影響を受けた者
障壁はガラスが割れたような音を鳴らして粉々に粉砕される。
第三陣をそのまま強引に突破する瑠香。
遠距離攻撃を得意とする敵に取ってレイピアの攻撃範囲は完全に危険地帯となっていた。瑠香はそのまま第三陣の手薄な右方向から敵ギルド長に向かって突撃していく。味方が邪魔で遠距離攻撃ができないプレイヤー達が走って取り囲むようにして瑠香を包囲していくが気にしない。
「見つけた! スキル『加速』!」
スキルの効果時間が終わると同時にすぐにもう一度『加速』を使う。
そのまま敵ギルド長の前まで行く。
「う、うそだろ?」
どうやら味方に頼り、ここまで瑠香一人に突破されると思っていなかったのか焦る敵ギルド長。
「本当ですよ。スキル『ペインムーブ』!」
レイピアの鋭い六連突きが敵ギルド長を襲う。
早くもHPの半分以上を奪った。
時間を掛ければ敵が完全に自分を包囲してしまうと考えた瑠香は一気に勝負を決める事にする。
「スキル『睡蓮の花』!」
瑠香の持っていたレイピアがピンク色のエフェクトを纏いキラキラと光輝く。
瑠香の全MPを消費して、そのMP消費量により威力が変わる『睡蓮の花』。
威力という面では蓮見の『レクイエム』に似ているがこのスキルは『レクイエム』のような華やかさは一切ない。まるで睡蓮の花のように一瞬だ。太陽ではなくMPゲージが意味するように。
敵ギルド長が全力で走って、味方部隊に合流しようとする。
「遅い!」
瑠香の背後から一人の男がハンマを勢いよく振り落ろす。
だが瑠香は男の存在に気付いていながら、それを無視した。
次の瞬間。
瑠香の頭を叩き潰すかと思われたハンマーが空を切り、瑠香の身体が一直線に敵ギルド長へ向かって飛んでいく。
そのまま敵ギルド長の身体をレイピアが容赦なく貫き倒した。
急所は外れたとは言え、『ペインムーブ』からの『睡蓮の花』によりHPゲージを全損したギルド長は敗北。そしてギルド長の敗北により拠点が【深紅の美】ギルドの手に渡り、ギルド拠点を護っていた敵プレイヤー全員が光の粒子となって消えていく。
「ギルド長が弱いと大変ね」
瑠香は手に入れた拠点を見て一人呟く。
全員を相手にしていたら間違いなく勝てなかった。
だが連携も甘い、冷静な判断も出来ていない、装備はバラバラ、ただ数で何とかなると油断している相手に限っては負ける気はしなかった。
これでも二年前は美紀と七瀬と一緒に実績を残した凄腕プレイヤーの一人である。
ただ【神眼の天災】の前では過去の称号がどうしても霞んでしまい、周りから警戒される事はほとんどなかった。注目を浴びているのは第一回イベントで十以内に入った者と第二回イベントでかなり活躍した者だけだったからだ。その中でも美紀は常に蓮見と行動をしていた為にまるで強い光に存在がかき消されるように周りが実力を正確に把握できていなかった。
だけどそのおかげで相手が最後まで油断してくれていたのもまた事実。
「そう考えると不思議だな。里美さんの話しではまだまだ紅さんは弱いと聞いているけど、じゃあ何で誰一人未だにあの暴走を止められないのか? ってなるのよね……本当に私達のギルド長って弱いのかな……」
瑠香はふとそう思った。
このイベントでまた【神眼の天災】は進化する、そう思うとつい笑ってしまった。
「久しぶりに私も暴れようかな……」
瑠香は今最高にワクワクしていた。
今までは勝ちたいと言う欲望に純粋だった。
だけど蓮見と出会ってから少しずつ【勝ちたい】から【この状況を楽しみたい】と思うようになっていた。それは美紀やエリカ、そして姉と同じく自分が蓮見に少なからず影響を受けている事を意味していた。
瑠香は七瀬とエリカが来て合流するまでの間に蓮見にメッセージを送った。
内容はもう少し暴れたいので周囲の捜索を兼ねて偵察隊を見つけたら戦いたいというものである。
せっかくいつも以上にやる気が出たのに、このまま敵が来るまで拠点で大人しくしている気にはなれなかった。それにもしかしたらまだ自分達気が付いていないだけで、敵の拠点が近くにあるかもしれない。そうなると、一秒でも早く見つけて先手を打っておいた方がいいに決まっている。
するとすぐに返信が返ってくる。
『いいよ~。でも七瀬かエリカさんのどっちかだけでいいから一度返して欲しいんだけど、それでも大丈夫? それで良かったらいいけど。なんでも里美が一回自分の目で色々と今のうちに見ておきたいらしくて』
瑠香はすぐに大丈夫です、と返信して裏手から合流してくれた七瀬とエリカに今のやり取りを説明する。
そして戦闘慣れしてないから少し疲れが見え始めたエリカが休憩をしたいとのことだったので、そのまま拠点に一度戻ってもらう事にする。その時二人はエリカからプレゼントを一つ貰った。
戦闘慣れしている瑠香と七瀬はまだまだ戦えるのでそのまま周囲の捜索をすることにした。