夜ご飯について
――放課後。
いつものように蓮見が荷物を机の中から取り出して鞄に直していく。
蓮見はこの時悩んでいた。
美紀の用事が終わるまで待った方がいいのか、それとも今日は気を利かして一人で帰った方がいいのではないかと。
蓮見はあの日聞いている。「好きでもない人と何回もキスするわけじゃないじゃない」と。つまり美紀が本当に好きな人は蓮見ではない事を知っている。
「まぁ、今日はいいか。俺の出番なんてないだろうし」
自分に言い聞かせるようにして蓮見が呟く。
それに蓮見は自分が近くにいたり、待っていたりする事で、幼馴染だからこそ美紀に余計な気を使わせてしまうのではないかと内心心配している。美紀が男子からの誘いにのる。これはある意味珍しい。だからこそ色々と考えてしまうのだ。
「よし、数学と国語と理科は明日もあるから置いて……後は筆箱も明日使うからそのままでっと」
蓮見は明日の時間割を確認しながら何を持って帰り、何を教室に置いていくかをしっかりと選別しわけていた。
それは今に始まった事ではなく、入学式以来蓮見の中では当たり前になっていた。
仮に持って帰っても家で勉強という概念がない蓮見に取っては荷物にしかならない。ならば置いて帰るが得策だと自分を正当化している蓮見。
――ブッー、ブッー、ブッー
「ん? 母さんか」
蓮見はポケットからスマートフォンを取り出してメッセージを確認する。
この時間帯にわざわざ母が連絡を入れると言う事はなにかあったのだろう。でなければ家に帰ってから要件を直接言えばいいのだからと蓮見は嫌な予感を感じながら視線を画面に写す。
『ごめん。今日仕事でバタバタして深夜にしか帰れないと思う。蓮見悪いけどお金立て替えて夜ご飯コンビニか何処かで買って帰って。お金は渡すから外食してもいいから悪いけど今日も一人で夜ご飯食べて。後玄関のチェーンは絶対にかけないでね』
と母から仕事が忙しく帰れないメッセージが来ていた。
ここ数日ずっと母は夜の帰りが遅い。
父が他界し母への負担が増えた。それによって年に数回仕事が繁忙期に入ると夜遅い時間に帰ってくる事があるのだ。
最初は美紀のお母さんに頼んでいたようだが、流石に頼みづらくなったのだろう。
『了解。仕事頑張ってな』
蓮見は余計な事は言わずにただ一言応援のメッセージと一緒に返信した。
「そんな顔してどうしたの?」
「なんでもないよ」
「誰から?」
「母さんだよ」
蓮見は一瞬美紀に頼んで夜ご飯を作ってもらおうと考えたが止めた。
母がそれをしなかったと言う時点でそれはしては駄目だと感じたからだ。
「もしかして今日も夜ご飯ないの?」
「いや……あるから心配しないでいいぞ。なら今日は美紀用事あるし俺一人で帰るからじゃあな」
「え? 待ってくれないの?」
「待ってもいいけど、俺居たら迷惑じゃない?」
「んなわけないでしょ。なら待っててね」
「わかったよ」
蓮見は返事をして自分の席に座って「なら、お願い」と言って美紀を迎えに来た武田の元に歩いて行く美紀を見送った。
そして蓮見は本当に勘が良いなと美紀に向かって心の中で呟いた。
普段からそんなに見られている気はしないものの、蓮見が思っている以上に美紀は蓮見の事を見ているそんな風に思った。
それから蓮見は美紀が帰ってくるまでの時間、一人窓の外から見える空を見て時間を潰した。
「マジで今日の夜ご飯どうしよ……」
流石に四日連続で朝と夜がカップラーメンは辛かった。
母は買っていいと簡単に言うが、誰の為に頑張って働いているかを考えると心が痛んだ。