなっていく。
「そもそも俺がこのゲームを始めた理由って里美と一緒にゲームがしたくてだよな?」
それから原点へと戻っていく。
「それからは? えっとエリカさんやミズナさんそしてルナと出会った。でも俺はそんな皆と勝ちたいって言うよりこのゲームを楽しくやりたいって……ん?」
ようやく蓮見の中である一つの答えが、
「だったらこの状況を楽しんでいいんじゃないか? 別にそれで負けたら負けたで後でどうするかを考えて、勝ったら勝ったらその後どうすれば考えればいいんだよな?」
出てくる。
迷いが吹っ切れた蓮見は心を整理する為、深呼吸をする。
それから自分が今やるべき事を再確認する。
「今の俺が一番にするべきことは……今を楽しむ事! その後のことは……その時考える以上!」
両手で頬っぺたを思いっきり叩いて気合いを入れ直す蓮見。
その目は前だけを向いており、心も前向きと蓮見の無駄な感情を取り除いてくれる。
「ってことで《《アレ》》やるか!」




