美紀の優しさとお姉さん目線のエリカ
――――
――――次の日。
「それでなんで当たり前のように私のお店に二人がいるわけ?」
「仕方ないじゃない。外でアイテム出すわけに行かないし、皆今日の深夜にアップデートされるって事でピリピリしてるんだから。だから今日はエリカもお店を閉めてこのお店出ていく準備してたんでしょ?」
「そうだけど……ってか、わかってるなら少しは話してないで手伝いなさいよ」
「いや。それで昨日紅が精霊倒した時のドロップアイテム。私要らないから紅が持っておきなよ」
そう言って昨日ゲットしたアイテムを蓮見に渡す美紀。
エリカはため息をつきながら蓮見の隣に座り、そのまま一緒に覗き込むようにして渡された短剣を見る。
【鏡面の短剣】
【STR】 +20
【効果】 水属性ダメージ+10%
クリティカル率+1%
形状変化
(質量が変わらない物になら自在に変形可能。※頭の中でイメージした形になる。INT値が高い程変幻自在になる)
「ねぇ、紅君のINT値って今どれくらいなの」
「補正値入れて13です」
あまりの低さに二人がお互いの顔を見合わせて無言になる。
「「…………」」
「ん? ~おぉ~これはすごい!」
二人の反応とは対照的に短剣を手に取り遊ぶ蓮見。
精霊が水を短剣にしていた時の事を頭でイメージしながら矢の形状に変形させる。
どうやらベルトさえあれば普段矢を装備しつつも持っていない為半ば強引にベルトに引っ掛ければ美紀のように短剣が装備できそうだった。
「ってそれ以外の形にはならないの?」
頭の中で別の形をイメージしてみる。
INT値に影響を受けるらしく超シンプルな構造じゃないと駄目らしい。
蓮見が諦めてドヤ顔で言う。
「ならん」
「……あまり使えないわね」
「そうね」
「それよりエリカさんこれ里美みたいに腰にかけて強引に装備出来ないかな?」
「多分出来るわ。見たところ矢を持つのは構えを取った時だけ。弓は背中に普段掛けてるなら可能だけど……そもそも使うの短剣?」
そのINT値で使うかと言いたげな視線をエリカが蓮見に送る。
「はい」
「はいって私の槍のスキル『巨大化』と違って空中操作のおまけ性能ないのよ? 一発飛ばしたら自分でそこまで拾いに行かないといけなくなるわよ?」
「えっ……?」
「やっぱりその発想はなかったか」
「ねぇ里美?」
「なに?」
「何とかならない?」
困ったのか蓮見からエリカに視線を移す美紀。
「エリカ?」
急に話しを振られて困るエリカ。
「って私にふらないでよ!」
その時何かを思い出したようなしぐさで言う。
「あっでも生成魔法か複製魔法を覚えれば何とかなる気がするけど。そうすれば本物には劣るけど短剣を複製してその劣化版を形状変化させて打てばわざわざ拾う必要ないから。それに劣化版は耐久値がなくなればすぐに自然消滅するし」
「それだ! ならベルト代と魔法修得か……」
そう言ってチラッと美紀を見る蓮見。
「魔法修得はレベルアップついでに手伝うけどお金なら出さないわよ?」
視線で粘り強く訴える蓮見。
ちなみに蓮見は紅装備を整えてからクエストを受けていないので所持金はNPCを倒した時にもらえるお金しかもっていない。
現在残高2978ゴールドではとてもまともなベルトは買えない。
「…………」
「…………」
「…………」
「……あーもうわかったわよ! エリカ壊れても復元する奴で幾ら?」
勢いよく立ち上がり90度のお辞儀をして感謝の気持ちを伝える蓮見。
「おー流石里美様!!! ありがとうございます」
「6万ゴールドだけど?」
「ならそれ今買うから頂戴」
そう言ってエリカにお金を払い、受け取ったベルトを蓮見に渡す美紀。
早速腰に巻いてみる。
どうやら認識としては装備品の1つとしてカウントされるらしい。
残念ながらベルトでステータスは向上しなかったがこれで【鏡面の短剣】を装備する事ができた。
喜ぶ蓮見。
「よっしゃー!!! 本当にありがとう里美!!!」
嬉しそうに微笑むエリカ。
「フフッ紅君めっちゃ喜んで可愛いわね」
あきれながら言う美紀。
「ただの単純バカなだけよ」
装備
頭【紅のヘアピン】
体【紅の鎧】
右手 メイン:【深紅の矢】サブ:【鏡面の短剣】
左手【深紅の弓:『領域加速』】
足【紅の脚】
脚【紅の靴】
装備品【紅の指輪】
【黒茨ベルト】
【空欄】
空きスロット 2
エリカがパネルを操作し何かを調べ始める。
「ちょっと待ってて。今提示板にアクセスして調べてるから」
「えっ? 提示板ってパネルから見れるの?」
「うん。生産職の人だけね。生産職の人がギルド前に皆来ちゃったりしたら鍛冶屋全部閉まる事になるからね。それに空き巣じゃないけど強盗もないとは限らないから。紅って本当に何も知らないのね」
「仕方ないだろ。ゲーム自体初めてなんだから」
「それもそうね」
パネルを操作して調べてくれるエリカをよそに二人が話していると、二人にしっかり見えるようにパネルを拡大してくれる。
「魔法ではないけど、これなんていいんじゃない? スキル『複製Ⅰ』」
スキル『複製Ⅰ(別名 模倣Ⅰ)』 スキルスロットを2つ使用して装備する事で常時発動
効果:メインウエポンもしくはサブウエポンを複製。
複製に必要な時間1秒。複製持続時間最大60秒。最大同時複製2本。
必要INT値10以上。
能力値:オリジナルの50%
獲得条件:スキルを10個以上持った状態で【クローン魔術師のダンジョン】をクリア、もしくはダンジョンボス10回撃破した状態で【クローン魔術師のダンジョン】をクリアする。
「でもこれスキル10個以上持ってないとダメだから紅君の場合はまずは適当なスキルの数集めからになりそうね」
「ちなみに普通の人はどれくらいなんですか?」
「多分5~8個ぐらいかな」
「一応聞いてあげるけど何個持ってるの?」
蓮見がスキル一覧からスキルの数を数え始める。
「これで5個とか言われたら今日中はキツイわね」
「そうね~」
美紀とエリカが少し困った顔をして蓮見が数え終わるのを待つ。
「えっとスキルが10個で自動発動スキルが3つです」
何かに反応するエリカ。
「……それだわ!!!」
「エリカさん?」
「ちょっとエリカ急に声あげてどうしたのよ?」
「いや~今まで紅君山火事起こしたり泉を毒泉にしたりkillクリティカルヒット連発してるじゃない? 数々の伝説を作れる理由は何処にあるのかなってずっと思ってたのよ。そしてそれが今わかったわ。答えはそれだけのスキルを持ってるからって」
「なるほどね。なら今から【クローン魔術師のダンジョン】に行くわよ。場所は北にあるけどまぁ何とかなるでしょ」
「さすが里美。よくわかってらっしゃる」
二人はスキル獲得の為に【クローン魔術師のダンジョン】に向かった。
目指すは北。




