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一万年の復讐と黒い薔薇  作者: 空想人間
第1章 1万年後の世界にて
6/22

第6話

 曇天の下、荒れ果てたコンクリートの道路を黒いバイクが過ぎ去り、砂塵が舞う。

 その車両が向かう先には巨大な壁があり、運転手の背後からは盛り上がるような声が響いて風に溶ける。

 この壁に囲われた街こそ、一万年前にパンデミックが引き起こされても滅ぶことのなかった国の中心で、世界でも有数の耐久力を誇る都市、トウキョウだった。

 現在この国は非常に希薄な繋がりで何とか文明を保てているが、予想外の襲来、そして条約の撤廃があれば瞬く間にライフラインが途絶え、滅びの道を辿ってしまうほど脆い。

 このようにパンデミックが引き起こったせいで世界の半分はもはや人の住める場所ではなくなってしまったのだ。


 パンデミックの原因となるウイルスの名前はReVoウイルスと名称が付いた。致死性は九十八パーセント。感染した後に死亡すると、食欲のままに理性なく動き出す感染者……つまりゾンビと呼ばれる者に変貌を遂げ、人を襲うようになる。

 そしてその数は人口が増えることに比例して増加し、ニホンを除く人間の生息域は日に日にゾンビの生息域に押されているのが現状だ。


 しかし、パンデミックから一万年が経過し、辛くも残った人類は全人口の五パーセントほどがReVoの耐性を獲得している。

 非常に長い年月が経とうとも耐性の着いた子が産まれる低い要因として、遺伝確率があまりにも低いことと、そもそもウイルスに感染したものは高確率で死んでしまうのが原因だ。


 しかし、地球環境の変化そして人間の進化により、人々には生まれながらにしてReVoに耐性を持つ者が増加し、近くない未来ではあるが、このウイルスを克服する日も来ることが推測されている。


 また、行方不明のニホンの研究者、一天上いってんじょう 才也かどやによって、開発された特殊な薬品によって、後天的にウイルスの耐性を獲得することも可能となっている。

 しかし、致死率は九十パーセントとあまりにも高く、基本的なルートでは取引されていない。

 どこかで彼は生きており、この薬品を捌いているという噂が存在する。


「うわぁぁぁあっ!?」

「おや、よく分からんが近場で人がゾンビに襲われとるぞ。行くのかえ?」

「……」


 そして、一万年生き残った人類にとって最も大きな功績が潜在能力ポテンシャルの発見である。

 ReVoの耐性を持つ全人口五パーセントのうち、その内僅か一パーセント以下の人々は、たった一人で火器兵器をはるかに凌駕した超能力を持つ。


 それらは人形兵器ドールズとよばれ、「百刀」「緑島」「獄炎」「紫電」「氷海」「籠絡」「超然」といった、いずれかの能力を持ち合わせている。また、近年でいえばそのジャンルにも当てはまらなかったり未知の能力や、能力の複数所持といった例もある。

 これらの超能力の解析については現在もありとあらゆる機関で研究が進められているものの、未だReVoウイルスが関連していることしか把握していない。


 人形兵器ドールズの所有は国にとって非常に有用であり、国に蔓延るゾンビを掃討するにしても、兵器として利用するにしても、各国で喉から手が出るほど求められている。

 反面、人形兵器ドールズは力を扱い切れない場合が多く、危険な大規模テロを起こすケースもある。


「ゥ、ガァ……」

「……え? 頭に……刀が刺さって……?」

「おおう、禿頭にクリーンヒットじゃ。お茶の子さいさいってやつかの?」

「気にしないでいい。それよりこの辺で降りるよ」


 ニホンでは、古くから潜在能力ポテンシャルを持って生まれる割合が他の国と比べ異様に高く、全世界平均の十倍以上出生率が高い。

 狭い土地であるものの、潜在能力者育成プログラムは最も進んでおり、ニホンは世界で唯一ゾンビたちから国土の九十パーセント奪還している。


 そのため、海外から危険を冒してもニホンに来たい、という潜在能力者も多いとか。


「えっ……その、もしかして、貴方は……!?」

「……どっかいって」

「はははは、はいっ! 命を助けていただき、ありがとうございましたっ!」


 何故ニホンだけが潜在能力者の割合が高いのか、と言う疑問に対して、一つの伝説がある。

 それは荒唐無稽な伝説であるものの、ニホン以外にも数々の場所で目撃証言があるものだ。


「可可、ありがとう、じゃとよ」

「感謝なんてどうせ三日もすれば忘れるよ」


 それは黒薔薇と呼ばれる正体不明の伝説だった。

 黒いフルフェイスのライダーヘルメットを付けて世界各国をバイクで走り回っており、どんな数のゾンビでも一瞬で薙ぎ倒すほどの実力の持ち主だ。

 その正体はニホンを中心とした神様であると考えられ、その加護によって子供が潜在能力ポテンシャルを持って生まれやすい、との事。


「おんやまぁ、相変わらず黒薔薇サマは冷たい事じゃて」

「文明が発達するまでReVoの耐性持ちを寄せ集めて、守ってだけ。そいつからが勝手に増えただけで、別に大したことしてない」

「可可っ、じゃが、お主の頑張りのおかげで妙な噂が立っとるぞ。ニホンは潜在能力ポテンシャルを持った子が生まれやすいとな」

「はぁ……十家じっけのうちの誰かが女遊びしまくってるんだよ。だいたい想像はつくけどね」

「おうおう、ReVo耐性持ちを増やすには最高の雄馬じゃが、それが白日の元に晒されれば……笑ってしまうのぉ。可可っ」


 十家じっけとは、真於が知らぬ間にニホンに出来ていた上位カーストである。

 ニホンの憲法では四民平等の条文があるが、なぜかそれが十家には適応されない。

 全員が能力持ちだから国も扱いずらいんでしょ、とは真於の言葉である。


「少し回り道しすぎて来るのが十年ぐらい遅れたけど……まぁ丁度いいくらいか」

「うぬ! これであの馬鹿弟子が見つからず百年が経過したらそれはそれで面白いがの!」

「やめてくれ」


 黒いフルフェイスヘルメットを外し、バイクの荷台に仕舞う。

 サイドミラーに映る真於まおの顔立ちは二千年前とまるで変わっていなかった。

  ヘルメットをしていたのにも関わらず髪型はショートヘアの黒髪で整っており、誰がいつ見ても美少女である、と口を揃えてしまうほど可愛らしい顔立ちであった。

 そうであるように、作られてしまったのだ。


 まずトウキョウに入る前に、このバイクを置いておく空き家を探さなくてはいけなかった。

 彼女は何度も行ったことがあるため理解しているが、スラム街エリアはあまりにも治安が悪く、都市部以外はスリなどは当たり前で、何とも世紀末なエリアなのだ。


「じゃ、行こう、百々刀(ももか)

「うぬ! 早く見つかるといいの!」


 彼女もヘルメットを外し、押しているバイクの荷台に仕舞い込む。


 百々刀(ももか)と呼ばれた彼女の髪型と服装は、人目を明らかに引くほど特殊であった。地面スレスレにまで伸びた長いポニーテールは銀髪と水色のインナーカラー、左側頭部には赤いメッシュ太いラインが二本作られている。


 そして、背中には米印を作るかのように四本の刀を帯刀しており、瞳は真紅で、顔立ちは幼いながらも完璧に整っている。


 真於は黒パーカーに黒ミニスカート、黒ブーツとあまり目立たないような格好をしているが、百々刀(ももか)は和服を着崩し、肩からサラシ、足元には下駄といった格好をしている。

 どの世界で歩いても視線を集めるのは目に見えているが、彼女いわく「神とは目立ってなんぼ。儂が神じゃ」とのこと。


「それで、最初に向かうのはどうするのじゃ? トウキョウといってもまぁまぁ広いぞ?」

「スラム街を抜けて、《対感染者掃討部隊本部(IPDH)》に向かう。多分そこで会えるはず」

「ほほう、一応当てはあるのじゃな」

「まぁね」


 二人の女性はこの場から離れ、姿は小さくなっていく。

 彼女たちが気づいていないと思っているのか、トウキョウに近づくにつれ、背後に迫る多数の気配を感じ、呆れたような溜息を吐くのだった。


 / / / / / /


 トウキョウは決して安全なところではない。

 確かにゾンビなどの被害からは身を守れるが、ただ通るだけでも命懸けである。


 都市部を囲うのは全周三十キロメートルにも及ぶスラム街だ。ReVoの耐性を持つ子を生み出そうと人々は躍起になり、作りすぎた子供はこのスラム街に捨てられる。それがこの街の形成に繋がった。

 辺りにはゴミやガラクタが散らかっており、衛生的とは遠い関係にある。

 食料配給、炊き出しは日に二度あるが、それでも賄えていないのがこのスラム街だ。ここでの生活に耐えられないのならば、ゾンビたちの餌になる可能性に毎日怯えつつ、他県の田舎、もしくは別の界隈で暮らす他ない。


 まさに限界を直前までに控えた街、それがトウキョウスラム街だ。


「はぇー相変わらずじゃのう。皆も元気そうでもなによりじゃ。見てみい、儂らへ向けて愛の視線がビンビンくるぞよ」

「国が悪い。ReVo耐性持ちばかり待遇を良くするからこうなる。どこも同じだろうけど」


 そんな中、明らかに綺麗な格好をした女の子が不用心にも二人でこのスラム街を通り抜けようとしたのだ。

 国の上層部や他国の客人は皆ヘリコプターや飛行機で都市部に降りるため、このエリアは通らない。

 つまり、このスラムに住む人々から見れば、彼女たちは田舎出身の格好の餌である。

 予想される悲劇は身ぐるみを剥がされ陵辱されるか、殺されるかの二択であった。


「やぁ、お嬢ちゃんたち。ここに来るのは初めてかい?」

「いいえ。関わらないでください」

「おおっと、ここから先は料金を払わなきゃ進めねぇんだよ。戻るのもな」


 彼女たちは街を突き進んでしまったため、もはや逃げ道はない。

 周囲ではおよそ四十人ほどの男たちに囲まれており、誰も彼もが棍棒などの近接武装をしている。


「可可っ、以前と同じ展開じゃのぅ。お主も分かってて突っ込んだんじゃろう?」

「飛ぶのが面倒臭いから最短ルートを通っただけ」


 ――ぼそりと呟いた彼女は一度目を閉じ、ゆっくりと半目を開く。


 すると彼女を中心に微風が吹き、男たちの間をすり抜けていった。


 そのたった一瞬にしてざわついていたスラムは静まり返り、真於たちを囲んでいた男たちは……一人、また一人と地面に倒れ伏していく。


 ――その女に対峙していた者曰く、自分の首を跳ねられた夢を見た、と。


「百刀の能力の一つ、刀気とうき。相手の気の流れを実体のない斬撃で断ち、気絶させるわざよ。うぬ、良い切れ味じゃ。以前にった時より更に良くなったの」

「奥の方の門番も気絶させておいた。早く行こう」

 

 やたらハイテンションな奇抜で和服姿の女はぴょんぴょん跳ねつつ消えていき、黒髪の女は辺り一帯の男たちが気絶したことに何ら驚かず、踏みつけながらもスラム街の出口に向かっていく。


 彼女たちの通り道にはまるで竜巻でも通り過ぎたかのように人々が倒れており、誰も触れることすら適わなかった。


※執筆が終わったのはコロナの存在が発覚する少し前です。

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません

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