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便り3

「周囲を川に囲まれているから安心だ。けれどそれだけではいずれ見つかってしまうだろう。奴らに察知されないのは潮の満ち引きが味方してくれているからだ。洞窟は大きく二股に別れており、必ず片方は分岐の途中が水没してしまう。水を不得意とする奴らのことだから、どいつが来ても決まって乾いた道を通る。常に水没した方の洞窟の深部に身を潜めていれば、ほとんど奴らの脅威に脅かされることはない。万が一分岐点の近くで見つかってもすぐに水没した道を潜水すれば、奴らは追いかけている途中で目的を忘れてしまう。何度も息継ぎを繰り返す必要があるくらいに長い洞窟なのだ。奴らは本当に忘れやすい。幸いにもここを本拠地としてからは犠牲者は出ていない。暫くは安泰だろう。仮に奴らが目的をリマインドする方法を編み出したらまずい。記録媒体を携えたなら、たとえ亀のようにゆっくりでも全員で泳いで来られたら逃げ場はなくなる。洞窟の深部に辿り着いた奴らは暗闇では透明なハヤブサなのだから。まあそんなことは天地がひっくり返ってもあり得ない話だ。杞憂で終わるだろう。

 これを読んでいるあなたがはぐれた仲間だとしたら、早く洞窟へ足を運ぶがいい。お腹を満たせる食料を確保して我々は水没した道の奥で待っている」


 手記はそこで締め括られていた。

「おい、峠を越えたところに川が流れていたが食べられそうなものはなかった」

 振り向くと苦虫を噛み潰した表情で仲間が散策から戻ってきたところだった。

「何だその手にしているものは」

 仲間が顎で指し示す先に読み終えたばかりの手紙があった。

「これは海に落ちていた。それより食料がないと困る。とんだ役立たずめ」

「そっちこそ食えもしない紙くずは捨てておけ。しかしそこまで言われたら悔しい。激流で億劫だったが、中洲の窪みが気になったから見てこよう」

 中洲の窪みなんておかしな表現をする。聞きただせばどうやら小さな穴ぼこらしい。

「待てよ、それは洞窟ではなかったか」

「よく目を凝らさなければ分かりにくいが、そう言われたら洞窟に見えなくもない」

「もしかしたらこれは紙くずではないぞ、あるいは宝の地図だ」

 眉根を寄せて不思議そうに覗きこむ仲間に紙片を押し付け高鳴る鼓動を抑えきれずに駆け出した。

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