第1話
※執筆が終わったのはコロナの存在が発覚する少し前です。
この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません
――はるか遠くの街から命が消える音がする。
また一つの国が滅び、世界の終わりへ一歩近づいた。
――思わず溜息が漏れる。
この危機はパンデミックが引き起こさせられてから数えることが出来ないほど多発している。
だが、人類は未だウイルスに対する根本的な解決策を見出していない。
今のところ確立された解決策はたった二つ。ウイルスを撒き散らさずに感染者を殺すか、人間が進化を遂げてウイルスを克服し、その遺伝子を未来まで繋ぐこと。そのどちらかである。
漆黒の洞穴へ朝日が差し込み、目を閉じて半覚醒状態の「彼女」を覚醒へと導いていく。
動かなければ、世界が滅びる。動けば、世界に希望がある。
この世界はウイルスを克服し、世界を立て直すことが出来る、という可能性の光を孕んでいるのだ。
「彼女」は思考を止め、目を開く。
彼女の瞳は――漆黒だった。
人間の瞳の色に完全な黒を持つ者は存在しない。つまり、彼女が人間ではない事を証明していた。
「ふぁぁぁ……やれやれ。おちおち眠ることも出来んな。まだ200年ほどしか経過してないぞよ」
ため息をついた少女の隣にいる影が大欠伸を作り、非常に長い髪を結いながら小言を漏らす。
しかし、その言葉は「彼女」にとって雑音同然であるようで、反応はない。
この場を立ち上がり、近くの水場で顔を洗うと、「彼女」は暗闇の中から一本の刀を抜き出し、其れを腰に差し込む。
「本当にまた行くのかえ? お主にとって世界の危機なぞ言葉通り『日常茶飯事』なのかもしれぬが……この世界の“在り方”に意味があるとはとーてい思えんのじゃが?」
「――有るよ。その証拠にあのウイルスの耐性がある人間だって少しづつ増え続けてる。だったら、俺の8000年は無駄じゃない。それだけで十分。それに――」
「あぁ、あの超絶天衣無縫生真面目な弟子との賭けの事かの? 」
「……そう。そのために必要な舞台の整地は俺がやるよ」
「人の転生なんぞとても信用出来るものでは無いが……この壊れた輪廻の世界ならば可能性はある、か。可可っ、思い出しても未だに腹が捩れそうじゃわ」
ゲラゲラと腹部を抑えながら笑う少女を置いて「彼女」はさっそうと準備を進めており、両手に真っ黒なリストバンドを装備し、腰にはガンベルトを巻く。
「どんなものでも、誰であろうとも、全ては俺の目的のために使う。それが――俺の“復讐”。あいつが転生するまで残りはおよそ2000年。全てはそれから考えればいいよ」
「まぁどちらにせよ儂はついて行くのじゃが……賭け金を忘れるのではないぞ?」
「そっちこそ」
朝日に照らされ、「彼女」の姿が顕になる。
真っ黒なプルオーバーパーカーに身を包み、漆黒のミニスカートを履いている。髪はサラサラの黒ショートヘアで、まさに全身真っ黒な服装であるが……スラリと伸びた足は真っ白で眩しい、あまりにも完成された少女だった。
しかし、「彼女」の口調はどこか男のような荒っぽさが含まれる。
「ははぁ、儂も長いこと生きておるが、相っ変わらずべっぴんじゃのぉ、1000年見ても見飽きんわ」
「そうなるように作られたからね。俺に言われても困るよ」
「おうおう、お主の復讐相手は規格外すぎて朝の話題には胃もたれしそうじゃ……さて、待たせたの。では行こうぞ! お主の大嫌いな人間を救いにの!」
「世界を救う過程で人間も救うだけだから。人間が主な目的じゃないって」
「可可! いつもの照れ隠しか! お先じゃー!」
「……はぁ」
暗闇から一気に外へと走り出し、無邪気なもう一人の少女は地面に着くほど長いポニーテールをたなびかせ、谷の底へ向けて落下していく。
「彼女」たちが今まで生活していたのは……山の中の洞穴だった。
忘れ物がないかもう一度背後を見渡し、朝日に対して睨みを返す。
「賭けの結果まであと2000年。信じてるよ。お前の生真面目さを」
呟いて、彼女も重力に身を任せて落下していく。
目標地点に着地するまで、ゆっくりと目を閉じる。あの日から全てが変わってしまったのだ。
初めまして。空想人間と申します。
純粋に主人公最強の話を書きたい気持ちが湧き出て衝動のままに書いている作品です。
評価お待ちしております。
どうぞよろしくお願い致します。