美紀の決意
「マズイ……こいつ等勝ちに来てない。私の体力を奪いに来てる……」
美紀は敵の攻撃を避けながら、一向に深追いをしてこない敵部隊に苦戦していた。
彼らは負けない戦い方をしていた。
美紀はHPポーションを飲みながらそのことに気付いた。
相手も回復をするが全員がHPが半分以下になる前にHPポーションを使い回復している。
これでは流石の美紀と言えど、そう簡単に敵を倒す事が出来ない。
ダメージを受けた者が一番後方まで下がり回復、HPを回復した者が待機部隊、そして一番前の者達が前衛部隊として美紀と戦い、傷ついたら次の部隊と交代と言った完璧な連携。魔法使いや弓使いがいないだけまだましだったが、ここまで連携が取れたギルド相手に拠点近くで戦うのは気が退けた。何より美紀が負ければ蓮見がいる拠点の情報を敵に正確に把握されてしまうかもしれない。もしかしたらもうバレているかもしれない。だけどその確信があるまでは拠点の場所を正確に把握されることだけは避けたかった。
蓮見がいる拠点や【深紅の美】ギルドが保有している全ての拠点へは七瀬と瑠香がいる山道もしくは美紀が今いる山道のどちらかを通る必要がある。だからこそここで敵の進軍を止めたいわけではあるが、そう上手くは行かないかもしれない。
「ッチ!」
美紀はつい舌打ちをしてしまう。
こちらが態勢を立て直す為に後退した時は、向こうが攻めてこないのだ。
彼らの冷静な対応についイライラしてしまう。
「なら自分から攻めるしかないわけだけど……今全ての力を使えば後半絶対に疲れが溜まるしな……」
そう今が全てなら勝つ方法がない事もないのだが、後七時間弱それが一番のネックだった。今一番重要な事の一つはペース配分であるのだ。
敵の数は三十。
それも全員がそこそこに腕のあるプレイヤー。
「とは言っても七瀬達も今回はいるしまぁ何とかなるか……」
美紀は一度深呼吸をする。
「お前達、第一部隊は俺とこのまま正面から。第二、第三部隊は右翼と左翼から攻めろ。里美を倒せば【深紅の美】ギルドに間違いなく精神的なダメージを与える事が出来る。落ち着いて行け!」
大柄な男が美紀に剣を向け、部隊を動かす。
「私が死ねば紅が動くしかない。でもそれだと紅の場合まだ弱いから、力の温存が上手く出来ないかもしれない……」
小さい声で何かを確認するように呟く美紀。
そして一度閉じた目を開く。
美紀が集中した状態に入る。
「いいな! 陣形を乱すな! 数で押せば必ず勝てる!」
大柄な男に合わせて全員が動き始める。
「数? だったら聞くけどあんたが死んだら部隊はどうなるのかしらね?」
美紀は左右に視線を飛ばしながら歩き、自ら敵との距離を詰めていく。
全員の足がその瞬間止まり、感じ取る。
今までかなり手を抜いていた美紀が本気になった事を。
正確に言えば美紀の殺気を感じ取っていた。
そう美紀は倒される事を決意した。
ただし敵の指示役を倒してからだ。このままでは確実に体力が奪われ肉体に疲労が溜まる。だったらここでは次の戦闘には支障がない程度に動いて負けるが一番だと考えたのだ。戦略的撤退に近いが指示役を失った敵部隊が冷静にいられるとは到底思えなかった。有能な指揮官や司令官程周りから信頼され信用される。だが、もしそんな皆の中心となっている人物が倒されたら一体どうなるのだろうか……。
答えは一つ。
何かしらの動揺は生まれると言う事だ。
もしかしたらそれで一旦手を引いてくれるかもしれないし、ここで指示役が戻ってくるのを待つかもしれないし、はたまた慌てて攻撃してくるかもしれない。
なんにせよ、その状態なら美紀の復活までの時間ぐらいは稼げると考えたのだ。




