魔物
味わったことこない様な倦怠感に苦しみながら、意識が少しずつ覚醒していく。
「ん、んぁ、」
重い瞼をゆっくりと開けていくと、雲に遮られることのない眩しい光が上空から降り注いできた。
「ま、眩しっ」
まるで真夏のような太陽の輝きに目をちらつかせ、下を向く。
少しずつ眩しさにに慣れくる。
妙な気だるさに眉をしかめ、思考を巡らす。
「......あれ?そういや俺って、何してたんだっけ?
........確か散歩してて、えっと......その後公園で.........あっ!」
(確か、すんごい美少女が現れて、そんで意味わからんこと言い出して、いきなりナイフでズバッと殺られたんだっけか?)
「うん、思い出しても意味わからん。」
腹部を見るが傷はなく、血も出ていない。
長らく寝ていたような感覚でどこか昔の出来事だったかのような気がする。
(ってかここどこじゃい、さっきいた公園じゃないし。)
周りを見ると先程までいた公園は見当たらず、
見渡す限りの草原だ。人のいる気配がない。
「The未開拓って感じのとこだな...」
自然をこよなく愛する自分にとっては感動して涙を流すほどの景色ではあるが、いかんせん状況が状況である。
(やっぱ俺は死んだのか...? 今は魂だけ的な?)
「んじゃあ、ここは差し詰め天国ってわけだ。
.....はぁ、何なんだよ、畜生。」
(今頃ニュースになってんだろうな。
今日の午後未明、公園で二十歳ごろの男性と見られる死体が発見されました。
腹部には刃物で刺された傷跡があり、背中まで貫通しているところから、警察は殺人事件として捜査を進めております。
なんてな。.......はぁ、笑えねぇ)
人生やりたいことがそれほどあったわけではないが、いざ終わったとなると口惜しい。
人の命の終わりは意外に呆気ないものだ。
遣る瀬無い気持ちを抑え、気持ちを切り替える。
「さてと、する事もないし少し歩くか。
もしかすると誰かに会えるかもしれん。
おじいちゃん、おばあちゃんばっかりだとは思うが...」
(少し吹っ切れた気がするな。)
軽い足取りで歩き出す。
(ってか意外と死んでも現実感あるんだな。
地面踏んだ時の感触がリアルだよ)
それから数時間歩き続ける。
「えっ.....うそだろ? どんだけ続くんだよこれ。
それに足も疲れてきたし、腹も減ってきたよ。
天国でも腹は減るんだな...。」
それからまた数時間、歩くと遠くに森のようなものが見えてきた。
「おぉ、なんか見えてきた。森か? しかし、でっかい木だなぁ。
一本一本が屋久杉みたいだ...
入ってみるか」
そこはまるでジャングルのように木が生い茂り、緑の匂いを鼻いっぱいに感じた。
鳥のような鳴き声も響き渡っている。
(なんか食べれるもの探さないと腹減りすぎてやばい...。水だけでも確保しないとな...。)
飢えた獣のように森を探索するが、食べれそうな物は一向に見当たらない。
食べれそうなものを見つけれたとしても毒があるかないかの判断は出来ないのだが。
(ちょっと待てよ、天国では餓死で死ぬのか俺?)
すると水が流れるような音が聞こえてきた。
「みずの音?川か!よしっ!」
音のなる方に一目散に駆け、目的の水が流れる川を発見する。
これだけ綺麗な森の中にある水はさぞかしうまいんだろう。
そう考えて、乾ききった喉を潤すべく川に近づく。
ゴツゴツした岩場を懸命に進む。
「岩が多いな、歩きづれぇ、とっとっ、とっ。
よしっ!」
「ザリッ」
「ん?」
地面を削る音が聞こえる。
岩が崩れたのだろうか。
軽い気持ちでふと音の発信源を見ると見たことのない猛獣がいた。
虎を思わせるような見た目で、牙は鋭く尖っており、簡単に骨まで砕きそうだ。
毛並みは真っ黒で所々に泥のような模様が付いている。
「ガルルルゥ!」
「うわぁぁぁぁーーーー!」
(なんだこいつやばい!早く逃げないと!)
しかし体は動かない。
少し威嚇されただけで腰が砕け、崩れるように倒れた。
ーーあ、死んだ。
顔前に迫る鋭い爪に切り裂れそうになり、そう確信した。