悪夢再来
最早今回のイベントラスボスを担うに相応しいところまで急成長を見せた蓮見は一度全員の動きを見て把握していく。
「あははは! 面白い! こうなったら、俺様の全力を見せてやる!」
正直今の状態ではかすり傷一つでも受ければゲームオーバーとなる。だけど下手にHPを回復したらそれこそ相手の思う壺だと考えこのまま行くことにした。
弓を構え矢を綾香に向かって放つ。
それからソフィにも攻撃するが二人に躱されてしまう。
「やっぱり当たらないか……」
「甘いよ、紅!」
「その程度か?」
「そんなわけないじゃないですか」
「なら次はどうする?」
「スキル『迷いの霧』!」
「なるほど、私達の視力が低下していることをいいことにさらに奪おうってわけか。だけどそれは既に攻略済みだよ。スキル『烈風』!」
綾香を中心に風が吹き上げられて一瞬で毒の霧が消える。そのまま迷いなく近づいていく。蓮見が慌てて一つ運任せに風の気流に乗せて手榴弾を放り投げるが七瀬の魔法がそれを破壊する。
「マジか!?」
「悪いね、紅! スキル『水手裏剣』!」
手榴弾を撃ち落とすだけでなく通常攻撃とは別にスキルでの攻撃までしてきた。
蓮見は流石だなと思った。
普段頼りになるだけあって敵に回すとこの上なく厄介だ。
「【神眼の神災】よそ見している余裕がお前にあるのか。スキル『加速』!」
「ルフラン様援護します!」
「助かる」
「はい。スキル『加速』!」
今度は【ラグナロク】二人がスキルを使い蓮見に攻撃を仕掛けてくる。
襲い掛かる二本の剣の連撃に蓮見が躱すだけで手一杯になってしまう。
「葉子わかっていると思うが下手にスキルは使うな。後で自分に返ってくるぞ」
「はい! 承知しております!」
葉子と呼ばれる女性はルフランの付き人をするだけあって蓮見の動きを読んで先回りしてくるものだから思わず弱音を吐きたくなってしまった。
そして二人に注意が向いたタイミングで七瀬の魔法と攻撃が蓮見を狙ってくる。
全てギリギリで躱しこれで反撃かと思った時だった。今度は背後からリュークとスイレンが襲い掛かる。
「スキル『加速』『鬼神』!」
爆炎を全身に纏い大剣を振りかざしてくるリュークと小柄な体系を活かし素早い動きで敵を翻弄し倒していくスイレンのコンビネーションアタックが蓮見を死へと追い詰めて行く。
「一人でもやべぇのに二人揃われたら反撃の隙すらねぇ……」
さらに追い詰めるようにして両サイドからは美紀と瑠香が蓮見の方に向かって走ってくる。
「その首もらったー!」
「今日は敵です。悪く思わないでください!」
美紀と瑠香の獲物を捕らえた肉食動物のような視線と言葉に蓮見の全身が終わったと感じ取る。このままでは逃げ道が完全にふさがれ負ける。仮にそれを対処しても綾香とソフィが止めを刺しにそのまま真っ直ぐとこちらに向かってくるだろう。今までだったらここで諦めていた。
「あはは……エリカさん。ありがとうございます」
今日は蓮見一人であって、そうじゃない。
エリカだけは味方をしてくれていたのだ。
そう蓮見に対して一度戦ってみたいと言う欲がないエリカだけは【神眼の神災】の味方でいた。故にこの切り札は蓮見とエリカだけの秘密。その為、同じギルドメンバーの美紀達ですら知らない奥の手。昨日ようやく実装された超高難易度入手アイテムが蓮見に力を貸す。
「綾香!」
「わかってる。行くよ! スキル『幻影の舞』!」
「あぁ、スキル「スキル『幻影の舞』!」
二人合わせて残像を含む四十四連撃が蓮見の身体を容赦なく切り刻む為に向けられる。
二人もまた蓮見の行動一つで状況が変わる事を知っている故に手加減はない。
「させない! スキル『破滅のボルグ』!」
「すみません。その瓶は割らせません! スキル『睡蓮の花』!」
「なにあれは……」
「葉子! 俺達は一旦距離を取るぞ!」
「はい!」
「悪いな、俺はまだ負けるわけにはいかないんだ」
そう言って蓮見が瓶の先を親指で割り効果を発動する。が刹那、双剣が身体を切り刻み、槍とレイピアが身体を貫通した。これで四回連続『白鱗の絶対防御』が発動し生き残ったらそれはある意味凄いがそうはならなかった。それもそのはず幾ら蓮見とはいえ一日で薄い確率を何度も当てることは不可能だから。
だけど――。
――――……。
――――――!?
「って、あぶねぇ……間一髪だったな、マジでエリカさん神だわー」
と言って立ち上がってくる蓮見に全員が言葉を失った。




