やっぱり私も!
しばらく様子を見て気が付いた事は、小規模ギルドで数は八人でギルド長は中にいることだ。ギルドメンバーが定期的に一人入っては出てを繰り返している。どうやら伝言役のようだ。そのうち、三人は周囲を捜索しては戻り、次の三人と交代してとローテーションを組んでいる。木の上に人はいないと油断しているのか、上にはあまり視線を向けないプレイヤー達を美紀は気配を消し見下ろす。
「どうするかな……私一人でも行けそうだけど」
美紀が考える。
ここは七瀬と瑠香を呼んでより確実に行くか、相手のギルド長もしくは拠点狙いの一点突破で一人で行くかを。
「行くか!」
美紀は敵がローテーションを終え、人数が少なくなったタイミングを狙う。
木から飛び降りて、近くにある岩陰や木を利用して、慎重に近づいていく。
隠れる場所の少なさから、大人数でやってくればすぐにバレてしまう場所だが、一人なら注意深く移動すればそうそうバレない。
ローテーションが終わり、しばらくすると捜索で疲れたプレイヤー達が気の抜けた表情で雑談を始める。その隙に美紀は更に敵ギルド拠点に近づく。
美紀が三人の会話に聞き耳を立てる。
プレイヤー達は気付いていないようだった。
美紀はさっきの観察を通して、見張りは地上からの攻撃にしか目を光らせていない事に気が付いていた。空を飛べるプレイヤーがいない事を考えれば何の違和感もない。
「悪いけど……一気に決めさせてもらうわ」
伝言役がギルド拠点の中にいるギルド長に報告をしに行った瞬間を狙い、『加速』を使い一直線に向かって三人の無力化を図る。
だが雑談をしている一人が美紀の接近に気が付く。
「敵が出たぞ!」
叫んだプレイヤーは武器を取る前に中にいるギルド長と伝言役にそう伝えた為、反応が遅れてしまう。
「バカね。まずは自分の身を心配しなさい」
美紀の槍がプレイヤーの心臓を一突きし一瞬で無力化する。
残りの二人が美紀を囲むが、純粋なPSが違う。
中からギルド長と伝言役が出てくる前に、素早く残りの二人も無力化する。
そして深呼吸をしてから、二段ジャンプで高く飛ぶ。
「スキル『破滅のボルグ』!」
拠点の扉が開き中から二人の男が出てくる。
二人はキョロキョロと周囲を見渡すが、美紀が上から狙っているとは知らずに武器を手に取りウロウロする。
美紀はギルド長に狙いを定め、黒味のかかった暗くも白いエフェクトを放った槍を全力で投げる。
風を切る音にようやく出てきた二人が気が付くが時既に遅し。
『破滅のボルグ』は敵ギルド長の身体を貫く。
しかし流石はギルド長。これでは倒れない。
美紀はすぐに腰にある短刀を抜き、そのまま上空から襲い掛かる。
「スキル『ライトニング』!」
雷で伝言役の男を一瞬足止めし、その隙に槍が刺さり苦しむ男の首を容赦なく切断する。
「まぁ、私に短刀を使わせた時点で誇っていいわよ」
そう言って美紀は短刀を鞘に戻し、槍を回収する。
そのままギルド長の敗北で強制リタイヤしたギルド拠点が【深紅の美】ギルドの手に渡る。
このまま拠点を手に入れていけば、無人の拠点が奪われた時点で敵がどの方向から攻めてきているかがわかるとこの時美紀は考えていた。拠点を護るのではなく、本命を護るための囮、そして時間稼ぎに利用しようと考えていたのだ。
さっき蓮見が気が付いたイベント専用の通知機能と拠点情報機能を有効活用しない手はない。