便り
海沿いの岩場を散策していると、水面にキラリと光透明な容器が浮かんでいた。近づいてみるとペットボトルに何やら詰め込まれているようだ。
波しぶきを受けるペットボトルを片手でつまみ上げた。太陽にかざして左右に振ると中身の紙片はコロコロと回転した。
岩の照り返しから逃れるように、木陰に腰かけた。キャップを開けてボトルを逆さにすると、折り畳まれた紙片は抵抗することなく飛び出した。
湿り気を帯びた端と端を丁寧に剥がしていくと、荒々しい筆跡の文字が羅列されていた。筆者はよほど切迫しているのか、ほとんど殴り書きに近い。解読に手間取りそうだ。
読みづらい文面を辿る内に腹が鳴った。一週間何も食べていない。空腹を紛らすことも兼ねて手記を声に出して読もうと思う。
「こ、の手紙を読んでいる誰か。どうか驚かないで欲しい。もうーーーは危ない。あれから数ヵ月は経っただろうか、それすらも定かじゃない。日付を気にしている余裕すらないくらいに僕らは追い込まれてしまった」
手紙の冒頭は鬼気迫る様子がひしひしと伝わる。読めない箇所は可能な限り補うことにする。とにかく腹が減って仕方がない。ここからはさらに集中して読み進めるとしよう。
「ひどく焦っているから、何から説明すればよいのだろうか。ああ、そうだ今は年も開けた4XX3年。多くの人が集って祝福し合う素晴らしい日。まさか誰しもこんなことになるなんて思いもよらなかった。思い出すだけでも震えが止まらない。つい一昨日も仲間が奴らの毒牙にかかってしまった。奴らは一体どこから現れたのか分からないが、初めは街にぽつんとつっ立っていた。仁王立ちの姿はメディアで取り沙汰されたし、奴を見ない日はなかった。どこかの地域のマスコットキャラクターの類いか、たちの悪い悪戯なのか、様々な憶測が飛び交ったんだ。直立不動のそいつは棒でつつかれても、雨に打たれ続けても微動だにしなかった。次第に皆の記憶から忘れられていったが、早く手を打つべきだったんだ。年の瀬のカウントダウンは地獄へ誘う合図だった」




