神殿
目の前に広がる光景は360度、どこを見ても目が霞むほどに輝く黄金で、細かいところまで豪華絢爛な装飾が施されていた。
宝石や装飾の知識がない人間が見ても、神の領域であるのが目に見えて分かるほどの神聖な場所であった。
その神殿の最奥にある一際目立つ座に鎮座するのは、言わずもがな。
唯一にして絶対の神、アスクレーピオス。この世を全てを支配することを許された存在である。
その姿は誰が見ても息を呑むほどの存在感であり、この世界全てを包み込むような雰囲気を放っていた。
だがしかし、忙しすぎるためか、目の下にはくまのようなものがあり、少し疲れたように話し出す。
「きたか、で早速だが、首尾はどうだったのかを聞かせてもらおう」
威厳ある男の問いに白髪の美少女、パナケイアが答える。
「は、はい、父上。 先程日本という国で適性を持つ転移者を探していたら、異常な程の適性を持った人間がいたのじゃ。
これを逃すのは勿体無いと思って、すぐに神器にて転移を致したのじゃ!」
「うむ、そうだな、神器での転生には肉体の転移に対する適性と、転移後の世界に対するある程度の相性がある。
それが異常に高い人間を見つけ、すぐに転移せたということだな?」
「は、はい!その通りなのじゃ!
私たちの使う転移魔法では、世界をまたぐ転移はできないので、神器を使っての転移じゃ。」
「転移後の処置は行ったのか?
日本という国には魔物の類はいないであろう?
当然そんな世界で生きてきた人間には身体能力や戦うすべ、危機察知能力も薄い。
そのままの状態で転移させたところですぐに死ぬのがおちだ。
転移先に設定しておいた場所は周りに人の気配がない場所のはず、魔物が突然襲ってきてもおかしくはないだろう?
まさか、なんのギフトもアイテムも授けずそのまま転移したわけではないだろう?」
「え.............え、えっと.......」
(し、しまった、忘れていたのじゃ、やばい、)
自分の失態に顔を青ざめていると、
ふと声が聞こえてきた。
「父上、発言宜しいでしょうか?」
声のする方に目を向けると、二つの影が姿を現わす。
発言したのは赤い髪の美少女であった。
16歳前後の見た目で
身体が筋肉質で非常に引き締まっており、いかにも体育会系な女であった。
その横にひっつくように立つ美少女は金髪で、赤い髪の美少女とは違い、文系を思わせる。
中学校にいる図書委員のような見た目をした女の子だ。
いずれも、超がつくほどの美少女である。
「よい、話すがいい」
「ありがとうございます。では、話させていただきます。
今回の人間を別世界に送る、つまり異世界転移。それは私たちにとって初の試みであり、重要な案件だと思われます。
その目的は不穏な電磁波を観測した世界、「アドリッツ」を調査すること。
私たちが観察眼で見ることのできなくなった世界です。
私たちが直接現地に赴くには世界を管理する者にとって非常に危険な行為であり、また地上に現界すると弱体化する為、避けるべきことです。」
「うむ、その通りだ。補足すると比較的安全な別世界の人間を使ったのは、魔物の跋扈する危険な世界に長居はしたくない思うはず。
元の世界に帰りたいと願う可能性が非常に高い。頼みの綱は神器を使える、我々、神だけだ。
なので多少知識や力を与えても我々に協力してくれると思ってだ。」
「はい、おっしゃる通りです。補足ありがとうございます。
それでなのですが、そこにいる私の姉を見る限り、適切な処置を取っていないように見受けられたので、現在この場にいない、私たちの長女、アケソーを除き、私たち三人がそれを行うということでいいでしょうか?」
「ふむ、そうだな.....おい、パナケイア、ギフトを授けていないというのは本当か?」
「は、はい、申し訳ないのじゃ、授けていないです。」
「そうか、まあよい、今、その転移した人間は生きているか、パナケイア?」
「は、はい、まだパスが繋がっているので生きています。」
「それならよい、では、早急にお前たちでギフトを授けよ、手遅れになる前にな。」
「「「はい!」」」