第二話 伝説の魔獣
この度も作品を見来てくださりありがとうございます!
俺が依頼クエストで引き受けた薬草採取の薬草は名前を【ヨモギ】と呼ばれている。 腹痛・下痢・
貧血などで使われる薬になるほか料理にも使われる事から自分で育てる人もいる。
おいなりの居酒屋でも他の客が頼んだ天ぷらという料理でも使われていた。
「さて、この辺でいいか。」
まだ太陽が昇り切っていない早朝に俺は森の入口付近に来ていた。 アイテムボックスから昨日おいなりの帰りに買った数枚のヨモギを取り出し適当に放り投げる。 その後放り投げた周辺の木の上に昇って様子を見ていると俺の予想していた生き物が近づいてくるのが見えた。
朝日の光で銀色の体毛がキラキラと光り神々しく見えるその生き物は伝説の魔獣フェンリルの子供だ。
昨日もヨモギを採取していた際にいつもより周辺のヨモギが生えていなかったのと周りにウルフの足跡のような物がチラホラとあった。 最初はウルフや他の獣がヨモギを食べた物だと思っていたがあれ程生えていたヨモギをただの獣が食べつくすのもおかしな話だ。
フェンリルの子供は俺がそのあたりに放ったヨモギを1枚1枚食べていく。
(さて、ここからどうしたものか。)
まさか本当にフェンリルだとは思っていなかった。 あくまで予想の範疇であった為、結局ウルフがヨモギを食べた犯人でしたぁ~みたいなオチだと思っていたからだ。 となると最初の予想が当たってしまえば大概後の予想も当たっている筈だ。
恐らく近くにいるであろう魔人の少女を木の上から探しているとドーンと森の奥から爆発音のような音が聞こえフェンリルの子供もピンッと耳を立てる。
(なんだ?)
爆発音がした方角からは煙が立ち込み明らかに魔物同士の抗争ではなく、人間同士の抗争で起こる魔法での衝突による爆発だった。
◆◆◆
「ブハハハッ! おい見ろ! 本当に紅目だ!! 噂を信じて朝早くから森を探索して見るもんだなおい!!」
2メートルはある大きな斧を振り回している男は汚い高笑いを上げながらズンズンとつい先ほど吹き飛ばした薄暗いフードを被った相手に近づく。
「おい嬢ちゃん。 俺は優しいんだ。 お前がこれ以上抵抗しないで俺達についてくるっていうのならこれ以上痛ぶる事はしねぇよ?」
フードを被った少女は斧男を睨みつけ唾を吐く。 しゃがみこんで少女の顔を覗き込んだ状態だった斧男に顔に唾はつくと斧男は少女の頬を力一杯に叩き少女は吹き飛んだ。
「たっくこれだから魔人っていうのは下品で仕方がねぇ。 他人に唾を吐いてはいけないって親にいわれなかったのかアァ”!?」
「グッ!」
倒れて起き上がらない少女の長髪の髪を握り無理矢理に顔を起き上がらせる。
「おぉ~。 なんだ嬢ちゃん。 結構可愛い顔してるじゃねぇか。 幼く見えるが体も結構育ってるみたいだし物好きの金持ちにでも売れば高くうれるかもなぁ~ブハハハ!!」
斧男は少女を乱暴に放り投げ仲間の男達に縄で縛るように指示をする。
「それにしても魔人っていうのも大したことねぇな。 御伽噺だと魔物最強の生物であり魔王と呼ばれた種族は魔人だったといわれているらしいが、これぐらいの実力なら昔の魔王っていうのもそれほど強くなかったんだろうよ! ブハハッ!!」
男は自分の胸元にぶら下がる銀のネックレスを引きちぎり投げ捨てた。
「なぁにがBランクだ! 俺にはすでにSランク以上の実力を持ってるっていうのにあの男女の試験官野郎俺を試験に落としやがって! 俺は最強の冒険者だ! 誰もが俺の力に恐れ従い敬うのが当たり前なんだ! しかも魔人を倒す事も出来る! あんな名前だけの掟に従う俺じゃねぇんだよ! ブハハハ!!・・・ん?」
汚い高笑いを続ける斧男の顔に空から一枚の葉が落ちて来た。
「なんだ? ヨモギかこれ?」
なんでこんな空からと疑問を持っていると木の影から銀色の体毛をまとった獣が斧男に襲いかかりヨモギを持った腕ごと食いちぎった。
「グギャァアアァァアア!!!??」
斧男は食いちぎられた腕を押さえながら倒れ込み悲鳴を上げている。 斧男の仲間達はいきなり現れた見た事のない魔獣に恐れ一目散に逃げて行った。
「ま、まてお前ら! 俺を助けろ! 仲間だろうが! おい! お前ら!」
斧男は利き手を食いちぎられたせいか上手く斧を振り回す事が出来ず近づいてくる銀色の魔獣に腰を抜かしてしまっている。
「やめろ! た、助けて!」
魔獣が斧男に向かって口を大きく開けた瞬間、ヒラヒラと別の場所からまたヨモギか空から落ちて来た。 魔獣はヨモギを見つけると斧男に興味を失い落ちて来たヨモギを上手く口にキャッチして味わって食べている。 斧男の方は食べられる寸前だった為白目を向いて気絶していた。
縄で縛れた少女はポカンッとしていると後ろから人の気配を感じて睨みつける。 先ほどの斧男の仲間が戻って来たのかと思ったが、少女の目の前にいたのは汚いフードを深く被った男が立っていた。
「あぁ。 やっぱり君だったか。」
「あんたは・・昨日の・・」
男は少女の縛られた手足の縄をナイフで解いた。 少女は解かれた瞬間に男から距離をとり腰に装備している剣を構える。 だが男は手を挙げて戦う意思を見せない態勢をとった。 それが逆に怪しくより警戒を強める。
「何が目的だ!!」
「え? いや、別になにも」
「嘘をつくな! 貴様等人間は私達魔人を人として見ていない! 何の見返りもなく私を助ける意味がない筈だ! 一体何を企んでいる!」
男は溜息を吐いてうんざりしたような表情をする。
「本当に何も企んでないよ。 俺はただそのフェンリルを親元へ返そうと思ってここにきただけだ。」
「なに?」
全く信用する事ができない事だったが、銀色の体毛を持つ魔獣、フェンリルの子供は尻尾を振りながら男に近づき何かをねだるように座り込む。
男はアイテムボックスから一枚の薬草を取り出しフェンリルに差し出した。
「このフェンリルやけにヨモギが気に入ったのか森のほとんどのヨモギを食べつくしてたんだ。」
「・・・何故食べつくしたのがフェンリルだと分かった?」
「だって普通の獣や魔獣は薬草を食べようとすることは稀だからね。 しかも森中の薬草を食べつくそうとしているなら最近噂のフェンリルだと考えるし、フェンリルは体長五メートルは超える大型魔獣だから地面に残った足跡とから見て小さすぎる。 それなら最近ダンジョンから出て来たフェンリルは何らかの理由でダンジョンから出てしまった自分の子供を探しに森に来ているのではと考えたんだ。」
まさかこんな適当な予想が的中するとは思ってもみなかったが。
男はまだヨモギをねだるフェンリルの頭を撫で手のひらをヒラヒラとさせる。 アイテムボックスの中のヨモギは無くなってしまったのだ。
「で、魔人である君は人間に子供のフェンリルを狩られる前に助け出そうとしてこの森の周辺にやって来たって所かな。」
話したことすべてがあっていたのか少女は構えた剣をゆっくりと降ろして鞘に納めた。
「・・んで」
「ん?」
「何で戦わない。 貴様等人間から見て魔人は魔物そのもの。 敵だ。 それなのに何故戦わない。」
男は面倒くさそうにガリガリと頭を掻いた。
「戦いたくないから。」
「・・・は?」
男の答えに少女は目を見開いた。 人間は私達魔人を殲滅させようと発見すれば殺し、力がある者は奴隷して働かされる。 それが人間だ。 殺されない為に戦い生き残る為に戦う。 魔人と人間はそういった関係性しかない。 それなのに目の前にいる男は戦いたくないと言った。 それは少女は今まで見て来た人間には見た事がない人種だった。 だが、それと同時に胸の奥から怒りの様なものまで膨らんできた。
「ふざけるな! 何が戦いたくないだ! 貴様等は自分の保身のために私達を殲滅させようとしている奴等だ! 今迄どれだけの仲間を殺してきた! それなのに戦いたくない? ふざけるな!」
「うん。 でも、俺は戦いたくない。」
男の目は真っ直ぐと少女の目を見てそう答えた。 その目に嘘がない事にさらに少女の怒りは膨れ上がる。 口を噛み締め握った手を力一杯に握りしめる。
「戦え。」
「いやだ。」
「うるさい! 貴様の意見など聞いていない! 戦え! 私達魔人は人間に勝って自分達の平和な日常を手に入れる! 人間と戦って勝って今迄死んでいった仲間達に誇れる日常を手に入れる! だから戦え!」
「嫌だ。 君みたいな可愛い子と戦いたくない。 ・・あっ。」
男はバッと自分の口に手を押さえた。
少女はしばらく男がいった言葉の意味を理解できなかったが、徐々に自分が可愛いと言われた事に顔を赤くしていく。
「ふ、ふふふふざけるな! 私を騙そうとしたってそうはいくか! そうやって隙を作って殺そうとしたのだろう!」
「違う! 俺は本心で・・いや、ちょっと待て。 確かに君を初めて見た時から可愛いとかすげぇタイプだとか思ったけど決して騙そうとしたわけではなくてだな!」
「うるさいうるさい! もう黙れ!! ちょっと黙って!!」
少女は耳を両手で塞ぎその場にしゃがみこんだ。
顔が暑い、心臓の音も早く呼吸が早い。 自分の状態に理解が追いつかず少女は身を固めてしまった。
(やれやれ。 どうしたものか。)
男は自分自身の顔も真っ赤になっている事を自覚しながら今の状況を簡単に頭に整理した。
フェンリルと魔人の少女を見つけたのは良いがフェンリルに腕を喰われたBランクの斧男をどうしようかと悩んでいた。 斧男の仲間達は恐らくかなりの上級ランクの戦士を連れてくることは目に見えている。 しかも腕を食べられた事により魔物の悪い噂はさらに広まるだろう。 そうする事はあまりよろしくない。 そうすれば目の前でしゃがみこんだままの少女の命も狙われてしまうかもしれない。 それだけは阻止したかった。
「お、おじごぼれ~・・」
斧男が意識を取り戻したのか喰われた腕を押さえながらゆっくりと立ち上がる。 しかし、その目は充血していて普通の状態ではなかった。
「でめェ~おじごぼれ。 俺のえ”ものをよごどりするづもりだな~!!」
斧男は震えながら一歩ずつ近づいてくる。 異様な様子に少女も気が付き剣をいつでも抜ける態勢を構え、フェンリルも唸り声をあげている。
「おいあんた。 もうジッとしてろ! 様子がおかしいぞ!」
「うるぜぇ!! でめェ~みたいなおぢごぼれ野郎にしんばいされるお”れじゃねぇ!!」
斧男は斧を振り上げ地面に叩きつけると斧男の周辺に魔法陣が浮かび上がった。 その魔法陣に書かれてある文字を見た途端、俺は少女の手を引っ張りその場から走った。 フェンリルも感覚で察知したのか俺と同じ方向に逃げる。
「ちょっと何するの!?」
「逃げるぞ! 自爆魔法だ!!」
「!?」
その昔、勇者が魔王を打ち倒してヘルの時代が終わろうとした時、人間達は自分の領土を手に入れる為に争っていた時期があったそうだ。 勇者から魔法の知識を得た1人の人間がある魔法を生み出して領土を手に入れた話がある。何人もの仲間を犠牲にして。 最後は勇者によってその魔法は禁忌として扱う事は止められたらしいが、完全に平和になっていないこの時代に裏で危険な情報を手に入れる人はたくさんいる。
「俺は最強なんだ! 誰もが恐れ!従い!敬うのが当たり前なんだ! 誰も俺の事を恐れない!従わない!敬わない連中なんざ木っ端微塵に消えていしまえばいいんだ!!」
斧男は両手を広げ空を見た。
その顔には理性がない獣その物の顔がある。
「自爆魔法!!」
斧男がそう唱えた瞬間、辺り一面の木は吹き飛び地面は抉れ地形が変わった。 爆発の範囲は国までぶつかる事はなかったが、逃げていた落ちこぼれや魔人の少女、そしてフェンリルの範囲には入っていた。
しかし、落ちこぼれ達がいるその周辺だけが無傷の状態だった。
落ちこぼれは爆発の寸前少女とフェンリルを庇うように抱きしめ身を低くしていた。 だが襲ったのは強い振動のみで痛みも何も襲ってこない。 それは少女も不思議に思っていたらしい。
ゆっくりと顔をあげると目の前には十メートルはあるだろう大きく美しい銀色の体毛をしたフェンリルが立っていた。
『無事か人間よ。』
「!!?」
頭の中で誰かが話しかけてくるのが聞こえた。 それが目の前にいる大きなフェンリルである事は何となく理解できたが驚きのほうが大きく俺は聞かれた質問にゆっくりと頷くことしか出来なかった。
『我の息子。 そして同胞を守ってもらった事、心から感謝する。』
「あ、え、いや、こちらこそ・・どうも?」
頭の処理が追いつかず伝説の魔獣に頭を下げられ慌ててこちらも頭を下げる。
「ちょっ・・ちょっと君! 俺はもう頭が追いつかないから代わりに会話して! ・・・あれ?」
頭からすでに湯気が出る程処理能力が追い付いていない状態だった為俺の腕で抱えられた状態の魔人の少女に変わってもらおうとしたが、少女は気持ち良さそうに眠り込んでいた。
『ハッハッハッ! どうやら何日も休まずに我が子を探してくれていたせいか力尽きたようだな。』
「うっそぉ~」
子供フェンリルが少女に近づき少女の頬をペロッと舐めると次に俺の顔をベタッと全身に一舐めしてきた。
『すまないが人間。 我が同胞をしばらく預かってはくれんか?』
「はい?!」
『何心配はいらん。 その者なら起きて体が回復すれば勝手に帰ってくる。 では頼んだぞ。』
「ちょっとまって! 俺まだ承諾してない!!」
『何を言う。 承諾なら今したではないか。』
「はっ! いつ!?」
フェンリルは自分の顔にツンツンと手をあてる。 それは子供フェンリルが俺を舐めた事を俺が受け入れた事が承諾のサインらしい。
『頼んだぞ。 もし我の同胞になにかあればお前の国を滅ぼしにいくからな』
「シレッと怖い事言ってる!!」
フェンリルは俺の言葉を鼻で笑うと大きな雄叫びを上げた。 それにつられるように子供フェンリルも雄叫びを上げる。 すると物凄い勢いの風が吹きフェンリル親子の姿は消えてしまった。
「・・・・」
あまりにも現実味のない出来事が目の前に起こり何も考える事が出来ず、余程眠りが深いのか少女は俺の服を強く握り話してくれない。
「はぁ・・面倒くさい。」
落ちこぼれの低ランク冒険者にはとても荷が重い物をあの伝説の魔獣は与えてくれたものだと俺は木が吹き飛び空がよく見える森の中でしばらく空を眺めた。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
どうか次回もよろしくお願い致します!