第三回イベント終了
状況の急変。
それに対応が遅れた者から次から次へと死んでいく環境は正に地獄絵図。
一人、また一人と倒れていく。
回復をしてもKillヒットを狙われたら意味がないことを全員が悟る。
その為この状況では己のPSが一番頼りになる。実際に蓮見の単純な数による攻撃でソフィ、綾香、スイレンはダメージは受けているものの致命傷となる攻撃は全部避けるか武器でしっかりと撃ち落としている。
そしていつまでも続きそうなぐらいに一方的な攻撃はようやく終焉を迎える。
流石にイベント終わりまで全員の足止めをするようにして放つ程、蓮見のPSも高くはない。
生き残った実力者たちは視認できる矢の数から終わりが近いと判断し蓮見が無防備になる瞬間を狙っていた。
七瀬は体力的にもう動けないしMPゲージもない。
美紀は蓮見の攻撃の盾になりもういない、瑠香は七瀬を護り死んだ。
故に残り《《六十秒》》で蓮見を倒せば、犠牲は大きかったが【雷撃の閃光】ギルドと【灰燼の焔】ギルド連合の勝ちが確定する。その為、最後のチャンスを目を光らせて静かに待っている。
当然蓮見に反撃の隙は愚か逃げる隙すら与えるつもりはない。
そして矢が目で数えれる程少なくなったタイミングで一斉に動き始める。
「スキル『毒の霧』!」
蓮見を中心として毒の霧が発生し突撃するプレイヤー達の視界を奪う。
完全毒耐性を持たないプレイヤーは足場の毒だけでなく更なる毒によるダメージで倒れていく。
「もう見飽きたよ、紅! スキル『烈風』!」
そんな中、綾香だけは蓮見の攻撃と防御手段を見切り突撃していた。
ソフィは念の為スイレンに護衛をしてもらいながら、HPポーションを飲み綾香に全てを託し見守っている。
「ですね。俺も綾香さんには多分これ通用しないと思ってました」
追い詰められた蓮見からの一言。
――!?
毒の霧が晴れると同時に飛んできた一本の矢が綾香の左肩に突き刺さる。
更に追い打ちをかけるようにして右太ももにも一本の矢が突き刺さった。
「……っう」
毒の浸食が進み最早毒の沼と化した地面では思うように動けない為、蓮見からすると全体的に相手の動きがとても遅く感じられた。水色のオーラと火事場スキル、領域加速等と言った自動発動スキル、これもまた蓮見の強さの秘密である。多少足場が悪くても蓮見には大して関係がないし、影響はない。だが蓮見を取り囲んでいたプレイヤー達にはそうも簡単な話しではない。時間がないことからの焦りが攻撃を単調化し結果蓮見にとっては好都合となっていた。
そして綾香が不意打ちで蓮見の攻撃を受けた時点でこの勝負は決まったも同然だった。
綾香もまた後は時間との勝負だと内心慌てていた為に、蓮見に対してKillヒットさえ気を付ければいいと安易な考えを持ってしまった。その結果がこれである。焦りは冷静な判断力を奪う。
内心【灰燼の焔】ギルドと半ば強引にではあるが一時的に協力関係になれた。これがそもそもの油断だった。こうなった以上【ラグナロク】が本腰を入れて攻撃を仕掛けてこない限り負ける事はないと確信していた。その反面【深紅の美】ギルドは最後の最後まで蓮見に全てを託してこの絶望的な状況下でも生き残ろうと全力だった。
圧倒的な攻撃力を持った。
普通なら誰しもがそんな相手と戦い勝つことを諦めるだろう。
だけど今目の前にいる男はそれをしなかった。それどころか最後まで全力で戦い抜いた。一人では確かに弱い。だけど仲間の力を借りながらもこの圧倒的な状況をひっくり返した男に綾香は微笑みながら賞賛を送った。
「流石だね。今度は必ず勝つから」
と。綾香はそのまま微笑みながら第三回イベントが終わるのを待った。
ソフィとスイレンも今からではどうすることも出来ないと悟り、引き分けを受け入れる事にした。
「見事だ、神眼」
「お見事。神眼の天災。貴方達の執念しかと見させていただきました」
後十分、いや五分あれば【神眼の天災】は死んでいただろう。
だけどその五分を作らせなかったという意味では【深紅の美】ギルド全員の勝利と言えよう。
しばらくして第三回イベント終了の合図が特別フィールド全体に響きわたった。
『皆様、お疲れ様でした! ただいまの時間をもちまして第三回イベント終了となりますーーーー! これから最終順位発表となりますので上空にご注目下さい!』
綾香達にとっては《《引き分け》》かも知れないが、蓮見達にとっては《《大勝利》》である。
《《小規模ギルド》》でありながら《《上位入賞》》、つまり当初の目的の《《達成》》。もし蓮見が生き残る事ではなく、勝つことだけに集中していたらもしかしたら負けていたかもしれない。そう考えると、運が蓮見率いる【深紅の美】ギルドに味方したとも言えよう。ただし、もしこれが一対一の闘いで合ったならば恐らくは××が勝っていただろう。神眼の天災の強さの秘密を考えれば自ずとそうなるだろう。
各プレイヤーに見えるようにイベント専用MAP上空にかなり大きいパネルが幾つも出現する。そこには一位から十位までのギルドの名前が書かれていた。
【深紅の美】ギルドは十位とあれから順位が変わらず、見事目標を達成した。
そしてその事実に嬉しさを隠しきれないのかさっきまで動く気力すらなかった七瀬が立ち上がり勢いよく走って来たかと思いきやそのまま蓮見に抱き着いて来た。その顔は満面の笑みでは合ったが、沢山の涙を流していた。きっとそれだけ嬉しいのだろう。蓮見が頑張って良かったと思えた瞬間だった。
「ほら、そんなに泣かないでください。せっかくの綺麗な顔が涙で台無しですよ」
すると、七瀬は少し頬を赤く染めて。
「そうだね」
と、照れくさそうに答えた。
そんな感動はさておき、早速上位十位のギルドにはギルド報酬として全ステータス3%向上させる設置アイテムが送られた。そして各ギルド長にはギルドメンバーの名前が入った表彰状が送られた。
「おっ! 五人の名前がある」
「本当だ! ギルドに戻ったら早速飾ろう!」
「ですね。ミズナさんイベントお疲れ様でした」
「お疲れ様なのは紅でしょ! でも本当によく頑張ったね! お疲れ様!」
二人が健闘を讃え合っていると、突然出現した光が二人をギルドに転送させた。
運営は全員の転送が終わる前に予めコツコツと作っていた今回のイベントのハイライトを早速作成し各ギルドホームのモニターに映像として流し始めた。
蓮見達は全員揃うとギルドホームで皆で和気あいあいとしながらその映像を見て第三回イベントの余韻に慕った。
その後、今度五人で現実世界で会い、祝賀会をすることが決定した。
その時に蓮見以外はリアルでも女の子四人が繋がっており、何回か会っていた事が判明した事は……蓮見にとって衝撃的な事実であったことは言うまでもない。
言い方を変えるなら、ギルド長だけが仲間外れにされ……やっぱりハッキリ言うのは止めて、女子には女子の繋がりがあると言う事に今はしておこう。
それから少ししてある提示版のスレでは――。




