~破局の地球(ほし)~
一章 災厄を生むもの
地球、太陽系の中で唯一生命が生存できる環境が整っている青色に輝く小さな星。
そこで繁栄する人類という生き物は、動物と違い、生命の進化の上で優れた知性、理性そして社会性を持って文明を築いていった。そのためには地球の限りある資源を確保し、有効利用する必要があった。以来人類は地球を「母なる地球」と呼んで崇敬し、お互いに共存し合える関係を築いていった。
ところが、時が進むにつれて人口が急増し、それに伴って地球の限りある資源を確保するスピードと人間社会が排出した大量の温室効果ガスと二酸化炭素が地球の大気に悪影響を及ぼし、「地球温暖化」を助長させ、寒熱波や台風等の様々な異常気象が多発した。
しかし今、人類と地球の共存のバランスと双方の「絶対的な関係」が破局を迎えようとしていた。
時は2015年3月11日午後1時15分。愛知県知多半島南沖百四十キロメートル、静岡県伊豆半島南南西沖百八十キロメートルの太平洋の海底を震源とする東海地方太平洋沖地震が発生。南海トラフで観測史上最大のマグニチュード9.5の非常に強い地震が発生。静岡県沖から南海まで200キロメートル、東西約210キロメートルの広範囲が全て震源域だった。最大震度は、静岡県御前崎市、愛知県田原市、豊橋市、南知多町、三重県志摩市、南伊勢町で観測された震度8で、神奈川、静岡、愛知、三重、和歌山の五県五四市町村で震度6.5を観測。家屋やビルがプリンのように左右に激しく揺れた。この地震の強い揺れにより、いくつもの変電所や送電塔が倒壊。
このため静岡、愛知、三重、和歌山の四県で大規模な停電が生じた。また地震の揺れは沿岸に立地する全ての火力発電所及び石油コンビナートを破壊し、近くにあった断線した電線が至る所に漏れたガスに引火。大爆発を起こし、たちまち炎は広範囲に拡大。激しい揺れの中、人々は何が起こっているのか分からぬまま悲鳴を上げながら逃げ惑う。
それから3分後の午後1時18分。海洋プレート内地震の最大の特徴で最も恐ろしい現象である津波が襲ってきた。高さ七メートル時速50キロメートルの第一段階目の大津波が神奈川、静岡、愛知、三重、和歌山の沿岸部まで押し寄せる。本来ならば大津波警報は発令されるはずだったが、地震が引き起こした大規模な停電により防災無線設備が機能せず、警報が発令されなかった。
その結果、大勢の人々が逃げ遅れて数分後に襲来した第二段階目の津波の情報を知ることなく、逃げ遅れた人々を含む沿岸部の地域全体を容赦なく飲み込んでいった。
被害を受けたのは大勢の市民や町だけではなく、静岡県の御前崎原発、愛知県の田原原発、豊橋原発、三重県の志摩原発の四つの原子力発電所もそうであった。各発電所の地下に設置された主要電源設備、非常用電源設備、燃料タンクが海水に浸かって故障した。
これにより、全体的な電力喪失に陥り四基全ての原子炉が冷却手段を失ってしまい、破損。冷却されなくなった燃料がメルトダウンを起こし、溶融した燃料集合体の温度が急上昇し、やがて高熱で圧力に耐え切れなくなって原子炉ごと爆発。建物に大きな穴が開き、そこから大量の放射性物質が漏れだした。外気に放出された放射性物質は広範囲に拡散。後に、原発を中心とした半径十キロ圏内は立ち入り禁止区域として指定されることとなった。
この大震災で、大津波を伴い、死者35万5千人という壊滅的な被害をもたらした。約3千人もの人々が運よく避難することが出来たが、この出来事が記憶から消えることは一生ない。特に被害の大きかった静岡県、愛知県、三重県、和歌山県、徳島県、高知県では、津波によって沿岸部に位置する全ての町が津波で流された。
更に、これらの県では至るところで大規模な火災が発生。これにより被災地では大規模な停電が発生し、あらゆる通信機器が機能せず、災害の情報を正確に知ることも出来なかったため安全な場所への避難を遅らせることとなった。また、この大震災で四基の原発が破壊され、周囲に放射性物質を拡散させたため、日本の歴史に残る「戦後史上最悪の原発事故」としてメディアやニュースで大々的に取り上げられた。
この大震災以降、日本国民だけでなく世界の人々が原発を危惧し、原発の早急な廃絶に向けての反対運動が活発化したが、これでは国のエネルギー供給率が大幅に下がってしまう恐れがあったため実際のところ停止しておらず、稼働中だという。
西日本大震災のニュースはすぐに世界中で報道された約3か月後の6月。イギリスのロンドンで急遽第五回G20サミットが開催された。主な議題は、原子力発電に代わるエネルギーの模索と最新の原子力爆弾を運搬し、中国の上海と北京に墜落したアメリカのステルス爆撃機の処理問題の二つであった。
話し合いの結果、月の「ヘリウム3」の採掘という答えに辿り着いた。急激に進む地球温暖化を阻止するためには石油の使用を制限せざるを得ない。その上、埋蔵量にも限りがある。一方、月に大量に存在するヘリウム3を新たな核融合の材料として使えば、従来の原子力より発生するエネルギーを遥かに上回り、放射能も少ないため比較的扱いやすいことが主な理由だった。
だが、これが更なる絶望を呼ぶきっかけになることを人類はまだ知る由も無かった。